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【冨田昌夫先生|理学療法士】ボバースとアフォルタ。言葉を知識ではなく運動から捉える

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言葉を知識でなく運動から捉える

ーー そういった経緯があるなんて知らなかったです。一番気に入られた要因はやはり実力ですか?

冨田先生 なぜ向こうが気に入ったかというと、PNFに加えて当時メイトランドのモビライゼーションテクニックがスイスではまだ知られていなかった。

 

日本人ってテクニックを器用にこなすから、今まで治らなかった人の痛みがどんどん変わる人が出てきた。そしたら患者が「マサオ、マサオ」と騒ぎ出して医者があいつ何をやっているんだと興味を持ってくれたんだ。

 

ーー それが認められるきっかけとなったんですね。

冨田先生 普通の職員は無条件で年間3週間の講習を受けさせてもらえた。でも自分の場合はその条件を取っ払ってもらい好きに行けた。

 

だから俺は年間7週間くらい研修に行っていたがとても楽しかったよ。物凄く羨ましがられて、周りからかなり批判も受けた。

 

でも、この時、いろんなテクニックに接することができたことを本当に感謝している。
 

ーー 実力を認められていた証ですよね。その時に翻訳されている「ステップ・トゥ・フォロー」のデイビスさんとかと一緒に仕事をされていたんですよね?

 

冨田先生 デイビスはスイスに行った時に、イルマ学会長が世話役として選んでくれた人だったんだよ。

 

ーー そうなんですね。僕らの世代ではその本はバイブルになっていて、実習でもお世話になっています。あれはボバース系の本のものなのでしょうか?

 
 

冨田先生 ボバースとも少し違うんだよね。基本概念・ベースはボバースだよ。

 

ただどっちかというと『アフォルタ』(冨田先生翻訳のアフォルタに関する書籍:「パーセプション」)という認知系の概念が盛り込まれていて、そういう意味では僕はあれはボバース概念であるがボバース法であるとは捉えていない。

 

ーー 冨田先生がやられている理論のベースはステップ・トゥ・フォローに入っているものになるんですか?

 

冨田先生 それだけじゃないけども、それが多いよね。大きなベースはアフォルタよりだよね。アフォルタは認知に関わる療法だけどいわゆる認知運動療法ではないのよ。皮質を捉えているだけではない。どっちかというと発達概念だからもっと下のレベルからの話なのよ。

 

ーー 古皮質のレベルということですね。冨田先生のセミナーなどでは甲殻類とか、人間以前の生物の成り立ちからお話をされると思うんですが、とても新鮮に感じていました。ただそこに関しては教育ではあまり取り上げられてはいませんが、その辺りを広げていく必要はあると思いますか?

 

冨田先生 自分がデイビスに指導を受けているころは、アフォルタの概念にどっぷり惚れ込んでいて取り入れていたんだけど、「高次脳はおまえにはまだ早い」と言われていた。

 

結局、高次脳というのは、低次脳があってそれがあって初めて高次脳になるんだから、低次脳をわからないやつが高次脳から入ってしまったら逆転しておかしくなるから、もう少しきちんと運動学的な体の動きを勉強してから高次脳をやれと言われたんだよね。

 

 

ーー アフォルタを学び始めたのは日本にいた時ですか?

 

冨田先生 いや向こうに行ってから。アフォルタが訓練室で、だまって治療場面を見ている姿をよく見かけた。患者さんを触らずにじーっと観察していたよ。

 

ーー 臨床心理学士の方なんですか?

 

冨田先生 いや、元々は言語教育に携わっていた人で、訓練室では手を出さずに見ているわけだ。ちょっと重い患者がいると近くで見ているわけよ。

 

面白いおばちゃんだなーと思っていたが、講習会を開いていると聞いて、驚いた。

 

いわゆる言葉屋さんなんだよね。言語をどう獲得していくかを「知的な言葉だけじゃなくて運動から捉えようとしていた人」だったんだよね。

 

ーー 例えばどんなことをするんですか?

 

冨田先生 例えば、「バナナ」という言葉を失語症の患者に教える時に、バナナ剥いて食べたり、触ったりしながら、もしくはその後で、バナナは?と仕向けると滑るという関連語が出やすくなる。

 

生体心理学と一緒で動くことで知覚する。知覚したことが意識に昇った時初めて言葉になる可能性がでてくるんだよ。運動も言語も全部一つに繋がっているんだよね。
 

協会も個人も今こそ"泥臭く"

ーー STは言語を獲得するときにあまり言語を運動と捉えていないと思いますが?

 

冨田先生 してないかもね。ただね、その前提はおかしいんだよ。今やっているのは全て知識から入るから、凄くいびつなんだよね。

 

ーー 知識や理論を盾にて患者さんに"諦めてください"と説明している節もよく見受けられるじゃないですか。そういった部分って増えたように感じるんですよね。

 

冨田先生 いや、「節がある」じゃなくて全部そうなんだよね。一番悪いのよ。知識のみでつめ込まれて教えられるのは。知識というのは統計で正しいということ。統計で正しいという基準は8割。8割で正しいということはあとの2割はそこからズレていますよ。外れていますよということ。

 

つまり、正しいと言われていることにズレている人がいるわけで、それを無視しちゃっている。統計的に言ってあなたはこうだと言っているということは、良い方にしても悪い方にしても2割を無視しているということだよ。2割いるということは大変なことなんだよね。

 

だから、この2割のことも頭に入れておかなければいけない。体験を積んできた人はわかるんだけど、知識で教えられてきた人は統計が正しくなるからそれより上はなくなっちゃうし、目指さなくなる。そうするとゴール設定が物凄く低くなってしまう。患者さんの可能性を探らなくなっちゃうんだよ。

 

 

ー リハビリテーションでいう全人間的復権という、全ての人間に可能性があるのに、統計で知的財産を100と捉えているので、私もその辺は違和感を覚えるところです。それを経験していない療法士が多すぎるということですよね。そういう経験をする場だったり研修だったりが必要なのかもしれないですね。

 

冨田先生 研修もさ、今はどんどん患者抜きの研修になっちゃってる。誰も責任を負いたくなくなっている。今はプライバシー情報の保護やセキュリティーの管理が厳しくなっていて、漏らしたら大変だし患者さんをもし転倒させたりしたらとんでもないことになる。

 

研修なんかで、そういう可能性が増えるんだったらやりたくないよというのが病院の本音。講習会を開かせてくださいとなっても、患者を出さなければね、という風になってしまっている。

 

協会なんかもそういう経験のない人で、スマートにこなしてきた人が多いから講習会やっても、泥臭いことは行わずに業者任せになっている部分がある。自分らが頭でっかちになっているよということを真剣に解決しようと思わないからそれなりに進んでいっている。

 

患者に触れながらの講習、これこそ技術伝達のために本来協会が最も力を入れてやるべきことなんだと思うけど、これは非常に大きな問題だよね。

 

ーー 会員が多くなっていて、技術の可能性とか患者さんの能力を最大限発揮するという点での議論がもっともっと必要になってきている気がします。

 

冨田先生 数が出ているから、職域の拡大をどうするかなどはすごい大事なのはわかる。もちろんそれも大事なことだけども、そもそも技術のない専門職の職域拡大はありえないと個人的には思う。まずは技術を身につけないとね。

 

セミナー1
 

これからの協会の在り方

ーー 介護報酬改定などがあり、療法士の協会は専門性を高めていこうと言ってはいるがその反面で国からのお達しで言われたことをやらざるを得ない部分もあると思います。

 

冨田先生 例えば今「在宅」がある意味では注目されている。でも、考えなければいけないのは”なんで国は在宅を強引なまでに進めなければならないのか”ということ。

 

2025年をピークにしてそこを過ぎたら患者の数はガクンと少なくなるよ。そうすると病院や施設をいっぱい作るわけにはいかない。

 

でも今はどっと増えているんだから病院も入院期間を短くしないと新しい患者さんを受け入れられなくなる。そうすると回復期も入院期間を短くしろと言ってきている。

 

 
これは『患者さんに合わせて言っているじゃなくて、入院させるための計算』でやっている。

 

 
でも重症な人がいるわけだから重症の人を受け入れろと、でも入院期間は決まっている。重症な人は入院期間が一緒ならばゴール値が下がることが多い。それにその後の施設も数を増やせないとしたら、在宅に行くしかない。

 

 
じゃあ国は全面的に在宅を保証しているかといったら、そうではない。在宅に帰ったら誰かが介護する。介護する必要が出たら誰かが家にいなきゃいけないから働かなきゃいけない人が働けない。

 

介護離職も増えるよね。そうしたら経済力は低下するし世帯収入が減る。でも国はその補填はしきれない。そうするとどうなる?

例えば母親が病気になってしまって、子供がまだ学生や新入社員だったら、父親より給料の安い子供が入って介護しないといけなくなる。

 

 
 
それで介護に子供が入ってしまったら、学校中退や就職先がないことも考えられる。結局子供の将来を奪ってしまうかもしれない。

 

そういうことの保証なんて何もやっていない。それで在宅、在宅という。そういう無責任を黙認してしまっている。

 

 
これについては、国の政策だから協会がただ反対してみても、それで変わることはない。

 

しかし、それに応じて動くときには『僕たちは何をしなければいけないの?』ということを打ち出して少なくとも協会ではこうしなきゃだめだよ。というものを出すべき。

 

 
療法士は患者さんがあと1ヶ月で家に帰さなきゃいけないとなったときに、トランスファーできないと家に帰れないときに何をやるか?毎日トランスファーの練習しかしないわけだ。

 

 
トランスファーの練習そのものはある条件設定して立てるようにしているだけ。できない人にはトランスファーさせるために環境設定しましたという。

 

環境設定というといい言葉になるけど、ただ単に捕まるところを補償してバランスの取れない人を帰しただけじゃん。それでは患者やその家族のニーズに答えていることにはならないわけだよね。

 
 
以前は病院でやるべきことを全てやり、プラトーに達したところで退院していた。しかし現在は、今後こうすればこんなふうに変わる可能性があります。

 

だからこうしてください。ということを分かっていただいて退院となる。家族や本人がそれを自己管理として継続しなければ入院中の機能も維持できなくなる恐れがある。

 

 
以前とは比べ物にならないほど患者の自己管理ということが重要なんだけれども若い療法士にはそのへんが良く伝わっていない。このような変化を頭ではなく、体で体験できるような機会を提供するのが協会の大きな仕事なんだよね。

 

ーー なるほど。

 

冨田先生 もしそういうのを望めない協会なら、協会なんてなくてもよくなってしまう。若い子も離れていってしまう。協会も会員数の管理だけじゃなくて、もっともっと切り込んだPTとかOT、STの独自案を練り上げて国に提示しなきゃいけない時期なんだと思う。

 

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 冨田昌夫先生の経歴

【主な経歴】

1968年:茨城大学工学部電子工学科卒業

1975年:国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院理学療法科卒業

同年:神奈川リハビリテーション病院勤務

1981年:スイスバレンツ病院勤務

1986年:神奈川リハビリテーション病院勤務

2003年:藤田保健衛生大学衛生学部看護学科教授。同リハビリテーション学科教授

 

【著書】

ステップス・トゥ・フォロー(翻訳;シュプリンガーフェアラーク東京)

パーセプション(翻訳; 丸善出版)

スイスボール―理論と実技、基礎から応用まで(共著;シュプリンガーフェアラーク東京)

【冨田昌夫先生|理学療法士】ボバースとアフォルタ。言葉を知識ではなく運動から捉える

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