― 小松先生が脳卒中患者のリハビリにおいてベースにされている概念とかはありますか?
小松先生 最初に勤めた病院の先輩がボバースコンセプトをやっていたので、私も教えてもらいながら勉強していました。
実際に先輩にハンドリングをしてもらうと、明らかに同僚とお互いに練習している時とは動きやすさの違いを感じることができました。
しかしまだ当時の私は、その変化を自分の中で理解することができず、中枢神経系の経路などの目に見えないものをハンドリングで介入するといった部分が理解できない部分が多くありました。
今思えばただの勉強不足なのですが。
ただ頭では理解できないながらも、先輩やインストラクターの方にハンドリングをされた感覚というのはすごく覚えています。
同じような介入であっても、触れ方の違いでこんなにも違うものなのかと思い、触れることの大切さを学びました。
また、認知神経リハビリテーションの勉強会にも参加したこともあります。
PTとして2年目の頃ですが、脳卒中の方や認知症の方への介入に悩んでいました。
介入中には即時的な変化を出すこともできるようになってきたのですが、なかなかその効果が持続しない。
そこで運動学習とは何だろうと勉強していくうちに脳科学の分野に興味が湧いてきました。
当時はまだ森岡先生の勉強会とか脳科学系の勉強会も少ない時代でしたが、脳の勉強がしたくて受講しました。
認知神経リハビリテーションのコースを受けて一番印象的だったのは、患者さんの言葉、内感を大事にするということでした。
それまでは姿勢や動き、筋緊張など第三者が評価できる指標に重きを置いていました。
ハンドリングといっても、見た目の問題を徒手的に強制的にただ正常な見た目に戻そうとしていただけなんだ。
お尻が引けるといういわゆる正常とは異なる姿勢・動作パターンや、「怖い」という発言には、その人にとって必ず理由があるということに気づくきっかけになったように思います。
感覚的なことを言語化
ー するとボバースと認知神経リハビリテーションの二つをいいとこ取りをしたのが小松先生の臨床の考え方のベースになっているのでしょうか?
小松先生 確かにこのふたつの概念は大切だと考えています。
ただ、振り返るとそれらと同時に1、2年目の頃から独学でやっていたボディーワークの考え方がベースになっていると思います。
私は”感覚的なことを言語化できる”ということが大切だと考えています。
理学療法士・作業療法士といった職種は、人に教えることが出来なくてはいけません。
患者さんが自分の身体が思うように動かない方には、どうしたら少しでも上手く、病前のように動けるようになるのか導かなくてはいけません。
患者さんは解剖学的な知識や運動学的な知識はありません。
そしてセラピストである私たち自身も、高校時代まではそのような知識がなくとも、当たり前に動き、生活をしていました。
その、「当たり前に歩くことができる・立てる・手で物をつかめる・バンザイができる・転ぶことなど気にすることなく姿勢を保持し動ける・そもそも手が存在している」といったことがどうゆうことなのかを知らなければ、教えることができないのではないかと考えていました。
アレクサンダーテクニークやセンソリーアウェアネスといったボディワークの本を買い漁り、自分の身体を使って、自分の身体を感じることを10年以上続けています。
例えば立っている時に、初めは主動作筋である大腿四頭筋ばかり感じようとしていました。
患者さんにもそう伝えていることも多かったです。
でもいざ大腿四頭筋の力を抜いてみても、立っていられる。
なんでだろう?他にはどこを使っているんだろう?と自分の身体を使って立つため、立っていると認識できるために必要な要素を探索していき、それを繰り返していくことで、患者さんの立位訓練での発言を解釈するレパートリーが増えます。
また、患者さんの発言と実際の身体反応・パターンを擦り合わせて評価・介入していくことで、より患者さんの介入前後の変化が大きく、また患者さん自身も変化を実感できる場面に多く出会えるようになりました。
そう考えると認知神経リハビリテーションのように、患者さんの話を聞くこととや、ボバースコンセンプトの得意とする体性感覚的な身体経験というのは切っても切り離せない関係であると感じています。
【目次】
最終回:手技療法のコースを出ることが患者さんに求められるセラピストではない
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最終回:手技療法のコースを出ることが患者さんに求められるセラピストではない
小松洋介先生 プロフィール
総合病院、回復期リハ病院を経て、現在「キョーワ訪問看護リハビリステーション寄り添い屋」勤務
臨床1年目に病院や施設ごとでのリハビリの考え方や特定の治療手技や理論に偏りがあることに疑問を持ち、様々な理論・技術を広く知り、それぞれの良い所を活用できるような場を作りたいとの思いでセミナー団体「Bridge」を立ち上げる。
1. 自分で考えて、行動、発信できるセラピスト
2. 患者の立場に立てるセラピスト
3. 患者、家族、職場、他職種から求められるセラピスト
4. 地域、社会から求められるセラピスト
を増やすことをミッションに、今までに1000名以上のセラピストへの講義・実技指導を行い、現在もセミナー団体「Bridge」代表講師として全国を飛び回る