研究テーマは「骨粗鬆症」
ー新潟大学大学院ではどのような研究をされていたのですか?
藤縄先生 骨粗鬆症の研究です。骨密度と体力、QOLの関係を研究していました。骨関節系では必要ですよね。地域では、骨粗鬆症や転倒の予防を行なっています。私は骨粗鬆症学会の評議員もしています。地域の転倒予防教室等でも話をすることがありますが、ここでは骨粗鬆症の研究や徒手療法の技術、知識が役に立っています。
もちろん運動の指導もやります。しかし、運動するにあたって関節の機能障害があればケガをします。そこで、Mobilization with movementという徒手療法を入れるわけです。動ける状態を作ってそれから運動を教えないと、理学療法士ではないですよね。
細田多穂先生との出会い
ー 埼玉県立大学に入られた経緯はなんだったのですか?
藤縄先生 細田多穂先生に声をかけていただきました。ある時から知り合ったわけですが、私は埼玉県に来る以前、新潟県理学療法士会の会長もしていました。当時、関東甲信越の士会長会というのが年に2回東京医科歯科大学(以下、医科歯科大)でありました。
そのころ細田先生が医科歯科大にいらっしゃって、お会いする機会がありました。当然士会長になる前から存じ上げていましたが、最初の出会いは理学療法士になって3年目くらいのとき、ある人の結婚式の2次会で、細田先生に酔っていちゃもんをつけたことがあったんですよ。笑
その後「面白いやつだな」ということで目にかけていただき、ある士会長会議のときに「埼玉でも大学を作るから来ないか」と誘っていただきました。ただ当時、地元の国立大学でも短大が4年制になるという話があり、理学療法学科を作ろうという計画を聞いていました。同時期に、こちらの方で私は動いていましたので、お声がけいただきたいときに「地元で貢献したいと思います」と、一度お断りしました。
それから1年ほどたったころでしょうか、地元の大学の話が流れてしまいました。そのころ、厚生労働省の病院も人事異動をはじめました。この時は、さすがに焦りましたね。新潟県以外の都道府県に飛ばされてしまう可能性がありました。親も歳をとり、何があるかわからないわけです。埼玉県くらいの距離であればすぐ帰れます。再度、士会長会のときにお会いした際、「まだ枠はありますか」と聞いたら、「あるよ」ということで、ここに来ることになりました。
埼玉県立大で助教授をしながら、新潟大学の大学院に通い博士課程を終えました。実は、私が入る以前の新潟大学は、医師しか入れませんでしたが、運よく理学療法士も受け入れられるようになったので、新潟大学に行きました。月に一回、埼玉から通っていました。その頃県立大学の業務も多忙でしたので、結局6年かかりました。非常に苦労しましたね。
ー 博士は持っていた方がいいですか?
藤縄先生 持っていないと少なくとも教授にはなれません。今は、研究職として研究をやりたいと考えているのであれば、修士でもいいでしょう。研究方法をいろいろ学べますからね。博士を取るかどうかは、もう一つハードルを越えなければ難しいでしょう。大学教員になるつもりがなく、臨床だけ続けるのであれば、いらないのではないでしょうか。
ただ、臨床をやりながら研究は絶対必要です。エビデンスを構築していく上でも。ですから修士くらいはもっているべきではないかと思います。
徒手理学療法を学ぶには国際基準の資格を
ー徒手療法のエビデンス確立は難しいというイメージがあると思います。技術の差が個人間で多い中で、海外ではどのような研究が行われているのですか?
藤縄先生 日本では厳しいと思います。海外では、大学院レベルで一定の水準にある資格が徒手療法のなかでもあります。その資格を持った人たちが、一定の基準をもとに、「このような介入をしました」というものは、ちらほら出てきています。
医学の中で言えば、薬と同じように「このように使用しました」と、一人一人の考え方があります。ただ、その薬がちゃんとした薬じゃないとダメなわけです。一定の水準以上のものじゃないとダメ。ただ、それぞれの徒手療法にあるコンセプトのまま患者さんにアプローチしようと思っても、なかなかコンセプト通りにコントロールできないわけです。基本的にRCT※1では非常に難しいと思います。
研究をするためにボランティアを集めても、特定のセレクションがあり、人数が限られてしまいます。ケースシリーズくらいしかできないのです。しかしこの研究では、一番下のエビデンスになるわけです。今はそれすらないのですが。
※1RCT(Randomized Controlled Trialの略:ランダム化比較試験)とは、評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法である
ー 徒手理学療法の勉強で海外に留学しようとした場合、オススメの国はありますか?
藤縄先生 徒手理学療法であれば、オーストラリアですかね。あとニュージーランド。オーストラリアにもニュージーランドにも何名かの日本人が留学していると思います。最近、オーストラリアは英語の面で、結構厳しくなっていると聞いています。ただ、日本の教育システムを変えるためには、まだまだ人数が少ないです。留学してきても、日本で何もしなければ当然変わりません。
ー 日本でも学べる徒手療法はたくさんあると思います。どれを勉強すればいいのか悩んでいる人も多いのですが。
藤縄先生 国際的な資格を取得できるのは、日本運動器徒手理学療法学会(JAOMPT)が開催している、Kaltenborn-Evjenth conceptしかありません。現在ある、その他の徒手療法はどちらかというと応用編になります。徒手理学療法の基礎はKaltenborn-EVjenth conceptにあります。カルテンボーンから学び、そこから治療体系を確立されたものも少なくありません。
ただし、コース終了には大変な時間と労力、金銭がかかります。国際的な一定水準を満たすためにはそれが必要なのです。本来であれば、大学院でやるべき内容なのです。
その他オススメのものは、日本徒手理学療法学会です。国際的に認められているコースを勉強した理学療法士たちが紹介的にやっている技術講習会です。クオリティは非常に高いですよ。そこからKaltenborn-EVjenthのコースに行っている人がたくさんいます。日本徒手理学療法学会は、比較的安価で、年会費4000円払えば年に2回ジャーナルが届きます。これからは、そういった技術を持っていないと厳しいと思います。
次のページ>>クリニカルリーズニングとは
【目次】
第一回:ピッツバーグ大学へ留学した理由
第三回:徒手理学療法の国際基準
最終回:クリニカルリーズニングとは
藤縄先生のオススメ書籍
藤縄 理(ふじなわおさむ) 先生のプロフィール
学歴
1976(昭和51)年 3月 武蔵工業大学工学部機械工学科卒業
1980(昭和55)年 3月 国立犀潟療養所附属リハビリテ-ション学院理学療法学科卒業(同年5月 理学療法士免許取得)
1986(昭和61)年 8月 米国ペンシルバニア州、ピッツバ-グ大学大学院修士課程(スポ-ツ理学療法・整形理学療法専攻)修了(MS; Master of Science in Physical Therapy)
2007(平成19)年 3月 新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻博士課程修了 博士(医学)
職歴
1980(昭和55)年 4月 国立療養所勤務
1986(昭和61)年 9月 国立療養所犀潟病院附属リハビリテ-ション学院理学療法学科教官に配置換え(犀潟病院併任)
1999(平成11)年 4月 埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科 助教授
2005(平成17)年 4月 同上 教授(現在に至る)
2009(平成21)年 4月 埼玉県立大学保健医療福祉学研究科保健医療福祉学専攻リハビリテーション学専修 教授(現在に至る)