【前編】「部活と同じだ理論」  文京学院大学 教授 福井勉先生

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継続の秘訣

ーー 前回のインタビューで、オリジナリティが大事という話がありましたね。先生は「姿勢や動作のバイオメカニクス」や「皮膚運動学」をテーマに各地でお話されていますが、誰もやっていない領域を開拓するのには抵抗などはなかったのですか?

 

 

福井勉先生(以下:福井) なにかの学びはじめっていうのは、疑問をたくさん浮かび上がりますし、それを解決するために「あーじゃないか、こうじゃないか」と教科書を開いたり考えたりを繰り返しますよね。

 

でも、自分にとって分からないことを続けるにはけっこうエネルギーを使うものです。

 

疑問に思ったことを解決するその作業というのは、とても大変ですし、こんなこと続けていて意味あるのか?という気持ちになることもあります。

 

ーー 先生はそこでどうやって「続ける」ことができたのですか?

 

福井 私がいままで続けてこれたのは、疑問を解決することによって得られた達成感です。

 

具体的には、やはり病院場面だと臨床なんですよね。何か分かった日は気分が上がりますし、これでいいんだなと思えます。毎日続けて臨床していると,なんとなく「くるな」って思うときがあります。多少、おかしな話かもしれませんが、だから今まで続けられた気がします。

 

例えば,膝の痛い人に対して、教科書に書いてあるストレッチを参考に指導するとします.ただ教科書によりますが、エビデンスや根拠があるのかって疑問に思うようなことが書いてあったりしますよね。そのとき、解決策になりやすかったのが力学的なことで,人間工学を勉強し始めました。

 

成長するために

 

ーー いろいろと不安や不満を持っている20代のセラピストも多いようです。そのなかで、「成長」していくためにどのようなことが必要だと思いますか?

 

福井 一つは、テーマをなんでもいいから決めて、長所というのを磨いた方が良いと思うんです

 

多くの人はエネルギーを分散しているというか…エネルギーの向けどころが、自分以外のものに向けられている場合もあります。例えば、不満があってそれが自分の病院の景色や先輩の技術のなさだったり、管理能力の低い上司がいるとか、そういうところにたくさんエネルギーを使ってるように思います。

 

そしたら自己成長の方にエネルギーを使えないのは当然ですよね。今の人たちは,テーマを限定してしまったら、他のことがわからなくなるんじゃないかと、不安を抱いている人がいるみたいです。

 

「部活と同じだ理論」というのを考えたんです。



深く考えずテーマを決める

例に挙げると,高校で部活に入部するのは、4月に決めるじゃないですか。バレーボール部に入ったひとに、あとで「なんでバレーボールなんだ」って質問したって、そんな理由なんて説明できる人の方が少ないもんです。たいして答えなんてないんですよ。

 

自分がこれを高めようとテーマをもってやっている人は、伸びると思うんです。プロフェッショナルに出てる人は皆そうです。寿司職人は、50年もやっていても「まだダメだ」とか。ご飯粒の間にこれだけ空気を入れればいいのかと言っています。

 

テーマを決めるのにすごく苦労していますが、だけど1年後のテーマでさえいつまでたっても決まらない人が多いです。1年先決まらない人に10年20年先のビジョンを決めるというのは無理なことです。でも、そういう人は部活と同じでそんなに深く考えず、テーマを決めてしまえばいいと思います。

 

ーー とりあえず何かを決めてやっているうちに気づけば長所になっている、そんな感じですかね。

 

福井 自分が決めたことを繰り返している人は、そのうち自信が手に入ります。

 

うちの学生に、「来週までになんでもいいから人にサービスをしてくる」という宿題を出しています。それは、まだ一年生だから理学療法の理の字も分からない学生たちにです。何をするのか決めて,決めたことをやってこいと伝えています。店員さんにこっちから話しかけるとか、簡単なことでいいんです。大事なのは,「決めたことをやってくる」ということ。

 

自分が投げた球で、相手がどう投げ返してくるかなんて分からない.予想と外れた球が来たときに「なんでこうだったんだろう」と考える方が大事です。

 

人間って不思議なもので、何か一つのことをずっとやっている人を尊敬する性質があるように思います。毎日一所懸命やるっていうことがかなり重要で、努力しないでもうまくお金が稼げて、努力しないですむ方法とか、不労所得とかそういうこと考えている人もいると思います。

 

でも、そうするとなぜだかうまくいかないものです。人のために一歩一歩継続して続けていくこと。当たり前ですが、それがいま皆さんに伝えたいことです。

 

後編>>「人間工学と皮膚運動学。二本の柱の先に」


 

福井勉先生

文京学院大学保健医療技術学部  教授、文京学院大学大学院保健医療科学研究科、スポーツマネジメント研究所 所長

 *過去インタビュー

【第一回】道のはじまり

【第二回】二人のライバルと高めあったオリジナリティ

【第三回】海外と比較した日本の理学療法士界事情

【第四回】「自信がない。」若手療法士の不安に対して

【第五回】福井先生にとってのプロフェッショナルとは?

[経歴] 昭和大学藤が丘病院、東京都立医療技術短期大学、昭和大学藤が丘リハビリテーション病院主任、昭和大学医療短期大学助教授,昭和大学保健医療技術学部助教授を経て現在に至る。

昭和大学客員教授,茨城県立医療大学非常勤講師

[著書]

整形外科理学療法の理論と技術 ブラッシュアップ理学療法―88の知が生み出す臨床技術

皮膚運動学―機能と治療の考え方

皮膚テーピング〜皮膚運動学の臨床応用〜 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ)

結果の出せる整形外科理学療法−運動連鎖から全身をみる

姿勢調節障害の理学療法 第2版 外来整形外科のための退行変性疾患の理学療法

二関節筋―運動制御とリハビリテーション ザ・シリーズ ザ・歩行 第1版

消っして忘れない運動学要点整理ノート (PT・OT必修シリーズ)

復帰をめざすスポーツ整形外科 スポーツ傷害の理学療法 第2版 (理学療法MOOK 9)

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