前回の内容▶︎ 慢性痛の4つの評価バッテリー
じゃあ何を評価して、どんなことをやっていけばいいのかということです。
悪循環、先ほど中西医師のところにも出てきましたが、末梢の悪循環と中枢の悪循環、すべてを含めたいろんな考えがありますが、脳機能、心理行動面、身体機能のそれぞれの悪循環が歯車によって悪くなり続けるような考えですね。
左側にあるいろんな状態、身体面、心理社会的要因、イエローフラッグ、破局的傾向、回避傾向、運動恐怖、いろんなものが(歯車に)オイルを注ぐように、悪循環をどんどん悪くさせていっていると考えた方がいいわけです。なので我々はどれを治すか。
身体の専門家ですけど、その他いろんな治療家が今日はいらっしゃってますけど、身体だけじゃなくて他の脳機能とか心理行動障害によって、体が悪くなっていることも考えられるので、運動と患者さんの教育、我々の振舞い方で悪循環を止めるのです。ということで、患者さん、介護保険領域でしたら利用者さんが、何で苦しんでいるかを知ることによって、悪循環を何が回し続けているのか。これは医療面、介護領域、どのフィールドでも同様の我々の振舞い方だと思います。
で、私がペインクリニック学会の学会誌に出した論文ですけども、やっぱりこの方は回避傾向ですね。痛みと向き合わなかったことにより、治療によって痛みがNRSで10から2に下がったのに、立ち上がった瞬間に激痛が来てしまって、もう泣きだすほどの痛さで、ADLが全く改善しなかった。そこで、足漕ぎ車いすと言う脳卒中で使う道具、デバイスですけれども、それをやったとたんにその直後から、すたすたと歩くことができた患者さんがいます。回避傾向に対して疼痛との対峙に足漕ぎ車いすが有効であった症例とこの論文では結論をつけています。
で、もう一個。長崎大学の樋田先生という方が出したもので、ありがたく(私も)2番目名前を出していただいた論文ですけども、両下肢の腰下肢痛で、這って自宅内を移動しなくてはいけないくらい痛かったっていうんですけど、いろんな治療をやったにもかかわらず痛みが全く変わらない。
痛みがNRS8~10のまま。で、よくよく聞くと痛くなり始めたころに娘さんと同居するようになったと。で、入院時のSDS、うつ評価を取ると66点とこれかなり高い点数になります。で、右側のような足漕ぎ車いすであったり、生活場面に近い形で腰を強くするような、洗濯物を取り込むような課題をやったりしてですね。それとこういう慢性痛にサインバルタという抗うつ薬が効く場合があるんですけれども、運動療法とサインバルタと家族指導によって、痛みは変わらないんですけども、ADLは這って移動していたかたが、歩いて帰れるようになった(症例)ということです。
痛みに注目せずにADLに対応するやり方ですね。家族対応ってどういうことやったといいますと、娘さんが患者さん、つまりお母さんのことですけども、お母さんに対して娘さんがいつまでも若い頃のお母さん像を求めていたので、『もういい加減に老いるってことに気づいてあげたらどうですか?』って言ったらところ、娘さんがワンワン泣き出して、考え方が間違ってましたと。
泣かすことが大事じゃことじゃないんですけど、現実というものをみてほしい。(この母娘二人は)喧嘩ばかりしていたんですね、それはなんで口げんかになるかというと、(娘さんは)若い頃のお母さん像のまま話すんですね。というのが考えられたんで、『それは違うんじゃないんですか?』って言ったらハッと気づかれた娘さんがいてですね、一時的に喧嘩が収まって、落ち着かれたなんてこともあります。
これは…
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