最終回:僕は理学療法を愛しています【広島大学 名誉教授|理学療法士 奈良 勲先生】

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チェコ人女性との国際“交流”

奈良先生:日本に帰って来る途中、3か月ほどかけて世界一周した話をしたよな。ヨーロッパでは、ユーロレイルパス(Eurorail)といって、ヨーロッパ中を鉄道で移動できるチケットで回るのが一番いいんだな。当時の社会主義国家のハンガリーの首都ブタペストにも立ち寄って、ビザを得ていなかったけど、そのまま乗り込んでいったわけだ。そしたら軍服を着た税関員がいて、「ビザがないからダメだ」っていうわけだ。そりゃそうだな。

 

 僕は、「それは分かるんですけど、数日でいいので…」と、粘るわけだ(笑)。そしたら、税関員が「何日くらい滞在したいんだ?」と聞くわけ。僕は「いや、数日でいいのですが、ダメなら空港内のホテルに泊まり明日の便で跳びます」と答え、30ドル渡したら「よし、数日滞在を許可する」とパスポートにビザ印をおしてくれた(笑)。これは明らかに賄賂行為だけど、当時の30ドルはハンガリーでは高額だったと思うよ。

 

 ブタペストのドナウ河沿いのホテルに着いて、そこのBarに酒を飲みに行ったわけだ。その店にチェコ人(当時はチェコスロバキア)の女の子がいて、ちょっと一緒に踊ったりしたけど、僕は疲れていたから彼女の酒料金も僕が払って、部屋に戻ろうとしたら、彼女がついて来るわけだ。「ひょっとしたらコールガールか?」とも思ったけど、とりあえず「俺の部屋までくる?」と誘ったんだ。

 

結果的に僕の部屋に一緒に泊まって、次の日は観光したんだ。まぁ一晩一緒にいるわけだから、当然、男女の国際交流はあったわけ(笑)。そのまま、ユーロレイルパスを持っていたから一緒にチェコまで行っちゃおうかな、なんて思ったけど、ビザがないかなら(笑)そのままお別れしたわけだ。文通もしたけど、彼女は英語が苦手で続かなかったな。

 

 2003年にバルセロナで開催された国際学術大会に参加したときに、タイ、韓国、日本の理学療法士と僕の4人でレストランで食事をしたとき、タイの理学療法士のパスポート、財布、航空チケットが入っていたテーブルの下に置いていたカバンをいつの間にか盗まれたんだよ。4人で近くの警察署に行くと何か盗まれたらしい数人の観光客もいて、大変な物騒な街だと感じた。

 

結局、タイの理学療法士はタイの大使館でパスポートを発行してもらい、飛行機代金を立て替えてもらって帰国した。旅には付き物だけど、色々経験するわけだ。しかし、「可愛い子には旅をさせろ」ともいわれるから、世界を見聞することはよいことだなー。

 

— 今の若い人にはあまり経験がないような話で刺激をもらえました(笑)最後になりますが、究極的なところ先生にとって“理学療法”とはなんですか?

 

奈良先生:僕が協会長になったのは47歳のときの第18回総会(岩手、1989年)での選挙で当選したんだ。それまで理事を16年間務めてきて、内部の派閥争いのようなものに嫌気がさしていた頃、周囲の会員から「会長に挑戦してみては?」と触発されて熟考したんだ。

 

 僕は、もしも会長になったとして、協会の発展のために何ができるのか、これまでの協会運営を多角的に考察した。そこで、“マスタープラン”を作成してみたんだ。選挙前に数分間のスピーチがあって、原稿も用意していたんだけど、それを読まずに語りかけたんだよ。

 

“私は会長になりたくて立候補するのではありません。だけど、なったとして何ができるのかを考え、マスタープランを掲げます。会員の皆様と共通の到達課題を共有して、協会事業を誠心誠意遂行します”と。

 

それで最後に、アドリブで、

 

“私も皆様と同様、理学療法を愛しています”

 

とスピーチした後に、涙がこみ上げてきてな。周りの人は、「最後のあのフレーズで不動票が入ったんじゃないですか」とコメントされた。

 

 理学療法は確実に人を健康にし、幸せを導くものであると信じているんだ。それと共に、僕は理学療法を通じて成長させてもらった。“理学療法を愛している”とは、それを必要とする対象者への情意、思いやりを意味してる。それが僕の考える理学療法だな。

 

旭日小綬章と賞状

 

完ー。

 

【目次】

第一回:理学療法50年史

第二回:アポロ11号が月面着陸したそのとき、日本へ着陸

第三回:“未発達”への挑戦

第四回:“小象”の理学療法

第五回:患者さんは教師である

最終回:僕は理学療法を愛しています

番外編:科学とアートの融合

 

奈良先生初の小説作品

奈良先生のオススメ書籍

奈良勲回顧録―わが半生,日本の理学療法と共に歩んで

奈良勲先生のプロフィール

(1942年3月17日 鹿児島県生まれ:76歳)

学歴:

1964年 鹿児島大学教育学部卒業

1969年 Loma Linda 大学(米国)理学療法学部卒業

1983年  金沢大学医学部にて博士号取得(医学博士乙763号)

免許:

1964年 高校教員免許

1970年 カリフォルニア州理学療法士免許(PT5396)

1974年 理学療法士免許(登録番号外1号)

職歴: 

1964年 本郷高校教員

1969年 Los Angeles整形外科病院理学療法士

1970年 Pacific Home Health Care Agency理学療法士

1971年 三愛会伊藤病院理学療法科主任

1976年 甲風会有馬温泉病院理学療法科科長

1979年 金沢大学医療技術短期大学部教授

1993年 広島大学医学部保健学科教授

2004年 広島大学大学院保健学研究科教授

2005年 神戸学院大学総合リハビリテーション教授・学部長

 2012年 金城大学学長

 2014年 金城大学特任教授

 2015年 金城大学大学院リハビリテーション学研究科長

2017年 金城大学特任教授

役員歴:

日本理学療法士協会(1973-1988 理事、1989-2003 会長) 

第19回日本理学療法士学会長(1984 金沢)

世界理学療法連盟(WCPT)理事(1995-2003)

日本リハビリテーション医学会評議員1996-2006)

第34回日本理学療法士学会長(1999、横浜)

第13回世界理学療法連盟国際学会長(1999、横浜)

協会・学会員: 

日本理学療法士協会

世界理学療法連盟

理学療法科学学会

全国大学理学療法学教育学会

神戸学院大総合リハビリテーション学会

日本動物理学療法研究会

その他:

理学療法士・作業療法士国家試験委員(1971-1987)

文部科学省大学設置専門委員会委員(1993-1998)

公衆衛生審議委員会委員(1997-1998)

Physiotherapy海外顧問(2002-現在に至る)

広島大学名誉教授(2004)

日本理学療法士協会相談役(2004-現在に至る)

科学研究費委員会専門委員(リハ科学・福祉工学A)(2005)

受賞歴:

厚生大臣賞(1996)

Loma Linda大学同窓会賞(2000)

世界理学療法連盟(WCPT)国際賞(2008)

叙勲:旭日小綬章 (第12810579号、2016)

最終回:僕は理学療法を愛しています【広島大学 名誉教授|理学療法士 奈良 勲先生】

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