【JRAT】熊本地震で浮き彫りになった課題|災害医療・リハビリに関わる理学療法士

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個別対応が、避難所における自立支援を阻害

加藤太郎先生(以下、加藤) 熊本地震では、JMAT(日本医師会災害医療チーム;Japan Medical Association Team)やJRATとして活動をしていました。

 

災害時のリハビリテーションはいわゆる「生活不活発病予防等の健康管理」が基本となります。避難所や仮設住宅といった環境のなかでいかに「自立支援」を果たせるかがとても大切になってきます。

 

病院のなかでの個別対応のリハビリテーションではなく、介護予防の支援に近いと思います。「被災者を寝かせてストレッチ」といった病院と同じ個別対応が、避難所における自立支援を阻害したと熊本地震での派遣中に実際に言われました。

 

災害リハビリテーションの概念を正しく理解し、自立支援を実践できるようになるにはこれからでしょうね。私も経験と研鑽を積む必要があると思っています。

 

ーー 災害医療に関わるにはどのような準備が必要ですか?

 

加藤 災害医療・災害リハビリ関連の書籍が増えてきてはいますが、やっぱり自分で学ぶのは大変ですよね。いま、各県士会でマニュアル作成や災害リハビリテーション研修を進めています。各県士会の災害対策委員会を通じて、学ぶ機会が増えてくるのではないかと思います。

 

災害医療のなかで、リハビリテーション専門職が加わるのが当たり前の時代になりました。蘇生教育と同様に災害医療・災害リハビリテーションが浸透し、本当の意味で理解され実践されるようになることを願っています。

 

そのための勉強や学びは私も継続していますし、これからも続けていきます。

 

加藤太郎先生に直接お話が伺える講習会のお知らせ>>

【令和2年1月11日】胸郭の機能解剖学的アプローチ 〜ローカルマッスル機能の再考〜

 

「理学療法士」の専門性

 

ーー 先生にとってプロフェッショナルとはなんでしょうか?

 

加藤 私は言葉の定義を調べるのがすごく好きで、プロフェッショナルの意味を前に調べたことがあります。簡単にいうと「職業」とか「専門家」のことだそうです。なので、私たちは理学療法士という資格を持って働いている専門家なので、すでにプロフェッショナルなんです。

 

ただ、プロフェッショナルという言葉の中には「一つの専門的職業または一つの専門的職業に従事している人に特徴的な、あるいはふさわしい“さま”」というのがあります。”さま”というのは「様」なので、まわりから見て「この人は理学療法士だな」ってわかってもらえる”さま”、「様」かどうかっていうのが一つポイントではないかなと思っています。

 

では、分かってもらうにはどうすればいいかというと、まず1つ言えるのが「人に分かる結果を示す」ことだと思います。

 

いまの世の中、白衣を着ていたらマッサージ師と理学療法士を区別できる人って少ないのではないでしょうか。理学療法士はマッサージ師と柔道整復師は違いますし、法律的な部分をみても、「物理的手段を用いて、基本的動作能力を回復」させることが出来るから理学療法士なのです。患者さんや患者家族、同職種、多職種にも分かるように動作・動きの回復が出来ることだと考えています。 

 

ーー 専門性は「基本動作」にあるということですね。

 

加藤 患者さんが目指している目標があって、そこまでの結果がでたら当然患者さんは満足します。でも療法士がここまでしかいかないと思っていて、患者さんの目指す目標まで到達させる知識と技術がなかったとしたら、患者さんは不満足だってなりますよね。

 

理学療法士が患者さんの目標を超える技術を持っていたらそれは幸せです。患者さんが思っていた以上に基本的動作能力が回復し、獲得できたのですからね。

 

しかし仮に、療法士も患者さんも幸せだと思っていたとしても、もっと上の療法士の先輩から見たら、もっと良くできるかもしれない。この場合、療法士と患者さんは満足していても、もっと良くなることには気づいていない。この視点で見ると、療法士と患者さんの2人ともが不幸だなと私は思ってしまうんです。

 

そして、その「上」の療法士というのには、きりがありません。

 

自分がどこまで頑張り続けるかだと思っています。プロフェッショナルとして上にいくには、やり続けるしかないんですよね。だからすごく好きじゃなきゃできません。

 

それこそ10年前に私が蘇生教育や急性期のリスク管理に関して、「ここまで理学療法士も見なくちゃいけないんだ」って言っていた時は、まわりにすごく否定されました。

 

でもいつの間にか、理学療法士の新人教育プログラムに蘇生教育も入って、急性期のリスク管理のセミナーも増えました。常識は時や場所、時代、いろいろなことで変わるものなんでしょうね。

 

今は周りから否定されていることがあったとしても、それが自分の信じた道ならば、追い求めて頑張り続けていたら、変わることがあるかも知れません。

 

私も今も走り続けていますし、頑張り続けながら考え続けています。終わりがないのがこの道かなと思います。大切なことは「続ける」ことだと思います。

 

今は「プロフェッショナルとは何か」を答えることはおこがましいと思っていますが、いつかプロフェッショナルが何か分かる気がします。自分が死ぬ直前までこんなことを考え続けていられたら、そのときに初めて何か言えることも出てくるんじゃないかと思っています。

 

加藤太郎先生に直接お話が伺える講習会のお知らせ>>

【令和2年1月11日】胸郭の機能解剖学的アプローチ 〜ローカルマッスル機能の再考〜

 

 

【目次】

第1回:救命救急、心肺蘇生、災害医療に関わる理学療法士

第2回:3.11 東日本大震災とその後の対応

第3回:熊本地震で浮き彫りになった課題と自立支援

 

加藤 太郎 先生紹介

理学療法士 (文京学院大学)

<専門分野> 
・急性期理学療法(急性期における人工呼吸器管理下患者に対する理学療法を中心に) 
・運動器疾患の理学療法 
・呼吸器疾患の理学療法 
・蘇生教育,心肺蘇生法 

【著書】
・88の知が生み出す臨床技術 ブラッシュアップ理学療法(共著,三輪書店,pp114-117.(2012.6))
・ヤンダアプローチ-マッスルインバランスに対する評価と治療-(共著,共同翻訳,三輪書店,担当分(「第1章:マッスルインバランスに対する構造的アプローチと機能的アプローチ」,「第2章:感覚運動システム」 pp1-27.(2013.3))

【論文】
■原著
・呼吸運動時の胸部と腹部の皮膚挙動特性(理学療法科学,28(2):279-283(2013.4)


■調査・報告
・理学療法士における心肺蘇生に関する意識調査-認識度・学習意欲-(日本臨床救急医学会雑誌,16(2):95-98(2013.4)

■総説 
・急性期理学療法のリスク管理-一歩進んだ循環動態評価と臨床応用-(The Journal of Clinical Physical Therapy,13:67-70(2010.12) 
・急性期理学療法のリスク管理 その2-一歩進んだ循環動態評価と臨床応用-(The Journal of Clinical Physical Therapy,14:87-91(2012.10) 
・急性期理学療法のリスク管理 その3-一歩進んだ循環動態評価と臨床応用-(The Journal of Clinical Physical Therapy,15:49-53(2013.4)

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