ファミリーセンタードケア
ー 井上先生の中で小児理学療法のポイントを挙げるとしたらどんなところにあるでしょうか?
井上先生 ズバズバきますね。(笑)んー…、一口に「小児理学療法」と言っても、出生直後の1ヶ月2ヶ月の子もいれば、脳性麻痺で40歳くらいの人を担当したりすることもあるので、非常に幅広い分野なんですよ。
なので、まず年齢層で見るべきポイントは違いますよね。乳児さんだったら、発達支援、幼児さんだったら、移動能力やそこから他の子との関わりをどう作るかっというようなことに着目します。小中学生だったら、学校生活をスムーズに快適に過ごすこと、どれだけ自信を持ってできるかっていうのを援助するのも大切だと思いますし、成長してくるとメンタルヘルスケアであったり、二次障害の痛みをいかに解決するかにも着目する必要が出てきます。
年齢だけではなく、もちろん障害特性によってもポイントは異なるので、一言でポイントはこれっていうのはなかなか難しいですね。ただ、共通して言えることは、お子さんには、当然家族がいるので、家族の関心事を聞いてあげることは大切だと思います。
家族が、その子の何を問題に感じているのか。「Family Centered Care」、「Family Centered Support Survice」(家族中心療育)という言葉がありますが、家族からの困り事や関心事をしっかり聞いて、それを解決していくようなプログラムを組まないといけません。
どうしても僕らは、医療ベースで、「ストレッチして立って歩いて、体をほぐして…」というふうになりがちですが、それでは僕らの自己満足で終わってしまいます。
今は、病院から訪問リハビリに転職する人も多いですが、今まで小児をみたことのない理学療法士がいきなり小児を担当するというケースも増えてきていると聞きます。
そういった理学療法士が訪問して、何をすればいいのか分からずマッサージや関節可動域訓練だけやって帰ってきてしまうといったことが、協会でも問題視されています。
発達障害の子どもケアは国の課題でもある
ー 先生は小児理学療法学会の運営幹事でもありますが、今はどのような活動に取り組んでいるんですか?
井上先生 あまり知られていませんが、小児理学療法学会とは別に、学校保健・特別支援教育部門が立ち上がっていて、教育関連領域でも子どもたちの支援については議論されています。
部活動で怪我をしてしまった子のケアというのは、整形外科分野の理学療法士が得意とする分野ですが、発達障害の子どものケアというのは、小児分野の理学療法士が得意とする部分なので、小児理学療法学会と学校保健・特別支援教育部門を統合に向けて検討を続けています。
今年の6月にPT協会では「発達障害児対策委員会」が立ち上がり、その委員に拝命致しました。今後「発達障害を持つ子どもたちに対する理学療法士の関わり」について検討されていきます。
ー どんな関わりをするのでしょうか?
井上先生 発達障害の子どもたちというのは、対人社会性の問題のほか、運動も不器用な子が多くて、それで自信をなくしてしまって、余計に人との交流が苦手になったり、それが引き金になり、引きこもりになったりするような悪循環に陥ることをよく経験します。
ここ(北海道立子ども総合医療・療育センター)は、センター長が小児科なので発達障害の子をもっと関わってあげたいと、入院させたりとかもするんです。全国的にも稀かもしれませんが、1ヶ月程度しっかり関わるとその効果というのはとても実感しています。
トランポリンを飛べなかった子もすぐ飛べるようになるし、自転車に乗れなかった子も乗れるようになる。運動能力が上がって、それが自信に繋がり、友だちとの関わりもよくなるということは実際に多くみられます。
ー となると、活躍できる場面はまだまだある一方で、小児に関わりたい理学療法士は限られていますよね。教育現場でも小児分野を経験している先生が少ないため、魅力を十分に伝えられていないということが関係していると思います。
井上先生 確かにそうですね。ここでも、できる限り小児分野に興味がある学生の実習は受け入れようとはしていますが、全国レベルではまだ難しいのかもしれない。
でも、少しづつ小児分野に興味を持つ理学療法士は増えていると感じていて、北海道に限って言えば、研究会などを通じてできた繋がりから「あの地域だったら、あの人に任せられれば大丈夫」というネットワークが出来てきています。
北海道には、もともと小塚先生(現:日本小児理学療法学会 代表運営幹事)や横井先生(文教大学 教授)といった小児分野に熱い先生たちが多く、その先生達が長年かけて培ってきたものが根付いています。本州でも、今は熱心な先生方が各地にいますので、地域ごとに徐々にそういったネットワークが出来ていくのではないかなと思います。
【目次】