時代が変われば医学も変わる
関屋先生:森田さん(インタビュアー)は1980年代のバブル経済以降に生まれましたね。1985年くらいまでの日本は、戦後の高度経済成長で産業と経済が右肩上がりに成長する時期でした。
1980年ころには成長が少し緩やかになってきていても、多くの人が終身雇用で継続的に企業に就職して、満足していた時期でした。
終身雇用制度で、企業が一生面倒をみてくれるという安心感、「中流意識」を持つ人が多いいい時代だったと思います。
それが、バブルがはじけて、世の中の仕組みが破綻してしまって、非正規雇用の人がものすごく増えてしまった。若い人がなかなか就職できなくて困っている世の中がありますよね。
いまのまま進んで行くととんでもないことになるだろうし、絶対に世の中はまた変わっていくし、変わらざるを得ない状態になってくると思う。
世の中の変化に合わせて、PTの働き方も必然的に変わってくるのではないでしょうか。
レコード針のいまは?
ーーー先生が教育で心がけていることはありますか?
関屋先生:昔、レコードで音楽を聴いていましたよね。レコード針ってあったじゃないですか。
長岡針という会社が作っていたのだけど、レコードが生産されているときは日本でその業界ではトップの企業でした。それが、CDが出てきたら一気に情勢が変わってしまった。
医学の中でもこれから再生医療が進んできて、いままで治らないと考えられてきたものが治るようになるかもしれない。ロボット工学がどんどん進化して、人に代わってロボットがする仕事が増えていくことが予想されますね。
世の中というのは、20年、30年経つとガラッと変わってしまいます。
私はあまり先見の明があるわけではないので、将来的な見通しを聞かれると困ってしまうのですが。予め予想が的中して全てのことに対処できるとよいとは思いますが、それはなかなか難しいですね.
その時々の状況に対応していかざるを得ないのではと僕は思っています。時代がどう変わっても、それに対応して、生き抜いていくたくましさっていうのが重要になってくるんじゃないかなと思います。
教育に関する悩み
関屋先生:私はPTになる前に機械工学の勉強をしていたことがあったんですけど、残念ながらあまり面白いと思ったことがなかったんです。
最初の仕事を途中でやめてしまったことや、PTの方に進路を変えてしまったのもそのことが一因かもしれません。
でも、PTの学校に入って、人の体や心の仕組みを勉強するのはとても楽しい体験でした。解剖学の授業で、前腕が尺骨ととう骨でできていて、2つの車軸関節によって回外・回内が起こるというのを見て、面白いと思ったことを今でもよく覚えています。
PTになってから、バイオメカニクスに関心を持ち始めて、以前の学生時代には興味が薄かった物理や数学が面白くなってきました。
そんな面白さを伝えられたらいいと思っているのですが、なかなか難しいですね。PTになろうという人で数学や物理に関心を持つ人は少数派ですので。
でも、中には、理系の得意な学生もいて、いろいろと質問してくれる人もいますし、数学や物理は苦手だけど、何とか理解したいと説明を求めてくる人もいます。基本的なことをおそろかにせずに、根本原理を追求しようとする人がたくさん出てくるといいと思います。
あとは卒業してからでも、自分で勉強して道を切り開いていけるような、継続力が学生のうちから身につくといいなと思っています。
交通機関が発達すると世界が狭くなる
関屋先生:欧米をみるとアメリカとかカナダでは大学院教育でPTの資格を得るようになっているし、遠からず、日本もそのように変わっていくのではないかと期待しています。
開業権に関しても、何年先か分からないけどそういう風に変わっていくことを期待したいですね.目指しながらそのための勉強や仕事をすることが必要だと思っています。
また、交通機関が発達してくると世界が狭くなってくるので、日本の中で仕事をしているだけでなく、ヨーロッパ、アメリカに行く人も今までより多くなると思います。
それ以上にアジア・アフリカの理学療法の必要性が高まってくるだろうし、日本の中だけに留まらずに外に出ていってほしいですね。ただ海外の情報を取り入れるだけでなくて、日本のものを発信していくことも大事だと思っています。
先生にとってのプロフェッショナルとは
関屋先生:難しい質問ですね。EBMの説明みたいになってしまうけど、目の前にいる患者さんのニーズに応えて、現在可能な最良の理学療法を提供することができるというのが理想ですね。
でも現実の制約は厳しいですね。そのように努力する人、そのように自分で自分を律することができる人というところでしょうか。
*目次
【第1回】心理学と理学療法学は似ている?
【第2回】結婚すると大学院は大変?
【第3回】時代が変われば医学も変わる
関屋 曻先生経歴
昭和大学 保健医療学部理学療法学科 教授
■著書、訳書
関屋曻:姿勢ー運動学(標準理学療法学・作業療法学)ー. 医学書院,2012,pp.183-207.
関屋曻:歩行ー運動学(標準理学療法学・作業療法学)ー. 医学書院,2012,pp.207-239.
関屋曻:研究のデザインと統計処理.三輪書店,2010. pp.1-234.
Latash ML著,笠井達哉・道免和久監訳:運動神経生理学講義(共訳).大修館書店, 2002, pp.222-239.
関屋曻:正常動作の観察と分析ー臨床動作分析(標準理学療法学)ー.医学書院, 2001, pp.1-44