これから途上国で働くことを考えている療法士・学生へ #3 |大室和也先生

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Photo:ウズベキスタン国立障害者リハビリテーションセンターの運動療法室。資機材の一部は日本のODAとして供与されたもの

 

仕事面で日本との違いを感じること 

文化や慣習、人付き合いや経済活動など、生活上の違いはどの国で活動していても身をもって感じることです。PTやOTなどが担うリハビリテーションは、生活に即した技術であるため、どの国で活動していても、その国や地域での生活様式を知らなければ良い仕事は出来ないと思っています。

 

私の場合、現在、国際NGOのAAR Japan[難民を助ける会]で活動しており、今は医療場面でのリハビリテーションに関わることはほとんどありません。そのため、今回は青年海外協力隊の経験をもとに、日本の医療場面でのリハビリテーションとの違いをごく簡単に述べたいと思います。

 

私は、2010年から2年間、ウズベキスタンの首都タシケントにある国立障害者リハビリテーションセンターで働いていました。リハセンターとはいえ、患者の多くが整形外科疾患であり、術後は約2週間ほどの入院にて治療を受け退院するというプロトコールが主流で、日本のリハセンターの機能とは大きく異なるものでした。

 

病室は4人から6人部屋が多く、カーテンでの仕切りのない部屋の壁際にベッドが並べられており、広いとはいえない空間でした。看護師による注射や点滴などは行われますが、清拭やトイレの管理など生活に関わる部分は主に患者の家族が担っていたように感じます。地方から入院した患者の家族が病室に泊り込み患者と一緒のベッドに寝ている、ということもよく見かけました。

 

リハビリテーションの部分は、研修を受けた看護師が、物理療法、運動療法、徒手療法を実施していました。生活指導や自宅での継続した自主練習の指導はあまりなされていなかったため、私は、患者に付き添う家族や、担当看護師に対してその内容を教えることが多かったです。

 

しかし、ウズベキスタンの一般的な生活様式や、患者の生活環境についてあまりに知らなかったため、生活指導をするにしても医師や看護師に事情を聴きながら実施していました(実際に目にしてはいないことは想像するしかなかったのですが)。

 

ウズベキスタンにおいては、リハビリテーション分野の伸びしろはまだまだ十分にあると感じながらも、日本との違いから学ぶことも多くありました。食事や日用品を患者の中で分け合っていたこと、術後大変な状況にも関わらず他の患者と談笑し前向きな患者や家族が多かったことなど、みんなで困難を乗り越えようとする「空気」は、今の日本の医療現場には見られなくなった光景かと感じていました。

 

私が協力隊を終え今もNGOで活動を続けている要因の一つには、海外での活動が、技術移転や物資提供の前に、社会生活の根本的な問いをもたらしてくれる「違い」があるからだと感じています。よい悪いではない「違い」を理解することこそ、リハビリテーション分野の展望を明るくすることだとも思っています。

 

言語の習得

Photo:AAR Japanはタジキスタンにてインクルーシブ教育の事業を行っています。私は時折、現地に出張し、地元業者と現地スタッフ(左)とともに学習支援室の工事の進捗を確認しています。使用言語は英語とロシア語(2017年9月18日)。

 

 私は開発途上国にほとんど関係していなかった前職の時から、ほそぼそと英語の勉強を続けていました。大学を卒業してすぐ進学した大学院では、大量に英語の論文を読み続ける毎日。

 

その後就職した病院では、医学英語を中心に仲間内で勉強会を開催していました。今開発途上国に関わる仕事をするようになってみると、細く長くでも、なるべく英語に触れていたその時間は大事だったのかもしれないと感じています。ただ、その頃やっていた勉強は、コミュニケーションツールとしての英語ではなく、知識を得るための勉強でした。

 

 海外で働くには、コミュニケーションとしての英語の習得が必須です。言いたいことが言える、話の要点が理解できるといった話す・聞く力です。

 

私は、2010年から参加した青年海外協力隊では主にロシア語とウズベク語でしたが、その後、リハビリテーション関連のボランティアとして活動したインドでの滞在、(実際には進学しませんでしたが)大学院進学を目指していたイギリスでの滞在というように、英語を使わざるを得ない環境に身をおいたことが、コミュニケーションツールとしての英語の習得に役立ったと感じています。

 

 さらにその経験がよかったのは、英語に対するコンプレックスを軽減してくれたことです。インドやイギリスに滞在中、様々な国の決して流暢ではない人々が一生懸命英語を使ってコミュニケーションをとっている様子に触れたとき、「言語の習得」は完璧じゃなくてもいい、伝えようとすることが大切ということを実感しました。

 

 話は変わりますが、世界各国には、それぞれ現地の言語があります。英語は国際的に通用しやすい言語ですが、活動する国・地域で使われている言語を用いて、現地の人とコミュニケーションをとることは、活動を円滑に進めるためにも非常に重要です。

 

読んだり書いたりと体系立てて学習することも重要ですが、まずは現地の人と現地の言語でコミュニケーションをとることに専念することを勧めます。

 

私の場合も、青年海外協力隊として訓練を受けた時から、現地の活動で使用するロシア語を学び始めました。ロシア語は国連公用語の一つであるように、世界でも広く使用されている言語ですが、私にとっては初めましての言語でした。

 

アルファベット一つ、なんと読んだらよいのかわからないという状態からの習得でしたが、2年間の活動を継続できたこと、また2年の間にある程度習得が進んだのも、来る日も来る日も現地の人とコミュニケーションをとるようにしていたからだと思います。

 

一方、読み書きをおろそかにしていたおかげで、今でも簡単なロシア語の単語を書くことすらできませんが、今の仕事でロシア語圏に出張した際には、タクシーやバザールなどで現地の人との会話を楽しむことができています。

 

 単純な結論になりますが、言語習得のカギは、積極的に使い続けることだと痛感しています。使い続け、コミュニケーションがとれる楽しさを実感したときに、言語の習得も進むのだと思います。

 

 

Photo:タジキスタンで唯一車いすを自作している工房から、インクルーシブ教育のための補助具を納品してもらっています。ロシア語であいさつをするととてもにこやかに応じてくれますが、タジク語がわかるともっと違うのだろうと感じます(2017年9月19日)。

 

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