非麻痺側リハの重要性【川平和美先生| 促通反復療法研究所】

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療法士がロボットに置き換わる時代が来る?

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—— 昨今リハビリにロボットを使用するケースが増えてきていますが、その点どうお考えでしょうか?

 

川平先生:ロボットはですね、使う人間が優秀であれば、ロボットを使うと効果があがります。現在のロボットはまだ不十分な点が多いので、使うほうが上手く使いこなせば、相当良い効果が出ると思います。

 

その操作が不十分だと、どんなロボットでも良い効果は出せません。ですから、療法士がロボットに置き換わる時代が来るかといれば、まったくの間違いです。

 

治療者が優秀になってロボットを活かす、そして治療者にとっても、大量の回数を要する運動補助などは、ロボットに任せて、より微細な調整が必要な点を治療者がおこなうといった使い分けが出来れば良いと思います。

 

もう一つは、どうしてもロボットは、「正常」な運動をベースに作られます。しかし、脳卒中や脊髄損傷の患者さんに正常な運動はできません。

 

「正常」ではなく、その人にとって必要な運動へ近づけようとロボットを細かく操作し、同時に患者さんにも指示して、治療者がそれぞれの患者さんに合わせて使いこなすことが重要だと思います。

 

さらには、不具合な点が出てきたら、開発者や研究者に修正の意見を言えることも大事ですね。現状では「使う or 使わない」の選択しかありません。これからは、患者さんの個別性に合わせて、絶妙にロボットを使いこなすことがとても重要になってくるかと思います。

 

この研究所にも、安川電機の促通機能付き上肢訓練装置が導入されています(上写真左)。

 

健側の強化をしないリハの成績はひどく悪い

—— それでは、これまでの麻痺側に対する治療ではなく、非麻痺側へのアプローチに関して伺いたいと思います。リハビリテーション(以下、リハ)を行うにあたって、非麻痺側機能に対しての治療は、川平法ではどのように考えていますか?

 

川平先生:非麻痺側の機能というのは細かい検討をすれば、健常者と比較して運動機能・技能の低下がありますし、姿勢制御(バランス)の低下があるので、学術的な記述は健側でなく非麻痺側となります。

 

特に、重度麻痺になるほど低下が大きいのです。ですから、麻痺が軽い場合でも健側強化は当たり前であって、筋力だけではなくて姿勢制御や細かい運動技能も訓練しないといけません。

 

そういう点で、健側を強化するというのはリハの基本だと思います。残存機能強化、つまり廃用予防を徹底しない治療は時間経過とともに土台が崩れて行きますから意味がないと考えています。

 

過去の治療成績を見ても、健側の強化をしないリハの成績はひどく悪いのです。患者さんは、良い治療を受けたいと思ってリハ施設へ来ているのですから、その患者さんに治療成績の悪いものを提供することは許されません。

 

現時点で、最善(効果的)の治療を提供することが医療者として当たり前です。特にリハに関しては、内科・外科みたいに、ここの病院の治療に満足できないから別の病院に移ることは基本的はできません。

 

そういったことを考えると、患者さんの信頼に応えるために、現時点で最善の治療を提供することは当たり前です。

 

最低1日100回

 

—— 具体的に、健側機能でいいますと「立ち上がり」を例に見て、1日何回くらい訓練しなければいけない等、数値的な目標はありますか?

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川平先生私は最低100回/日(上記、画像参照)としています。もちろん、50,60代で心臓の病気もない人は200,300回やるべきだと思います。

だから、訓練時間にすべてできない場合は、自主訓練として指導すればいいのです。それくらいやらないと、良くなりません。

 

静的バランスよりも「歩く」といった動的バランス

—— 重度麻痺の方の歩行訓練で、療法士が「麻痺側に体重を乗せましょう。」と声かけをしながら、麻痺側に過剰に体重をかけるようと誘導しているのを臨床でよく見かけます。恐怖心からか、患者さんはなかなか荷重を掛けられない。そのあたりは、どうお考えになりますか?

 

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川平先生:過去の研究から分かっていることは、麻痺側の下肢は姿勢制御できません。麻痺側は突っ張るだけで、微調整ができる健側下肢でうまくバランスをとっています。

 

だから、歩行は真に姿勢制御ができる健側下肢で立つのが基準であって、そこから麻痺側に体重を掛け、また健側へ戻す能力を高める必要があります。

 

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従来のやり方では、常に「麻痺側に体重をかけて」と指示していますが、それは有害です。川平法ではまずは「健側でしっかり立って」からです。

 

まず健側にしっかり立ったら、麻痺側に体重を掛け、素早く健側へ戻す。これの繰り返しで、麻痺側で立ったら素早く健側へ戻すのが初期の歩行訓練のセオリーです。

 

それを進めれば、長下肢装具をつけて、平行棒で立ち、そして「歩く」ことが早い段階で可能ですし、それが当たり前です。いくら立位で麻痺側負荷のバランス訓練をしても、それは静的なバランス訓練ですから時間のムダです。

 

静的なバランスよりも「歩く」といった動的なバランスの方が容易なのです。だから平行棒の中で長下肢装具をつけて歩くのが当たり前ですから、長下肢装具はつま先のクリアランスをよくする設定(足関節背屈位)でなくてはいけません。

 

とにかく早期に歩かないといけません。そうしないと、姿勢制御の神経路が錆びてしまいます。ですから早期に立って歩くことをやるべきで、装具なしの歩行訓練などは有害です。

 

その理由は 過去の治療成績で装具無しの歩行訓練は成績が悪いからです。そして、装具をつけずにモタモタしていると健側の姿勢制御の能力も落ちてしまい、歩行回復も達成されません。患者さんは損ですよね。

 

だから、急性期から早期に下肢装具をつけて訓練する、回復期に行っても装具着用で平行棒内を歩くことをやらないといけません。

 

治療者が「信奉する」方法論によれば云々ではなく、まず目の前の患者さんを確実に良くできる方法(科学的な検証で有効性が確認されたもの、各種ガイドラインを参照)、更に効果が期待できる新たな治療を提供して、患者さんに損害を与えないというのが基本ですから。

 

非麻痺側リハの重要性【川平和美先生| 促通反復療法研究所】

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