リスクが増えるのは患者さんが良くなっている証【日本作業療法士協会 会長|中村春基先生】

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OTを目指したきっかけ

ー  先生が作業療法士(以下,OT)を目指したきっかけは?

 

中村会長 愛知コロニーに姉がいた。高校の時に2日ほど遊びにいった。重症心身障害児の施設だったんですけどね。食事介助のボランティアをやったんです。そこでリハビリテーションという仕事を知って「へぇー」と思った。

 

ー そこにOTがいらっしゃったと。

 

中村会長 いえ、理学療法士(以下,PT)でした。とっても有名な方ですよ。私が通っていた近畿リハビリテーション学院にも講師として来られていました。なので、私がPTやOT、リハビリテーションを知る全てのきっかけはコロニーでのそういった経験からですね。ただ、その方のようにPTになっていたら全然違う道を歩んでいたでしょうね。

 

ー それはどういった意味でしょうか?

 

中村会長 まぁ少なくとも会長という職種ではなかったでしょうね。

 

ー そうなんですね。先ほどの話に戻りますがなぜOTなのでしょうか?PTという選択肢はなかったのですか?

 

中村会長 なれなかったことはないんですけど、自分に合っているのかなと思うのは作業療法だったんですよね。

 

ー PTとOTで何か違いは感じますか?

 

中村会長 近畿リハビリテーション学院で教員をやって、兵庫リハで臨床をやって、その後協会に入りましたが、その間PTもOTも面接する機会が何度もあるんですね。

 

PT、OTの層の違いっていうのは頭がいいとか、体育会系とかではなく平たく言えば理系と文系で分けられるのかなと思いますね。思考的にですね。昔と違って、今はPTも生活を見ていますので、PTかOTかの境界は特に地域ではわからなくなっていますね。

 

OTの教育について

ー OTの臨床教育として感じになられていることはありますか?

 

中村会長 よく臨床を見ると、患者さんが生活上でいっぱい困っていることを発信しているのに、それをキャッチしないんですよ。スルーしちゃっているんです。患者さんが「トイレに困るんです」って言った時に、それをスルーしちゃう。

 

患者さん自身はトイレが困ると言った時に夜のトイレが困っているとか、生活上のことを言っているのに、若いOTがトイレの問題と考えた時に「トイレまでの移動」や「トイレ動作」としてしか考えない場合が多い。

 

ー 断片的にしか捉えていないと。

 

中村会長 例えば、トイレ動作で他の人に迷惑をかけてしまっていると思い悩んでいるかもしれないわけです。つまり「トイレに困るんです」という言葉の裏に、その人の生活とか背景があるんですけど、そういったことがキャッチできないですよね。

 

ー そういう意味では、評価についてもう一度考える必要がある気がします。先生はどう思われますか?

 

中村会長 関節可動域、筋力、そういったものはもちろん大事です。でも考えなきゃいけないのは、それが患者さんの生活にどういう影響を与えているのかのイメージを膨らませないといけないんです。だから、関節可動域制限があった場合に「こんなことが生活で困りますよね?」、「もしかしたら今後こんなことで困るかもしれませんね。」と予測してあげる。

 

そうすると、「そうなんですよ。なんでわかるんですか?」となります。こういったことをきっかけに信頼関係が築けて、堰をきったように色々な悩みを話してくれるようになった経験はたくさんあります。「この人私のことをわかってくれているんだな。なんとかしてくれようとしてくれているんだな。」と。若手が関節可動域の問題をみても、そういったことができない場合が多いんですよね。そこのところは何とかしないといけません。

 

ー 経験による影響もあるのでしょうか?

 

中村会長 OTは3年くらいまでは使い物にならないと思っています。患者さんの生活をどれだけ身近に感じて、どれだけ身近に伝えられて、その中で自分自身が患者さんに何ができるかをイメージできて、それをきちんと「納得」してもらうようになる。3年たってやっと、患者さんどうかな?と思えるようになって「納得」してもらうための方法を自分でつくれるようになると思います。

 

ー 「納得」ってのがキーワードだと感じています。説得とは違いますよね。

 

中村会長 そう思いますね。ただ、今の若い人と我々の世代の若いころの大きく違うところは、昔は長い付き合いができたんですよね。患者さんを追っかけて見ることができていた。退院されて、3ヶ月-4ヶ月後に隠れて見に行ったりしていましたからね(笑)。

 

普通にやっていました。自分のやった仕事が、自分の成果としてフィードバックがかけられる。制度的には全くありませんでしたけどね。今、長い人なんかは20年以上つきあっていますからね。こちらも経験を重ねるたびに、「あの時、こうしておけば今こうなっていたかもしれないな」と思うわけです。それってやっぱり一人の患者さんをずっと追っかけてみてこられたから得られる経験だと思うんです。そういった経験が自分の作業療法に反映してきたわけです。

 

ー なるほど。その点で言えば今の病院勤務セラピストだと介入時期によって役割が決まっていてなかなか一人の患者さんをずっと関われないんですよね。

 

中村会長 時代とともに、効率的な制度にはなりますね。でも、やはりOT教育が今後どうあるべきかと考えた時に、「自分のもった患者さんを、最後の生活までしっかり追いかけられるような仕組みが必要かと思います。」それで、今うち(兵庫リハ)がやっていることが、退院後訪問を結構やっているんですよ。

 

ー 私の経験としても、一人の患者さんをずっと追いかけていくのは特に若いころは貴重な経験かと思います。それによって軸ができるというか。

 

中村会長 そうですね。結局は自分でやったことが、患者さんの生活を見ることでフィードバックとして得られますからね。そういった経験で自分のいいところと悪いところがわかり、次につなげられる。そういった体験が患者さんにも伝わりますね。だから、そういう仕組をつくらないといけないんですよ。

 

ーー 私もそう思います。

 

中村会長 私ね、リウマチの患者さんともう30年以上つきあっているんですよ。ほぼ、私のOT経験ずっと付き合っているわけですよね(笑)。ご両親の葬式に参列させて頂いたり、特養をどこにするかの相談をされたりもしています。たぶん、私のことをOTと思ってないんだと思いますね。

 

ー 家族みたいな関係ですね。

 

中村会長 そうかもしれません。でも、そういった経験を積むようなフィールドを作っていかなければいけないなと思っていますね。

 

今後にむけた取り組み

中村会長 それで、今年診療報酬改定でつくって頂いた、回復期リハビリの入院前後一週間の訪問する仕組みは、最初どこも反対だったんですけど、「絶対にいい」と何年間もいってきて、最終的には『OT頑張れ』となった。あれはリハビリがきちんと在宅に向かって治療しないといけないという強いメッセージを示したんですね。

 

だから、今在宅の生活が”わかりにくい”人が多いのは病院の中でしか考えてやっていないからです。最初に在宅の目標をみて情報を共有して、今何をすべきかを明確にする。そういう構造に変えたら、きっと違うことをしないといけなくて、だから何をしないといけないかを見える化しようということで、そういう仕組みをつくった。

 

ー そうだったんですね。

 

中村会長 さらに、今考えているのは、例えば今は一日9単位までできますよね?でもOTはそれを全てやらなくていいから、9単位のうちの数単位は適応訓練という自主訓練の形でやって頂いてその分の単位を少し訪問に回したいんです。

 

できたらはじめに在宅を見て、一生懸命病院で機能回復をする時期がある。それをしてある時期がきたら、退院後にむけてアプローチをしていく。そこに「自宅で」あと一ヶ月間何をしていくかを考える。単位をこの部分で満たせるようにしたいんです。

 

病院の療法士が気をつけること

ー 私は今介護保険分野で働いているのですが、患者さんは病院で療法士に言われたことは良くも悪くも本当に覚えています。良いことであればいいのですが、ショックだったことも鮮明に覚えていらっしゃることが多い印象です。

 

中村会長 残っているでしょうね。これも例えば脊損の方だと今の医学だと機能回復の限界がある。それをいつまでも「絶対治ります」と言い続けるのもどうかと考えなければならないですよね。

 

一方で脳卒中の患者さんで在宅にいらっしゃる方で、「自分はもう麻痺は治らないってリハビリの先生に言われたので」と言って、動けるのにも関わらず動こうとされない患者さんもいらっしゃる。だから、パッといってしまった一言で相手が本当に傷つくということを予測しないといけないんです。

 

ー 話をする時に「この疾患だからこうだ。」ではなく、相手の性格までをしっかり考慮した上で言葉を選んで話をしないといけないということですね。

 

中村会長 そうですね。それと「在宅の土台づくりが病院でのリハビリ」という視点でやっているかどうかも、今言った話や先ほどの話に関連しますね。なるべく「依存」させないようにというのも大事ですよね。

 

でね、おもしろいのが病棟で動きすぎて問題があるような患者さんのほうが、自宅では自立していることが多いんですよね(笑)。一方、ちゃんと病棟で「いい人」をされているような方は、あまり良くなっていない印象がありますね。あくまで経験ですが。これも「依存」させないという意味で一つの例かもしれませんね。

 

ー 確かにそういう経験ってあります。そのようなことは家族さんによってもあるように思います。

 

中村先生 ありますよね。やっぱり依存させないというのが一番ですね。例えば高次脳機能障害で半側空間無視があるような人がOTと歩いている時に、椅子がさんらんしていたらどけちゃうんですよね。ほとんどの人は。

 

ー 一見患者さんのためにリスク管理をしているように見えますが、それが良くないということですね。

 

中村会長 そうですね。大事なのはそこで安全面に配慮しながらも、椅子をどけるという行為じゃなくて、椅子にぶつかってしまったリスクを考えながらそれをどういう形で学習させるかという考え方なんですよね。

 

ー 環境に適応をさせていくためには重要な考えですね。

 

中村会長 それで、机の検査のみで「無視しているから問題だ」といって、その後机上の課題で解決しようとしてしまうOTが多いんですよね。でも、それは違うでしょうと。例えば先ほどの例で言えば「生活の中でイスにぶつかる」という経験が、その後のその患者さんにとってはかけがえのない学習となるかもしれないわけです。

 

そういう意味では“バリアアリー”という、常に変わる環境の中で、その人がどういうところに気をつけなければいけないのかを気づかせてあげることが重要なんですよね。

 

ー そうですよね。

 

中村会長 僕は、それが土台づくりだと思うんですよ。そういう視点でみて、家の構造はどうなのかとか、周りの家の環境はどうか、生活の習慣はどうなんだとかを見ていく。

 

そしてそういう環境も加味して、患者さんに適切な刺激を意図的に与えるか。許容できるミスをどうやって企画していくか。でも、それで怪我させてはいけないので、ぶつかって転倒させないけど、ギリギリまで待つ。ギリギリで支えるような気持ちでいる。それがないと本当にその人のためにならないと思います。

 

ー 結局は最終的にどれだけセラピストから離れるかということですね。

 

中村会長 そう、どれだけ手が離せるかですね。

 

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 中村春基先生経歴

所属先:兵庫県立リハビリテーショ中央病院
昭和52年(1977)3月国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院卒業
昭和52年(1977)4月兵庫県社会福祉事業団玉津福祉センター附属中央病院
昭和59年(1984)4月国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院
平成 6年(1994)4月兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院
平成18年(2006)4月兵庫県立西播磨総合リハビリテーションセンター
リハビリテーション西播磨病院
平成22年4月 兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院
リハビリ療法部部長


【社会的活動】
(社)日本作業療法士協会会長
義肢装具学会評議委員
(財)訪問看護振興
財団評議委員
作業療法ジャーナル編集委員


【著書】
脳卒中の在宅リハビリテーション (在宅ケアハンドブック)(編集責任者)
作業療法各論 (リハビリテーション医学全書 (10))
筋骨格障害系理学療法学 (系統理学療法学)
義肢装具 (理学療法MOOK (7))
作業療法のとらえかた(糖尿病に対する作業療法)

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