病気を治すことだけが小児科医の仕事ではない|みくりキッズくりにっくのハビリテーション

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「ここがハビリテーション室です。」——。

 

案内された部屋には、トランポリンやボルダリング用のクライミングウォールが設置された空間で、作業療法士と一緒に、子どもが楽しそうに運動していた。二子玉川駅から12分歩いたとこにある、「みくりキッズくりにっく」は小児を専門としたクリニックだ。

 

みくりキッズくりにっくでは医療の枠に収まらず、イルカ介在療法やモンテッソーリ教育、デジタルホスピタルアートなど、クリエイティブな企画を行なっている。院長である本田先生は、「子どもの病気を治すことだけが小児科医の仕事ではない」と話す。

 

アートディレクターやコピーライターなど、医療職以外の視点も取り入れることで新しいハビリテーションを追求する真意に迫る。

 

Photo:みくりキッズくりにっくのハビリテーション室

 

子どもは家の中だけで育っていくわけじゃない——「すべての子どもと保護者に選択肢を」

 

ー リハビリテーション室ではなく、ハビリテーション室だということにみくりキッズくりにっくのコンセプトを表されているように感じました。

 

本田:潜在的な部分をその子を取り巻く環境設定から引き出していくということがハビリテーションです。障害のある状態から戻すというよりは、その子どもたちが持って生まれた能力を最大限にいい状態にするというのが役割だと思っています。

 

障害を持っていてもいなくても、子どもは家の中で育っていくわけではなく、地域の中で育っていきます。セラピストは、子どもに対してだけでなく、地域コミュニティーや子どもを支える家族との関わりを含めてサポートしてあげることが必要だと思っています。「みくり」は「み(水)」「く(空)」「り(里)」を表していて、各フロアをコンセプトに合わせた装飾にしています。

 

子どもは楽しいものしかやりません。セラピーの内容もそうですが、見た目から病院らしくない雰囲気作りにしています。子どもたちが遊びにきたくなるような場所になればいいなと思っています。

 

「すべての子どもと保護者に選択肢を」という理念には、障害を持っているかどうかに限らず、地域で安心して過ごせるコミュニティーへという想いを込めていて、いわゆる一般の子育てにも多職種が関わることによって選択肢の幅が広がり、その子らしい生活ができるコミュニティー作りができればいいと思っています。

 

具体的には、看護師がスキンケアや母乳といった育児サポートを行ったり、モンテッソーリ教師と作業療法士がコラボしてプログラムを提供したり、言語聴覚士がことばの発達の悩み相談を行ったりしています。

 

Photo:みくりキッズくりにっく「水」のフロア

 

ー モンテッソーリ教育って最近言葉を聞くことが増えたのですが、どういったものなのですか?

 

本田:マリア・モンテッソーリというイタリアの女医が考えたもので、「子どもには自分で自分を育てる力がある」という考えのもと、適切な環境・声かけをしながら、お手本を見せることによって、子どもたちが自然と発達していくのを促そうというものです。

 

作業を通して身体を動かしたり感覚入力していくことで発達を促していく活動は、作業療法と通ずる思想があると思います。

 

モンテッソーリ教育というフィールドでモンテッソーリ教師と作業療法士が連携することで、子どもたちに自分がやりやすい方法を自分で見つけさせたり、ハビリテーション室にあるトランポリンやボルダリングといった粗大運動の機会をつくったりしてバランスよく育てていくことができます。

 

セラピストからしても、定型発達児が見れなくては、障害児を見ることはできません。いろいろな子どもが参加するモンテッソーリ教育に携わることで、学ぶところがたくさんあると思います。

 

― みくりキッズくりにっくのホームページを見ていて、中でも目を引くのが”イルカセラピー”です。これはどういったことをするのですか?

 

本田:実は、もともと私はイルカセラピーがやりたくて医者になったんです。動物介在療法(Animal-assisted therapy)と呼ばれるもので、イルカを介在したリハビリプログラムを行っていくものです。プログラムは沖縄の健康科学財団、もとぶ元気村、琉球リハビリテーション学院と提携して提供しています。

 

動物介在療法はTherapyであって、Activityではありません。専門家が医学的評価やゴール設定、フィードバックまでその人に合わせたものを提供する必要があり、アメリカやイギリスなど治療行為として認められている国もあります。

 

つまり、単純に「イルカと遊んで楽しいよ」という話ではありません。イルカをCo-therapistとして扱い、あくまでセラピーにおけるモチベーションをアップさせるものなんです。そして、非日常的な体験ができるので、子どももご家族も普段見せない顔が見えてきたり、家族療法としての一つのきっかけにもなります。

 

Photo:unsplush.com

”良くする”ではなく”適応させる”

 

ー ハビリテーションという考え方は、確かにすごく大事ですね。理学療法士・作業療法士は問題点を見つけてそれを良くすることが仕事だと思っている人も多いです。

 

本田:リハビリテーションは、”良くする”ではなくて、”適応させる”という視点の方がうまくいくことが多いと思っています。例えば麻痺を治そうとすると苦しいけど、麻痺があっても工夫して生活ができますよね。本人たちが”あるがまま”を受け入れやすくする、そのお手伝いをするのがリハビリテーション職の役割だと思っています。

 

保護者は子どもの可能性をどうしても決めつけがちです。「子どものいいところと悪いところを10個あげてください」と質問したときに、良いところを挙げるのには時間がかかっても、悪いところは10個すぐ見つけることができます。子どものことを褒めてあげるのがみんな苦手なんですよ。

 

しかし、短所だと思っている部分も、違う評価軸で評価してあげると長所になるということもあります。子どもに対するセラピーよりも、もっと重要なのは対保護者に対してのセラピーだと思っていて。

 

当院では、母子分離で何かを行うことはほとんどしていません。 お母さんにどんなことをやっているか、それを受けて子どもがどんな反応をするかちゃんと見ていてほしいと思っています。月に一回、専門職によるセラピーを受けたって何も変わりません。専門職のセラピーをお母さん自身ができるようになって、毎日それぞれの家庭で実践できるように工夫しています。

  

Photo:ハビリテーション中の様子

 

ー  先生の話は、何も障害のある子どもだけでなく、一般の子育てにも通ずる話のように思います。先生は子育てにおいて、一番意識していることって何か一つ挙げるとしたらどんなことでしょうか?

 

本田:やっぱり理想論だけでは、子育てってうまくいかない。20歳になった時に自分の子どもが「自分のことを好きだ」って自信を持てるような、「生まれてきてよかった」と思えるような子育てをしてほしいと思います。レールを引いてあげることも大事ですが、レールを引き過ぎてしまってもいけません。

 

適切な時期に適切な環境を整えるというのも保護者の役目だと思います。日本はどうしてもみんなと同じで平均的な子がノーマルとされてしまいますが、 それは誤りです。アブノーマルと、ノンアベレージは全く違う話です。

 

個を大事にして、その子が持っている特性というのをきちんと伸ばしてあげるのが私たちの役目だと思っています。

 

▶︎ みくりキッズくりにっくホームページ

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