問題ではなく「やりたい」からはじめるアプローチ
ー 学校訪問支援とは、具体的にはどのような活動をされているのか教えていただけますか?
仲間 例えば、小学校の頃に、授業中にノートを書かずに立ち歩いてしまったりするお友達はいませんでしたか?
学校の先生は、そういう子ども達の”問題”に対して、頭を抱えています。私たちはそういった行動を”問題”として取り合いません。
〇〇をしないことで何が困るのかを聞き、作業遂行分析をしながら、どうしたらできるのかをサポートをしています。
仮に、先生が「”できないことに対して自分ができるところまで頑張る"という姿勢を育てたいんです。」と言ったとしましょう。そしたら、まずその子のノートを見せてもらって分析し、彼がどこまで努力しているかを汲み取って先生に説明します。
「先生が育てたいという想い通りちゃんと育っていて、ただそれが他の人にも伝わる形で表現出来ていないだけですよ。どうやったら他の人にも頑張っていると理解できる形になるか一緒に考えましょう」と、その叶え方を一緒に考えるわけです。
その子は、友達と一緒に遊びたいだけなのに、授業中だから怠けているように見えてしまいます。
ゆいまわるではその間に入ることによって、それぞれの願いを聞き出しながら目標を設定し、お子さんの成長を支えていける関係を築いていきます。
良いか悪いかの世界じゃない
ー 仲間先生が、学校に関わり始めようと思ったのはなぜだったのでしょうか?
仲間 以前、私の長男が、うまく集団に馴染めずにいて、学校の先生に呼ばれたことがあったんです。「病院に行って検査を受けてください。」「問題を分かっていますか?」「問題の重大さが分りますか?」と。
要件は、発達障害の診断を受けてくれということでした。とてもショックを受けました。
作業療法というのは、出来ない理由を探すのではなく、出来る理由を探していく考え方です。その人がやりたいことやすべきこと、期待したいことをするためにはどうしたらいいのかを考えていく学問ですので、”問題”というのは別に主役でもなんでもないんですね。
標準より良いか悪いかを判断するのではなく、何を叶えたいかという視点で接する。教育現場には、その視点が足りていないと思いました。
他の保護者の方の話を聞いてまわると、同じような悩みを抱えている方がたくさんいる。もっと親がこんなに傷つかず、先生が苦しまずにできる方法が、作業療法にはある。「作業科学の知識を持ってこの世界に踏み込んだら、多くのことが変えられるのに」と思いました。
作業療法士?心理士?
ー 作業療法士が小学校で働いている前例もなかったと思うのですが、どうやって入っていったのですか?
仲間 そうですね。最初は、ボランティアで入って、作業療法の視点で子どもに関わる価値を感じてもらって、応援してくれる翻訳者を増やすということから始めました。
いきなり校長の先生に売り込みに行くのではなく、保健室の先生や担任の先生に対して「どんな風に大変何ですか?」「先生は本当はどうしたいんですか」といったちょっと雑談から入って、ノートを見せてもらったりしながら、作業療法の価値を実感してもらうことを続けていきました。
先生が届けたい教育の叶え方を教えてあげると、その頃には先生の目がキラキラして、「えっ、なんですか、その視点!もっと教えてください!」みたいになるんですよ。
それでその先生達から、校長先生に「あの人、私の悩みを一発で解決してくれて…」みたいに紹介してもらい、入っていけるようになった感じです。
ー まさに、道を切り開いていった感じですね。
仲間 正直、最初は作業療法士がどこまで関われるのか不安でした。しかし、実際に介入してみて、教育が届いたときの子どもの変容ぶりを知ってからは、この活動を広げていこうと決心しました。
それくらい、インパクトが凄かったんですよ。その校長先生が、知り合いを紹介してくれたり、教育センターに連れて行ってくれて発表させてもらったりしながら、活動の幅を広げていきました。
そうこうしている内に、県の福祉課を管轄しているコーディネーターの方から連絡をいただいて、会社を設立した流れとなります。
今、ゆいまわるには6名の作業療法士が在籍してくれています。みんな考えに賛同してくれて、集まってくれた作業療法士です。
担任の先生でも、明日から実践できる
ー ここ(ゆいまわる)ではどんなスケジュールで働くんですか?
仲間 月に2回授業参観に行き,フィードバックは月にまとめて1回、チーム会議の場で、現状からどういうステップを踏んでいけばゴールできるのか、毎月どのような変化があったかを毎月話し合っています。
会議では、1番最初に届けたい教育の目標を立てて、実現のためのステップを書いた目標達成スケーリングガイドを作っています。
ー 発達障害に関わる職種は他にもありますが、作業療法士が関わる価値っていうのはどういうところに感じますか?
仲間 やはり先生の届けたい教育を人(運動機能・精神機能・認知機能)と環境と作業を総合的に見て、実現していけるということにあると思っています。
以前、友達のことを殴ってしまう子を担当したことがありました。その子は、チャイムが鳴り終わった時には、笑顔で友達に話しかけていました。
でも、その子が友達の肩を組もうとした時に、力のコントロールができないあまり、殴るようにギュッと首を絞めてしまっていたんです。友達と仲良く遊びたい気持ちはあるのに、そこから、誤解が生まれていました。
他の専門家であれば、アンガーコントロールをどうにかしましょうという対応策になるかもしれません。本人が怒りを示した場合、まず聞くに徹して、情緒が安定してきたときに声のトーンを落として喋りかけてください。
その方法は間違っていませんが、教室の中にはその子だけでなく様々な子どもたちがいます。休み時間も常に先生がその子のためにSSTやアンガーコントロールを意識した関わりができるとも限りません。その方法だけを指導する場合,学校現場では難しいこともあるのです。
作業療法の場、“方法”ではなくクライエントである先生が自分で方法を決めていけるように様々な情報を提供することができます。そのこに直接働きかける関わり以外にも、すごろくやトランプなど、力のコントロールを必要としない遊びを教室で展開することなど、遊びから考えることなど幅広い手段を自由に先生が選択することを可能にします。
これが作業療法士だからこその価値だと思っています。
【目次】