Youはなぜカナダの大学へ?|田中繁治先生 #1【世界で発見!こんなところに療法士】

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下肢切断少年との出会い

 私が小学生の頃に高校生だった兄がシアトルに留学し、帰国してから海外での経験を話してくれたり、写真を見せてくれたりしました。その話や光景は私が住んでいた田舎とは大きく異なり、新しい世界が広がっていました。また、国際電話をかけている兄を目の当たりにし、かっこよく思っていました。理学療法士養成校に進学してからは、担任をしていただいた先生が留学経験者であり、その話はどれも面白く、若い私に多くの刺激をもたらしました。こうした経験から、10代の頃から留学に対する漠然とした憧れを持つようになりました。

 

 

それからは海外に縁遠い生活をしていましたが、就職してから5年が経過し、カンボジアを一人で旅行する機会がありました。単なる旅行のつもりで行ったのですが、滞在先の近くにリハビリテーション専門施設があることに気づきました。「近いし行ってみようかな」程度の心持でしたが、ここでの経験が後の留学の大きな動機になりました。このリハビリテーションセンターは、カンボジアで2番目に大きなリハビリテーションセンターでしたが、ハード面・ソフト面の両側面において十分であるとは言えませんでした。運営の一部は寄付金から行われており、所属する理学療法士もほんの数名であるという現状でした。そこで出会った10歳の少年が地雷による切断を強いられていましたが、「サッカーをしたい」と話してくれました。その時の眼差しは今も忘れられません。「いつかこういった人々の力になれるようになりたい」と当時強く思いました。

 

カンボジアでの経験を通して、多くのことを感じ、考えた結果、これから途上国の方々の力になるために重要なのは理学療法士の「教育」という考えに至りました。これには、大学院時代にお世話になった先生がJICAでペルーに行かれた時の話を聞いたことも影響しています。途上国において理学療法の「教育」をするためには、教材に代わるものが必要だと考えました。そこで、私は日本の義足のパーツを集めたり、教科書を英訳して送ったりしましたが、結局どれも上手くいきませんでした。

 

まず、英語にしてもまったくできませんでしたので、自分の能力のなさを悔しく思いました。そこで感じたのは、自分には海外の方に理学療法の「教育」をすることや貢献するだけの専門的知識・コミュニケーション能力・多文化理解能力など、足りないものばかりだということでした。

 

カンボジア(シェムリアップ)のリハビリテーションセンター

リハビリテーションセンター内の練習施設

リハビリテーションセンター内で作成される義肢

 

臨床疫学の知識を深めるためにカナダへ留学

 カンボジアでの経験は私にとって大きな影響を与えました。「困っている人々に理学療法教育を通して貢献したい」、という思いを具現化するために多くの選択肢を考慮しました。例えばJICAであったり、日系のNPOであったり、JPO派遣制度でWHOに派遣してもらうなどです。はじめは、こういったすでに大きな実績を残している組織に応募することも考えました。しかし、それでは私の問題点である専門的知識は改善されず、結局自分の思い描いたような貢献もできないのではないかと感じていました。また同時に、これらの組織に入るだけの能力がないことも自覚していました。

 

 留学を考え出した当時、私は大学院の博士課程に在籍していました。そこでは変形性関節症に関する研究を行っていましたが、そこに着目しました。私は臨床疫学を学んでいましたが、その知識はこれからの途上国の教育には重要であると考えました。これはあくまでも私個人の数少ない経験から導き出したものですが、途上国での理学療法ではあまり評価というものに重きが置かれておらず、患者の変化も客観的に提示されていないような印象を持っています。

 

臨床疫学は正しい患者の方向性を示すための1つの方法であり、系統的な理学療法を構築し、提供する上では重要な要素であると考えています。また、変形性関節症は高齢者に頻発する疾患ですが、今後高齢化が延伸するアジア諸国においては、重要な課題になるとのではないかと感じていました。そこで、私はまず自分の専門的知識を改善するために変形性関節症に関する研究が進んでいる国に留学をしようと決めました。

 

 大学院では、研究のために多くの先行研究を読むことになります。その中で、自分の専門性や将来像と合致する研究がありました。その論文の著者が、留学することになる研究所の教授でした。その時に、「この先生の下で勉強してみたい」と思うようになり、多くの情報を集めました。私は、McGill大学というカナダ東部のケベック州にある大学に留学したのですが、この大学は現代医学教育の基礎を築いたとして知られるWilliam Osler先生を輩出した大学として有名です。

 

現代医学教育において著名な先生を輩出した大学の空気感をぜひ感じてみたいという思いも相まって、McGill大学への留学への思いが強くなりました。McGill大学は1829年に設立された大学で、学部・大学院合わせておよそ4万人が在籍するカナダ国内でも指折りの大規模な大学で、多くのノーベル賞受賞者も輩出しています。留学生も約150か国から集まってきており、非常に国際性豊かな大学です。

 

この点も私の課題である多文化理解につながると信じて、McGill大学への留学を決めました。

モントリオールの街並み

 

McGill大学の校舎(看板の校舎名はSir William Oslarになっている)

 

第五回タイスタディーツアー開催!

【日時】2019年3月25,26日(ホテル3泊)

【料金】学生35,000円、社会人40,000円 料金に含まれるもの:ホテル3泊、食事7回、移動費

【旅行協力】名鉄観光サービス(株)名古屋伏見支店

【内容】現地の私立病院、有料老人ホーム、PTクリニック、公立の障害者ホーム、公立病院、タイの家屋状況などを見学予定。

詳細は直接、岩田先生のFBにメッセージをください。

▶︎ http://kenji7.main.jp/123-2/

 

 

【目次】

第一回:Youはなぜカナダの大学へ?

第二回:TOEIC350点から始まった英語学習

第三回:変形性関節症患者におけるClinical prediction ruleの構築

 

田中繁治 プロフィール

学歴

2004-2007 専門学校川崎リハビリテーション学院理学療法学科

2007-2009 佛教大学社会福祉学部社会福祉学科

2010-2012 吉備国際大学大学院保健科学研究科理学療法学専攻(修士:理学療法学)

2016-2016 McGill University, Graduate Research Trainee

2014-2017 神戸大学大学院保健学研究科保健学専攻(博士:保健学)

 

職歴

2007-2018 専門学校川崎リハビリテーション学院理学療法学科

2007-2018 川崎医科大学附属病院リハビリテーションセンター

2018-   神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部

 

 

 

Youはなぜカナダの大学へ?|田中繁治先生 #1【世界で発見!こんなところに療法士】

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