理学療法士になったきっかけ
ーー 理学療法士になったきっかけを教えてください。
諸橋先生 中3の時に大工をしていた義理の兄が、仕事中の事故で手関節の上から切断してしまいました。そして、その当時の最先端の治療で、完全に切断した手を再接着する手術を受け、驚くことに不十分ながら指が動きだしました。
その時の治療技術やリハビリ治療を目の当たりにして、理学療法という仕事を知りました。リハビリは障害を持った人のためになり、やりがいのある仕事だと思いこの道に進むことを決めました。
はじめに勤めたのは国立療養所箱根病院で、脊損や神経難病を専門に治療していた病院です。新卒で20人の患者さんを担当して、そのうち14~15人が脊損(四肢麻痺、両下肢麻痺)、その他は脳卒中と神経難病の患者さんでした。
若い脊損の患者さんから日常動作の事はもちろん、性的な悩みなども相談され、屋外訓練と称してご飯を食べに行ったりしました。
新人のこの時期に、本当に患者さんと人としての付き合いができたことが私の貴重な経験となりました。今では考えられませんが、私が退職する時に、患者さんやそのご家族が私に内緒にしていて、突然送別会を開いてくれました。
本当に懐かしくも、思い出すと顔がほころんでくる素晴らしい体験でした。
先生になるなよ
諸橋先生 今考えると、その当時は理学療法士と患者さんという関係ではなく、患者さんにいろいろ教えてもらっている感じでした。良くも悪くも、自分が教えているっていう関係がなかったですね。
「私は教える人、あなたは教わる人」、また、「私は治療する人、あなたは治療される人」という限定した関係は時には適切ではない場合があります。
これはあるテレビ番組の話ですが、離島の小学校の校長先生が退職する日に、今後その小学校を背負っていく1年目の教師に「先生になっちゃいけないよ!」と声をかけていました。
つまり「先生」という立場に身を置いたとたんに「生徒」としてしか見られなくなる。「1人の人として見ることが出来なくなる」とその校長先生は言いたかったと思います。
まさに、理学療法士も一緒だなと思いました。理学療法士って意識したとたんに、患者さんを「人」、「社会人」としてじゃなく「患者さん」としてしか見なくなるんですよね。
私の一年目は変なプライドがなく、患者さんと自然にお付き合いできました。しかし、年々知識が増えていくとそういう関係が出来にくくなるので、それが嫌だなと思いました。
出来るだけ患者さんが気を使わない様な場作りや節度を持ったフレンドリーな対応を心がけています。
「患者さん」か、「患者さま」か
ーー 「患者さん」か「患者様」か、呼び方に関して度々議論になることありますよね。諸橋先生はどう思いますか?
諸橋先生 私は「患者様」まで言わなくていいと思っています。ただその問題の大事な点は、第三者が見た時にどう感じるかだと思います。
患者さんは一日に何時間もセラピストと一緒にいるから気にしないかもしれないけど、ご家族さんとかが、「呼び方」に違和感を覚えることはあるかもしれません。
私自身は、「患者様」というと患者さんが少し遠い存在に感じられます。私の職場では「患者さん」で統一していますし、療法士は上司、部下でも「さん」づけで呼び合っています。
ある程度の決まりを作っておいて、「うちの病院ではこういう風に決めています」と言えるような職場の文化であれば、呼び方はどちらでもいいと思います。
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諸橋 勇先生経歴
昭和59年理学療法士免許
国立病院、労災病院、東北大学病院を経て、現在いわてリハセンター勤務
東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻 修士課程修了
【その他】
日本神経理学療法学会 運営幹事
青森県立保健大学臨地教授
山形県保健医療大学臨床教授
専門理学療法士 (神経)
認定理学療法士(脳卒中)
【著書 分担執筆】
(編集、執筆)
他、多数。