今は、病院を退院した後に医療保険のリハビリを受けられなくなってきている流れにあります。
脳卒中後の機能回復は、6カ月を過ぎるとプラトーになると言われていましたが、実際はリハビリをすれば良くなることが分かってきています。
しかし、患者さんが6カ月を過ぎてリハビリを続けたいと希望しても、制度上、医療保険でリハビリを受けることができません。
それでは、患者さんはどんどん動きが悪くなってしまい、家族にも迷惑がかかり、社会保障費も圧迫してしまう。
脳神経外科医や神経内科医の中には、手術に興味がある一方で、回復期を過ぎた患者さんに対しては興味がなくなってしまう医者もいます。
徐々にこのような患者さんをフォローしていきましょうという動きが出てきていますが、まだまだ万全とは言えない現状です。
日本における脳梗塞患者さんの人口約300万人のうちで、フォローできているのは180万人しかいないという現状です。
医療保険では、病気になったときにだけ病院に行って、たくさんのお金をかけて治療します。
これは確かに費用対効果は高いのですが、高齢者が増えてくると保険を払う人が減り、使う人が増えて、従来の医療モデルではもう通用しなくなってきています。
日本は今先進国の中で飛び抜けて医療にお金がかかっています。
日本は75歳以上の高齢者ばっかりが増えていきています。
勿論、他の国でも高齢化は進んできていますが、65〜75歳の人たちです。後期高齢者が増えると当然、介護の世界に医療が必ず必要になってきます。
モデルの転換が必用です。
ケアミックスが必要。米国と比較した日本の問題点
日本は今後ケアミックスが必要になってきます。
しかし、大学教育の中で医療系の学部と介護系の学部の両方の学位を持っている人はほとんどいません。
職種同士での共通言語が違うので、情報の共有をすること自体が難しく、共有してもその情報が使えません。
平均在院日数も日本は16日ほど、アメリカは5日と圧倒的に長いのです。
国は平均在院日数を2025年までに9日にする方針ですが、これはめちゃくちゃな話です。
アメリカも1970年代の平均在院二数は2カ月ほどでした。
そこから、医師・看護師・理学療法士・管理栄養士・介護福祉士が在住してケアするようなサービス付き高齢者住宅のようなものを作りました。これを、スキルドナーシングファシリティと言います。
スキルドナーシングファシリティを医療施設の前に建てて、病院からすぐに退院させられるようにしたことで、平均在院日数を減らすことに成功しました。
高齢化問題は主に東京に降り注ぐ
アメリカでは平均在院日数を縮めるのに40年かかりました。
日本はこれを今から10年でやろうとしています。するとどうなるかというと、”姥捨て山”状態になります。
なぜなら、看護師の数は、欧米とほぼ同じくらいの人数がいますが、そのほとんどがが病院で働いています。
在宅の方を診れる看護師が圧倒的に足りません。
今、私が考えているのはケアステーションを5年間で最低3倍にしなくてはならないと思っています。
一番大変なのは東京と大阪と名古屋。中でも東京がダントツで大変です。
田舎でも高齢化は進みますが、住む高齢者の数は減っていくので今より悪くはなりません。
東京に住む高齢者は今後も増えていきます。つまり、高齢化問題は東京が一番抱えることになります。
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岩尾聡士先生のプロフィール
資格:医師、日本在宅医学会在宅医療認定専門医
1986年4月~1992年3月 名古屋大学・医学部
1992年4月~1996年3月 名古屋大学大学院・医学研究科博士課程 医学博士
2005年4月~2007年3月 中京大学・ビジネスイノベーション学科 経営管理学修士
2009年6月~2013年9月 名古屋大学大学院経済学研究科 教授
2012年~ 新ヘルスケア産業フォーラム 常任理事 2013年10月~2016年9月 藤田保健衛生大学 医学部地域老年科 教授
2013年10月~2017年3月 名古屋大学大学院経済学研究科 特任教授
2015年4月~2017年3月 藤田保健衛生大学長寿包括ケアクリニック 所長
2017年4月〜 高齢社会街づくり研究所株式会社 代表取締役社長 芦屋大学経営教育学部教授