鉄道新駅開業が医療費削減に影響-メディカルビッグデータから推計-

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<ポイント>

・JR 総持寺駅を事例に、鉄道新駅開業による医療費削減効果を分析。

・JR 総持寺駅の近隣エリアでは、2018 年の開業後 4 年間における 1 人あたりの累積医療費支出が、99,257 円ほど有意に減少していたことを推計。

<概要>

大阪公立大学大学院生活科学研究科 居住環境学分野の加登 遼講師と、日本システム技術株式会社 未来共創 Lab の市原 泰介室長、荒井 健太副主任は、JR 総持寺駅(大阪府茨木市)を事例に、鉄道新駅開業による医療費削減効果を分析しました。その結果、JR 総持寺駅の近隣エリアにおいて、新駅開業後の 4 年間における 1 人あたり累積医療費支出が、99,257 円(95%信頼区間※1は 62,119 円~136,194 円)ほど、有意に減少していたことを推計しました。

なお、本研究は、日本システム技術株式会社との連携協定の成果の一部です。

本研究成果は、2024 年 4 月 9 日に国際学術誌「Journal of Transport & Health」のオンライン速報版に掲載されました。

加登 遼 講師

総合知を結集した都市シンクタンク機能を担う本学は、証拠に基づく政策立案(EBPM)の観点から、まちづくりに対する社会的インパクト評価手法の開発を進めています。本研究は、少子高齢化に伴う人口減少を迎えた大阪において、医療費支出という観点から、まちづくりの社会的インパクトを評価することを可能にした、重要な成果です。

<研究の背景>

人口減少が進む日本では、公共交通機関の鉄道駅を中心に都市を再編する「コンパクト・プラス・ネットワーク」政策が進んでいます。この公共交通機関を中心とした都市政策の中で、鉄道新駅開業は不動産価値を向上させる効果などが報告されてきました。一方で、鉄道新駅開業はポピュレーションアプローチ※2 として、近隣住民の生活行動を変容させる効果もあることが解明されていたものの、急増する医療費支出の抑制という観点から近隣エリアに及ぼす効果は不明でした。

<研究の内容>

本研究は、2018 年 3 月に開業した JR 総持寺駅(大阪府茨木市)の開業を自然実験※3と捉えて、医療費削減効果を分析しました。JR 総持寺駅の近隣エリア(三島中学校区及び太田中学校区)は、旧東芝大阪工場跡地におけるスマートコミュニティプロジェクトが実施されたエリアです。本研究では、メディカルビッグデータ REZULT を利用して、Causal ImpactAlgorithm※4 により反実仮想※5 を推計し、分析を行いました。メディカルビッグデータREZULT は、日本システム技術株式会社が保有する、匿名化された約 800 万人のレセプトデータをソースとしたビッグデータです。

その結果、JR 総持寺駅の近隣エリアでは、新駅開業後 4 年間で 1 人あたり累積医療費支出が 99,257 円ほど有意に減少していたことを推計しました。本結果は、鉄道新駅開業がポピュレーションアプロ―チとして医療費支出を抑制していた可能性を示す、意義のある研究成果です。

図:新駅開業後 4 年間における 1 人あたりの総医療費支出の分析データ

<今後の展開>

本学大学院生活科学研究科と日本システム技術株式会社は、『「メディカルビッグデータを活用したヘルスケア分野における研究推進」に関する連携協定』を締結し、健康寿命の延伸に向けた新しい予防医療の開発や、全世代における QOL(生活の質)向上に関する研究を推進しています。関連する自治体や他企業などと連携した研究プロジェクトを推進することで、ヘルスケア分野全体における社会貢献を目指しています。本研究成果に関連して、鉄道新駅開業に限らず、スマートシティプロジェクトとして実施されるまちづくりの社会的インパクトを評価する手法の開発に、産学連携で取り組んでいます。

<資金情報>

本研究は、科研費:若手研究(21K14318)、大阪公立大学戦略的研究推進事業(若手研究OMU-SRPP2023_YR05)、旭硝子財団 研究助成(サステイナブルな未来への研究助成:建築・都市分野)提案研究、JST 共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2115)の支援を受けて実施しました。

<用語解説>

※1 95%信頼区間

同じ実験を多数回行った場合、その中の 95%で真の母集団パラメータが含まれる範囲。

※2 ポピュレーションアプローチ

公衆衛生や予防医学で広く用いられる概念で、個々の患者や個人ではなく、集団やコミュニティ全体の健康を改善する政策や介入を行うアプローチ。

※3 自然実験

実験的な介入を研究者がコントロールするのではなく、自然界や社会的な状況の変化によって生じる状況を利用して、因果関係を推定する研究デザイン。

※4 Causal Impact Algorithm

特定のまちづくりが、特定の時系列データに与えた影響を分析する統計モデル。本アルゴリズムは Google によって開発され、主に経済学や社会科学、マーケティングなど、さまざまな分野での効果測定に使用されている。

※5 反実仮想

ある特定のまちづくりが無かった場合における、まちの変化のこと。本研究では、JR 総持寺駅が開業されなかった場合における、JR 総持寺駅周辺の医療費の時系列データの変化。

<掲載誌情報>

【発表雑誌】

Journal of Transport & Health

【論文名】

Health expenditure impact of opening a new public transport station: Anatural experiment of JR-Sojiji Station in Japan

【著者】

Haruka Kato, Taisuke Ichihara, Kenta Arai

【掲載 URL】

https://doi.org/10.1016/j.jth.2024.101808

詳細︎▶︎https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-11059.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 さらに研究や実験を進める必要があります。十分に配慮するようにしてください。

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