―――理学療法士を目指したきっかけは?
小学生の頃、すごく腰の曲がった祖父を見ていて疑問に思っていました。なぜ腰はこんなに曲がるのだろう、なぜそれでも歩けるのだろう。一体、どんな問題が腰にあるのか、といったことを疑問に思っていました。
小学生ながら、祖父を無理やり後ろから抱えて腰をまっすぐにして、そのまま歩いてもらうということもしていました。今考えれば歩行練習のようですね(笑)。当時から、人の体にすごく興味をもっていたのでしょうね。
そして、自分自身がバレーボールを通じて、トレーニングに興味を持つようになりました。膝を伸ばして行っていた腹筋運動が、いつの間にか「膝を曲げてしなさい」って言われたり、運動前にストレッチングをやりだしたりとか。
やはりここでも、たくさんの疑問が浮かびました。そんな学生時代を過ごしたわけで、進路を決める段階で人の体に関わる仕事を探していると「理学療法」という言葉にとても興味を持ちました。「リハビリテーション」という言葉にはピンとこなかったですね(笑)。
学校のパンフレットを取り寄せ、そこに写る写真を見ながら、確か心肺運動負荷試験だったように記憶していますが、その様子を見て理学療法という仕事により興味が湧き、この世界に進もうと決意しました。
―――どんな学生時代でしたか?
岡山県倉敷市にある川崎リハビリテーション学院に入学しました。バイト禁止の学校でしたが、そもそもバイトできるほどの余裕がない学生生活でした。
このころが一番勉強していたように思います。実習は2年生の冬から長期の臨床実習があり、12週間が3か所と、臨床実習期間が長かったんです(現在は7~8週2か所と5週1か所)。
仙台市の秋保温泉、静岡県中伊豆にある有名な病院で実習させていただき、普段、なかなか行けない良いところで、実習以外でも堪能しました(笑)。社会人になり妻子をもってから兵庫県立大学大学院環境人間学研究科に進み、研究活動を学んできました。
―――臨床では糖尿病を中心にされているんですか?
糖尿病を中心にやっているわけではなく、興味を持ってやってきました。もともと内科系の病院で、就職した当時、担当していた方は、内科疾患や脳卒中の患者さんが多かったです。
循環器内科の医師がおられて、生活習慣病での入院も多かった時代でした。その頃、理学療法士として生活習慣病患者に対して何ができるのだろうか?という疑問が常に自分の中にありながら仕事をする日々でした。
今でこそある程度、糖尿病に対する運動療法は確立されていますが、20数年前は、有酸素運動をすることや1日1万歩歩くといった指導で、理学療法士でなくてもできる運動療法が主流であったような気がします。
理学療法士学会に参加しても、「HbA1cとは何ですか?」という質問が出るほどの認知度しかありませんでした。
それでも悩みながら、日々の臨床を行なっていました。学会でいつしか、循環器領域の演題で嫌気性代謝閾値(以下anaerobic threshold:AT)の話がよく聞かれるようになってきました。
この話を聞いた時に、「これは肥満や糖尿病の人にも使うべきではないか」と思いました。それからすごく運動生理学の勉強をした記憶があります。
ATを検出することで運動処方が具体的に行えることを知り、ようやく理学療法士としての専門性を発揮できると思うようになりました。そんなことを考えているとき、呼気ガス分析装置が院内にあることを知りました(負荷心筋シンチ検査で医師が使っていた)。
今の心肺運動負荷試験(以下cardiopulmonary exercise test:CPX)と違い、血圧測定や運動負荷プロトコルも手動で行う必要がありました。その装置にはコンピューターがついていなかったので、紙に出力されたデータをエクセルに手入力して回帰直線を示し、V-slope法の解析には電卓で方程式を解いてATを決定していました。
のちにCPX装置が更新され、ATの検出がこんなに楽にできるんだと感動した記憶があります。“運動強度の決定”は、理学療法士の専門性が発揮される重要なポイントであると思います。
ATレベルを検出したうえで、運動療法の効果を学会で発表、それからたくさんのご指摘、ご指導を頂きながら今に至っています。
次の問題は、どのように運動を実践するかという点でした。私の住む地域では特に冬季において天候に恵まれず、民間の運動施設もなかったために運動が行いにくく、運動療法の指導をしても、あとは患者任せになってしまっている傾向にありました。
運動する場所と機会を提供するため、この場所(エルゴメーターやトレッドミルを数台置いたスペース)を作ってもらいました。
当時の担当医だった謝紹東先生(現在、謝クリニック院長)とともに他地域の色々な施設を見学し、我々にできる患者サービスを検討していきました。
コンセプトとしては、疾患を抱えていてもリスクを管理することで運動が禁止となる患者さんは少なくなること、また、食事療法や薬物療法では味わえない運動療法の達成感、充実感を経験してもらいたいということでした。
この取り組みに賛同してくれる患者さんが多く、最大で280人の登録者がいて1日に60~70人くらいの方が通院での運動療法を実施していました。体制として、日勤と遅出勤務を作り午後9時まで患者さんの指導を行い、診療報酬は生活習慣病指導管理料を算定していました。
謝紹東先生とともに平成14年から始めて、石田岳史先生(さいたま市民医療センター副院長)、見坂恒明先生(神戸大学大学院特命教授)、小松素明先生(公立豊岡病院日高医療センター内科部長)にご協力いただきながら運動療法の外来を運営してきました。
*目次
第三回:糖尿病に関する運動療法を生理学からわかりやすく解説
最終回:先生にとってプロフェッショナルとは?
日本糖尿病理学療法学会の情報
|設立の趣旨
糖尿病は増加の一途を辿る国民病であり、理学療法士には糖尿病の基本治療である運動療法の専門家として、糖尿病チーム医療の主軸を担うことが期待されています。
理学療法士による糖尿病患者への関わりは世界的にも類がなく、また、糖尿病理学療法に関するエビデンスは蓄積されていません。本学会は、糖尿病に対する理学療法の理論、介入方法および効果検証に関する学術研究の振興と発展を図り、世界に先駆けて糖尿病理学療法学の体系化を目指します。
また、理学療法診療ガイドラインや成書の作成、糖尿病理学療法を専門とする人材育成への活動も推進します。
井垣先生オススメ書籍
糖尿病の理学療法
井垣 誠先生のプロフィール
所属
公立豊岡病院日高医療センター リハビリテーション技術科 科長
資格
専門理学療法士(内部障害)、認定理学療法士(代謝)、日本糖尿病療養指導士
学 歴
1991年 川崎リハビリテーション学院 理学療法学部卒業
2012年 兵庫県立大学大学院環境人間学研究科 博士前期課程修了 修士(環境人間学)
兵庫県立大学大学院環境人間学研究科 博士後期課程 在籍
学会等での活動
<日本理学療法士協会>
2013年~日本糖尿病理学療法学会 運営幹事
2015年~同学会 副代表運営幹事
2014年~理学療法学 査読委員
<日本糖尿病療養指導士認定機構>
2014年~編集委員会委員
<兵庫県理学療法士会>
2009~2015年 健康増進部 部長