英語は必要? 【WCPTNewsを翻訳|水家健太郎先生】 #2

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言葉の壁

私たちセラピストは日本で、日本語の教科書と授業で学び、日本語で国家試験を受け、日本語で仕事をしています。日々、英語を使って仕事をしている人はほとんどいないと思います。それなのに英語で書かれたWCPTの資料を読んでみよう、と提案されても実行できないでしょう。簡単にできる事なら、私が提案しなくても、すでに多くの人がやっているはずです。

 

それでも私はWCPTのウェブサイトを定期的に見て、世界の理学療法・リハビリテーションのトレンドに敏感になって欲しいと考えています。そこで考えたのがWCPT newsの翻訳活動です。不定期に配信されるニュースは、WCPTの活動、各国で行われる国際的なイベントのレポート、学会の案内、革新的な活動をしている団体の紹介など、様々な話題を提供してくれます。それが日本語で配信されれば、それを読み、考え、議論し、新たな行動を起こす人もいるでしょう。

 

翻訳したニュースは現在、私が運営するブログで公開しています。より多くの人に読んでもらうためにSNSも活用して宣伝しています。SNSを上手く使えば、普段のアクセス数の10倍ほどまで閲覧者を増やすことができます。とは言え、セラピストの母集団から計算すると1%にもまだまだ達しないのが現状です。どれだけの人に読んでもらえれば十分とするのかという明確な数値目標はありませんが、感覚的には10人に一人や、一職場に一人くらいは読んで欲しいな、と思います。

 

翻訳プラスα

 

WCPT newsを日本語にして配信するにあたり、著作権(翻訳権)がWCPTにあるので、WCPT事務局に直接、翻訳許可申請をしました。その時のやり取りの中で、「翻訳することは大歓迎。JPTAと連携してより多くの日本のPTにニュースを届けて欲しい」、と言う事を言われました。今後はJPTAのウェブサイト内にニュースを掲載する予定です。誰もが読める形でWCPT newsをお届けできるよう、これからも色々工夫をしていきたいと思います。

 

翻訳していると、私も知らない新しい知見がいつもあります。セラピストとしての可能性を広げてくれる発見が皆さんにもきっとあるでしょう。是非そのような発見をWCPT newsを通じてしてください。そのために私ができる協力の一つが翻訳ですが、それだけでは不十分、不親切だと感じています。日本のセラピストには馴染みのない言葉や分野もあるため訳者注を付ける必要があると考えています。

 

私のブログで翻訳記事を見ていただいた方はもうお分かりだと思いますが、まずは用語解説を付けています。日本語にしにくい単語や、日本語にしても分かりにくい部分には、私の分かる範囲もしくは調べられる範囲で説明を加えています。

 

英語は必要?

 

原文のまま読める人は私の翻訳を読む必要はありません。英語を仕事として使うほどのレベルではなく、完全な翻訳を提供できていないからです。通訳や翻訳を仕事としている人は相当量の訓練を受けています。

 

そのような英語のプロでは私はありませんが、翻訳の勉強を独自にしています。可能な限り分かりやすく自然な日本語になるよう努力して生み出されたものだとご理解頂ければ幸いです。

 

日本では義務教育の中で英語を教えています。しかし、前述のように日常生活やほとんどの仕事では、日本語でなんでもできてしまうので、習った英語をすぐに忘れてしまいます。果たして、それでいいのでしょうか?

 

私は「英語はできた方がいい、しかし実際なかなか英語の勉強まで手が回らない」という人が多いと思っています。そんな人の手助けになるように、原文に使われている英語表現の紹介と解説を付けています。私の拙訳を読まなくても、原文のまま情報収集できる人が増えればいいな、と願っています。

 

翻訳は難しい

 

私の翻訳は「自然な日本語」になるように気を付けていると述べましたが、不自然な日本語を皆さん見たことはないですか? セラピストなら誰でも持っていると思われるあの有名な筋力検査の某テキストには、不自然な日本語が多くあります。よく売れているらしい運動学の某テキストにも、意味不明な日本語が散見されます。外国語で書かれたテキストの日本語翻訳版はほとんど、悪文のサンプル集と言っても過言ではないでしょう。

 

私は学生時代、テキストに書かれた文章を一度読んだだけでは理解できず、何度も同じ所を読んで、前後の文脈からも推測して「きっとこういう事か」と解釈して、次の文を読み、また意味が分からず読み直すことになり…。「自分はなんて理解力がないんだ」とテキストを読んでいると思いました。

 

しかし、翻訳の勉強を始めてみて気がついたのは、私の問題ではなく翻訳者の問題だと言うことです。翻訳者の多くはその道の有識者であることは間違いありませんが、翻訳の訓練を受けていません。

 

今思い出してみると、学生の時、教員に「この文はどういう意味ですか」と質問すると、原著を取り出して説明してくれました。修飾語がどの言葉を説明しているのか分からず原著に頼るという例が多いように思います。また原著には書かれているのに翻訳されたものを見ると割愛されている項目があったりもします。割愛に関しては翻訳の技術などの問題ではなく、翻訳者としてあってはならないことだと思います。

 

人工知能の活用法

 

今、何かと人工知能による翻訳サービスが話題になっています。しかし、現時点では自然な日本語に訳出することは困難なようです。ただ、翻訳された(悪文だらけの)テキストを使って勉強してきた私たちにとっては、人工知能による翻訳であっても十分許容できるのではないかとも思います。

 

これにより、英語で書かれた論文でもある程度読むことができるのですから、情報収集の範囲が大きく拡がりました。日本のセラピストには是非活用してもらいたいと思います。

 

よく人間と人工知能でどちらが優れているか、という議論があります。私は優劣をつける比較対象ではないと考えています。人間ができない事を科学技術で可能にしてきたのですから、お互い役割が違うはずです。人間とショベルカー、どちらが力持ちか、という議論と似ています。

 

人間は人工知能を上手く活用して、今までは得られなかったものを手に入れて欲しいです。

自己研鑽

 

私たちセラピストは他の職業に比べると甘い世界だと思います。免許さえ取れば「先生」と呼ばれ、他者からの厳しい評価はほとんど受けません。なかなか歩けない患者がいても、「なんでまだ歩けないんだ! いつになったら歩けるようになる!」と怒鳴られることは普通ありません。患者も家族も主治医も「病気の後遺症だ」と諦めます。

 

料理人になろうと思えば、調理師免許を取って終わりでしょうか? 何年も何年も下積み期間があり、やっと人に出せる料理を作れるのではないですか?

 

時には「まずい、こんな物に金を払えるか」と言われたり、客が来なくなるという無言のクレームが来たりします。プロというのはそんな厳しい世界です。

 

医師は英語で書かれた論文を読み、新たな治療法、術式などを仕入れています。常に勉強し、練習しています。それは、厳しい評価を患者や世間から受ける仕事だからです。いい医者のところには患者が集まります。いいセラピストのところにも患者が集まるような仕組みになれば、この業界も大きく変わるかもしれません。

 

医師の指示のもと働く私たちの世界ではなかなかそういう制度にはならないでしょうが、どんな仕組みになっても生き抜けるセラピストになるには、厳しい評価に備えた準備、つまり自己研鑽をしておかなければなりません。

 

最後に

 

外国語の習得は簡単ではありません。私も相当な時間とお金を語学に費やしました。自分への投資だと考えたからそれができたのです。

 

セラピストやその学生の皆さんには、今、自分がやろうとしていることが、「投資」なのか「浪費」なのか、考えることをお勧めします。どんどん自分に投資し、自分に付加価値を付けていって下さい。そしていつか投資して得たものを使って社会貢献をしてください。

 

浪費への誘惑も多いでしょう。たまには息抜きも必要です。

 

しかし、自慢げに恥ずかしげもなく、「今年も何もしないまま一年過ぎた」などと言うようなセラピストにはならないで下さい。患者が払う医療費などには国民の税金が使われています。それを忘れなければ大丈夫でしょう。

 

水家 健太郎先生プロフィール

・2007年
 近畿中央胸部疾患センター附属リハビリテーション学院 卒業
 関西医科大学附属枚方病院 入職

・2011年
 関西医科大学附属枚方病院 退職
 青年海外協力隊(ドミニカ共和国) 派遣

・2013年
 帰国後、大阪の医療法人 入職


・2017年
国際緊急援助隊医療チームに登録
災害医学とリハビリテーション研究会の設立
大阪の医療法人 退職
香芝生喜病院 入職

英語は必要? 【WCPTNewsを翻訳|水家健太郎先生】 #2

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