健康というものを削りながら、目先の利益を取るのか?
―現在のキャリア論として資格をもっている人がたくさんいると、その資格の価値が下がってくると思うのですが、その辺の相談などありますか?
羽田先生 時々、相談されますね。オープンなSNS上ではあまりないですけど、メッセージなどでは深いお悩み相談が定期的に来ます。「看護師になろうと思いますが、どう思いますか?」みたいな。ここ最近は減ったけど2、3年前までは多かったですね。
PTから看護師へっていう悩み相談の場合で多いのは経済的な部分。このままいくと、昇進も昇給も見込めないという不安から「看護師の給料っていいですよね。実際、どうでしょうか?」という相談が多いです。その考え方では、何をしてもダメだろうなって思いますが。単なる、逃げですからね。
看護師になった場合、お給料に関しては、基本給はセラピストとそんなに変わらないと思いますが、年収は夜勤があるかないかで変わります。夜勤があれば、その分、お給料は高いと思いますが、一方で「健康というものを削りながら、目先の利益を取るのか否かは考えたほうがいいよ」と伝えています。看護師から理学療法士になりたいという相談は、比較的回復期病院に勤める看護師の方に多いように感じます。いずれにせよ、20代、30代という貴重な時間と相応のお金を、そこに投資することの意味を考えないと、浪費、消費で終わってしまいますからね。安易な資格取得は進めませんし、そこにかける時間とお金があるなら、投資の勉強をされたり複業をされた方がいいと思いますね。お金の問題の解決方法は、いくらでもありますし、そもそも周辺資格を取ったところで、属するカテゴリは公定価格の下ですから。そういうことの意味、本当に分かってんのかな?安易じゃない?と感じてしまいますね。
そもそも、私は在宅医療がやりたくて取得したわけですし、看護師資格は環境的に取らざるをえなかったといった側面があったのも事実。結果的に、それは大正解で私は全て活かせていますが・・・。夜勤やってお金を稼ぎたいという考えは、微塵もありませんでしたね。どちらかというと、やりたくないと思っていましたし。事実、私の場合は看護師で働き始めた時は社会人1年目と同じ扱いになったこともあり、理学療法士で非常勤しながらの方が年収は100万円以上も多かったです。夜勤もなく、業後はフットサルか飲み会。週末はパーティーかセミナー。どちらの時代のQOLが高かったのかは一目瞭然です。
―平均給料でみると、理学療法士は平均年齢が若く、看護師は平均年齢が高いですから、お給料の平均が高くなるのは当たり前ですよね。
羽田先生 そうですね。おっしゃる通りです。ただ、最近の新卒世代たちは給与のスタートラインが下げられつつあります。経験年数が長い方は相対的にたくさんもらっていますが、市場原理が働き始めて、その世代のお給料も横ばい、減収傾向という話も聞きます。
ただ、「平均がこれだけ」とか「これから厳しい」という漠然とした不安で、人生に大きな影響を与えることを決めるのは、あまりにも危険だなと思います。それなりにキャリアを意識して、軸に沿った選択をしないと、きっと、後悔します。
―現実的にPTから看護師になって年収が上がったとしても、たかが100万程度だと思います。学校に3年間、あるいは4年間がある中で、それは割に合わないと思うんですが、その辺はどうなんですかね。
羽田先生 投資回収率という意味では、やはり資格取得後、どうするかって部分に尽きると思います。僕らの業界は、各有資格者それぞれがそれぞれのムラで生きている専門職ですから、他の町や世界を知らないために、キャリアの漠然としたイメージや、自分たちの住んでいるムラの感覚を頼りに動いてしまう傾向にあると思います。往々にして、キャリアそのものが資格ありきになってしまっていますよね。PTのキャリアはこれみたいな。
最近では、所謂、これまでの王道的な働き方とは違う働き方する人が増えてきましたよね。ドクターでも医師資格を取っても、医療機関のドクターとして働かない人も結構増えてきました。コンサルタントになったり、ベンチャーの立ち上げに加わったりと、今までのモデルにはない働き方が増えています。私の周辺でも一般企業に属し、資格を別の形で活かす働き方を選択される方も増えてきております。私でさえ、異業種からのヘッドハントは日常茶飯事ですので、少しの工夫でキャリアは変えられると感じています。いずれにせよ、自分で考え、自分で決め、行動することを当たり前にしないと厳しいかなと思います。制度が、組織が、上司が~と言っている間は、何も変わらないでしょうね。そのまま40歳迎えると、キャリアとしては厳しい将来が待っていると思います。経年劣化した高コストの量産型なら、低コストで可能性のある新品に変えたい経営者も少なくないですよ。
自分の価値を病院や社会に示すことができれば、おのずとキャリアアップに繋がっていくと思いますし、そういう考え方がもう少し広まればいいなと思います。資格の市場価値を自分の市場価値だと勘違いしてはいけません。
―例えば腰痛のマネージメントをして、離職率が減ったというデータを経営陣に示すことが出来たら、何らかの報酬が得られると思うのですが、そういう考えって全くないですよね。
羽田先生 そうですね。人を採用するためのコストは、結構かかりますよね。離職者分の補填として新規雇用をすると、最初から教えなくてはいけなくなるし、現場も疲れる。そういった意味では、そういうプレゼンをされたら、多くの経営者は何らかの報酬を与えたり、考えるでしょうね。
生産性も上がるわけで。ただ、そのように成果を出しても対価が出ない職場もありますので、それであれば、職場を変えた方がよいと思います。親を変えることはできませんが、職場も上司も変えることができます。人生(時間)の無駄です。もったいないです。マーケティングをし、自身の価値を最適化することも必要です。
続くー。
【目次】
第三回:価値ある人間であれ
第四回:ナンパをしたら給与が上がる??
羽田真博先生のプロフィール
看護師/理学療法士/介護福祉士
職歴
2006年4月:医療法人 仁斎会 国府病院 理学療法士
2012年4月:岡崎市民病院 看護局 看護師
2014年1月:協和ケミカル株式会社入職
同年5月:総合ケア在宅支援事業部
キョーワ訪問看護リハビリステーション 寄り添い屋開設 マネージャー就任
2018年1月:株式会社 AGRI CARE入職 新規事業開発部 部長就任
その他
一般財団法人 日本尊厳死協会東海支部 理事
エンディングサービスセンター かかりつけライフマネージャー
自立支援リハビリテーション研究会 役員
株式会社COCOHALE 温故知新プロジェクト「-tsutau-つたう」 PR/プレス
医療・介護「働き方改革」推進協会 世話人
POTENTIALIZE(ポテンシャライズ)
販売戦略室室長/適性・性格検査ポテクト 公認エバンジェリスト ・・・等
3次救急病院ERから療養型病院、介護施設、在宅まで様々な領域で経験を積み重ねてきた過程で得た「見る・視る・観る・看る・診る」といった多角的な視点と、職種・領域の違いによって起こる連携上の課題を実践知として経験していることが最大の強み。多様な「み方」を用いて、臨床・共育・組織マネジメント・異業種連携に携わっている。 弱みは、一つの領域に対する経験の浅さと、女子からの「おねだり」と「お願い」。座右の銘は、「日々是愛撫」。