石原 最近はセラピストの働く領域も広がっており、一度は医療介護業界以外の一般企業で働いてみたいと考える方も多くいらっしゃると思います。
しかし、「何から手をつければ良いかわからない」、「見通しが立たない不安から挑戦できていない」といった方もいるのではないでしょうか。また、女性に関しては社会参加も進んでいますが、一方で家庭や育児の分量は女性のほうがまだまだ多く、仕事との兼ね合いに悩まれる方も多いと思います。私は今30歳代半ばですが、現にこの全ての悩みが当てはまります。
その悩みの中で、病院のセラピストから一般企業の営業職に転職しようと思い立ち、様々な壁にぶつかったり、実際に働く中でのギャップを感じたりしました。
またそこから医療介護業界に戻って、現在は育児をしながら役職として働いています。これらの体験が「一般職に挑戦したい方」や「特にプライベートとの両立で悩んでいる方」の後押しになれば嬉しいです!
飛び抜けて何かに長けている訳でもなく、ヘッドハンティングにも縁がいない至って平凡なセラピストの小さな挑戦と道のりですが、このような選択肢もあるということです。
病院で働く窮屈さ。外の世界が面白そうに見える。OLへのあこがれ
私は新卒でリハビリテーション病院に入職し、臨床は興味深く、院内の勉強会や院外の研修会にも参加することで私見が広がる楽しさを感じていました。
しかし、4年程たった時に漠然と病院で働くことの窮屈さを感じるようになりました。ちょうど臨床にも慣れ、後輩もできて、周囲に目を向ける余裕ができた頃でしょうか。
今となっては病院内で企画発案していくことで挑戦や成長ができることがわかりますが、当時は閉鎖的に感じていた環境を言い訳にしていたのかもしれません。
また、社会人経験後にセラピストになった友人から「医療介護業界は特殊、他業界に行ったら非常識と言われることもあるだろう」と聞いた影響もあると思います。「外に出てみたい!」と気持ちが強くなる一方で、やりたいことや強みがない自身がどこへ向かえるか全くわかりません。
そこで、一時期リハビリテーション病院の勤務を非常勤に変え、大学病院の非常勤と兼務をしました。リハビリテーション病院とは異なり、大学病院では急性期、慢性期の外来、手の外科、小児、集中リハ等新しい分野ばかりで学ぶことも多く、実践も伴いながら私見が広がる感覚がありました。
場所を変えることで、もともと働いていた回復期の役割を再認識できることもとても面白かったです。しかし、友人の言っていた“常識”は一緒でした。それは同じ身体障害領域、病院、作業療法士ですから。そこで「セラピスト以外の世界を見てみたい、外に出てみよう。」と決心した時が27歳。
独身でしたので非常に動きやすく、転職市場でも求人が多いチャンスの年齢です。別業界への転職は心配する友人もありましたが、家族の後押しがあり決意し、また感謝をしています。なぜならこの後に苦難が待っていますから…。
余談ですが、他業界の会社で働く際にオフィスカジュアルでヒールをカツカツ鳴らしながら、お昼は財布を片手にランチを楽しむイメージがあり、一種の憧れもありました。
とてもワクワクしていたことを覚えています。(その1年後にはノルマに追われながら、お昼は営業の電話や日々の行動目標を達成するためにお弁当を口にかきいれる日々が待っています。)
<ポイント>
・窮屈さを感じたら、小さな事から別分野に挑戦すると今いる立ち位置がわかり面白さが増す
・臨床で働いた後で転職するなら20代~30代前半がやはり馬力がある
・自身の強みがわからなくても、同業界で転職する事で通用するものがわかる(転職を進めるものではありません!院内の企画発案も成長に繋がります)
転職に成功するために練った2つのポイント
まず選んだ他業界は音楽関係でした。私は学生時代に音楽、野外フェスが好きで、憧れがあった某有名音楽雑誌・イベント製作会社を受けました。書類審査が通り図に乗ります。
しかし、2次試験で音楽関係の専門知識の無さに落ち、熱い志望理由だけでは如何にもならない事、また医療介護業界の経験が全くアピールポイントにならないことを思い知ります。
医療介護業界では特に新卒での就活では志望理由や学生時代の経験がアピールポイントとなりましたが、同じ方法では、ましてや中途採用の他業界では全く通用しません。残念ながら企業の業界の知識や、自身のアピールポイントが企業の求める人材でなければ見向きもされません。
そこでせめて同じ医療介護の一般職ならば知識も活かしながら、他業種を経験できると考え、介護施設長候補や医療介護業界の営業職募集の企業に履歴書を送りました。しかし10社連続で書類審査が落ち…。
断られる理由は「中途採用では営業職の経験3年以上が対象」と即戦力が問われ、セラピストの経験はまたしてもアピールポイントになりません。
臨床での経験や研修会の参加、学会発表していても他業種では意味がないのか…と、とても落ち込み、そして無職の就活生となります。新卒のセラピストの時はまだ就職先がないことは少ないため、私は落ちることへの耐久性が低く、急に先が見えなくなり不安感が残ります。
しばらくして改めて作戦を練り直し、2つの事を実行します。
1つ目は自身の強みを知り、他業界でも活躍できるアピールポイントを探すこと。自分を知る作業。自身の強み、弱み、弱みの対処方法、過去の実績から学んだこと、人生で印象に残ったエピソード、挫折した時の挽回方法、行動力を示すことができる実績等です。
これらを整理するために就活生や企業側の採用基準に関する書籍を読みながら棚卸しをしたり、親しい友人に客観的に強み、弱みを指摘してもらったりしました。
2つ目は転職エージェントの利用です。企業側の求める人材のデータが確実にあり、自分がその求める人材であるかを事前にすり合わせることができるため無駄足がないです。
私は最終的に転職先でセラピスト向けの転職エージェントをしていた為、転職自体がまずは企業が求める人材かどうか、またその人材が欲しいタイミングがどうかという縁も重要であることが今ならわかります。
この2点を実行した後、2社の書類審査に通り、1社は最終選考で落ち、1社は合格し東部一部上場企業の営業職に入社します。転職活動は全て自身で探す方法もありますが、セラピストが一般職に転職を考えた際、他業界の状況や自身の市場価値を知るためにも、転職エージェントを利用することが近道となりうると考えます。
余談ですがなかなか企業とのご縁がない中、半ば諦めモードでペルーのマチュピチュを旅していました。このようなリフレッシュも先が見えない転職活動には良いリフレッシュになったかもしれません。
<ポイント>
・セラピストは同業界内の転職は比較的しやすい為、他業種への転職は難航前提で挑む
・自分のアピールポイントを説明できる整理が必要だが、最終的には企業とのタイミングや縁。落ちても落ち込むのは一時で大丈夫。
・転職までの近道には転職エージョントの利用も一つの手段。特に他業界、他業種の場合。
【目次】
第一話:一般企業への転職 10社連続で書類審査落選で無職の就活生
第二話:東証一部上場企業の営業職。医療介護業界とのギャップ。クレーム炎上。
第三話:仕事と家庭、育児との両立の中で、キャリアをどのように形成していくか。
to be continued..
文:石原 綾乃