「木船さんおはようございます!今日もリハビリ頑張りましょうね!!」
清々しい声で 病棟に訪れたのは新人理学療法士(PT)のユウタ。
神奈川県のとある総合病院に就職して半年が経ち、日々の業務に四苦八苦しながらも、先輩に助けられ、同期と色々なことを語りながら充実した日々を過ごしていた。
ユウタは幼い頃から体を動かすことが大好きで、小学から高校までサッカー部で日々汗を流してきた。
その持ち前の明るさと、爽やかな容姿で患者らからも人気があり、勉強熱心で患者のために常に何ができるだろうということを考えている。
そんなユウタがPTになろうと思ったきっかけというのは、高校生の時の自身の怪我からきている。
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高校二年生のある日、ユウタは普段通りサッカー部のトレーニングに励んでいた。その日は県予選の選考も兼ねて、チーム内で練習試合を行なっていた。
ユウタのその日の調子は良く、トップ下の巧みなパスによるアシストと、自身のゴールによって、2−0とゲームをリードしていた。
試合も終盤にさしかかっていた頃、味方からのコーナーキックでゴール前の空中戦で競り合いとなった。
ユウタは果敢にヘディングで点を取りにいった次の瞬間・・・。
「おい!ユウタ!!!お前大丈夫か !?!?」
意識が少しもうろうとする中、監督の叫び声が遠くで聞こえた。
ユウタ自身にも何が起きたのかわからなかった。
その場からしばらく立ち上がることが出来ずに、ただ自分の腰に走る激痛にもがいていた。
監督やチームメイトたちが走り寄り、5分ほどうずくまっていたが、みんなの手を借りながらやっとの事で立ち上がり、肩に担がれながらピッチを後にした。
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あとからチームメイトに聞いた話では、ユウタがヘディングをしに行ったのと同時に、相手チームのゴールキーパーの肩がユウタの左側の脇腹から腰にかけて衝突。
その後ユウタがグラウンドに叩きつけられるように落下したとのことだった。
「お前大丈夫か?家まで送てってあげようか?」
監督にそう聞かれたが、ユウタとしても大事な県予選を控えた上での故障で少し気が動揺していた。
「大丈夫です。母に連絡したのであと少しで迎えにきてくれますから。ありがとうございます…。」
その夜、ユウタは疼く腰の痛みに寝付けず、寝返りをうっては腰に走る激痛に悶絶していた。
おそらく眠れたのは小一時間ほどだろうか。
深い眠りが全く確保できなかった翌朝、ユウタは腰の痛みによりベッドから動くことができず、仕方なく学校を休んだ。
「ユウタ大丈夫?お医者さんに診てもらう?」
母にそう聞かれるも、夕方には痛み止めと湿布によりなんとか部屋の中を歩くことが出来るまで回復していたため、その日は母の提案を断り、家で安静をとることにした。
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あの怪我から数日経ち、日常生活は少しずつ出来るようになってきたものの、未だに腰を曲げると誰かにナイフで刺されたかのような鋭い痛みが腰から右足にかけて走る。
また、最初の数日は右足のふくらはぎと太ももの裏側の部分に痺れのような感覚を覚えたが、それも徐々に良くなってきていた。
しかし、県予選を数週間後に控えていたユウタは、未だにトレーニングに戻ることができずに不安を覚えていた。
「お母さん、僕やっぱり病院行こうかな。」
一週間経っても未だに痛みが続くため 、母と一緒に近くの総合病院を受診することを決意した。
病院の中は患者たちで溢れかえっており、白衣を着た様々な医療職のスタッフが忙しそうに歩き回っていた。
風邪を引いても滅多に病院に行くことなんてなかったユウタは、ほぼ初めてといっていい病院での受診に、少しドキドキしながら自分の番を待っていた。
「佐藤ユウタさん!中へお入りください!」
自分の名前が呼ばれ診察室の中に通されると、そこには、50代後半ぐらいであろうか、銀縁メガネに白衣を着た、いかにもDr. といった感じの男が座っていた。
「佐藤ユウタくん?高校生なんだ。今日はどうしたの?」
少しせかせかした口調で医師が語りかけた。
「はい。えっと・・・。一週間前にサッカーの練習中に腰を痛めてしまって。それから少しは良くなってきたんですけど、まだ腰を曲げたり走ったりできなくって。」
「そうなんだ。ちょっと腰曲げてみてもらえる?どっちの方向に行くと痛いの?」
「えっと・・・どうでしょう。前に曲げると痛いんですけど、ひねったりとかもやっぱり痛いんであんまり試してないです。」
「痺れとか足に痛みはある?」
「そうですね、最初の数日はあったんですけど、今はだいぶ良くなりました。」
「怪我した時に他の人と接触したんだっけ?とりあえずMRI出すから、また結果が出たら後日来てもらえるかな?」
「わかりました・・・。」
その日は、痛み止めの薬と湿布をもらって病院を後にしたユウタは、自分の腰に一体何が起こっているのだろうか、これから練習はどうしたらいいのだろうか、という不安で頭がいっぱいになったまま家路に着いたのを覚えている。
「MRIでなんか見つかるといいわね。」
母にそう言われるも、不安な気持ちで頭がいっぱいなユウタは、「そうだね。」と空返事をすることが精一杯だった。
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