化学の研究から感じた、社会の異変
― 理学療法士になったきっかけを教えてください。
三沢先生 実は、高校を卒業してから特別にしたい仕事があったわけでもなく、化学に興味があったので、工業短期大学部に入学しました。下宿先に沖縄から留学された1年先輩がおり、よく話す機会がありました。そこで様々なことを教えてもらったり、考える機会を得ました。
学校では、水の分析をテーマに勉強していましたが、大気汚染や水質汚染などの問題に直面していました。
当時、公害を研究されていた人たちは、大企業からしたら「自分たちに痛手になる存在」ですので、それを良いように思っていませんでした。
先輩の話を聞いていると井戸水の水質調査をしていて、からだに悪いものが出てきても、「すぐにやめなさい」と直接伝えられません。上司への報告後、更に管轄機関に報告し、行政もからんで、公にするかどうか決まるのです。
当時、水俣病や四日市ぜんそく等の公害が社会的問題となっていましたが、第一線で研究をされていた方々は、企業や行政からは冷遇されていました。
卒業生から話を聞く機会がありましたが、井戸水の水質調査をしていたときに、身体に害となるものが出た時に、その結果を直接住民に伝えらなかったとのことでした。
まず上司への報告後、更に管轄機関に報告し、行政もからんで、公にするかどうか決まるのです。それまでは、井戸水を使用している方に伝えられない状況でした。
悪いのが分かっていて、「すぐに事実を伝えられないなんて、そんな仕事は何なのだろう」と、思ってね。そんなのでいいのかなって。
当時は、学生デモが多く、過激な考えや行動が目立ち、それを抑え込もうとする実行部隊があり、混沌とした時代でした。自分にはデモなどに参加するほどのエネルギーはありませんでした。
その頃、新聞か何かで脳性麻痺の方の投稿記事を読んで、障害のある方が自分のやりたいことに積極的に取り組んでいる姿をみて、「そういう人達に直接役に立てるような仕事がしたい」と、思うようになりました。
障害に関する知識も技術も何もなかったので、改めて勉強しようと専門学校を紹介する本を見ているとき「リハビリテーション」という言葉を見つけました。作業療法士(以下OT)になろうかとも考えていましたが、「せっかく化学を3年も勉強したんだから理学療法の方がお役に立てるんじゃないか」と、考えるようになり理学療法士(以下PT)を選びました。
ある鍼灸師との出会い
― 当時の実習で、印象に残っていることはありますか?
三沢先生 専門学校に3年間通いましたが、実習が多く、約1年分が実習に充てられていました。小児施設から総合病院まで経験した中で、子供達との関わりがすごく印象に残っていました。
最初は、理学療法士のことは何もわかりませんでしたが、実際に施設に行って子供とふれあう中で、「面白い」と感じることができ、「自分には向いているな」と、思っていました。
卒業後、最初に勤めたのは、東京女子医科大学附属病院に就職しましたが、リハビリテーション部には、脳外科、内科を担当するグループ、整形外科を担当するグループと小児を担当する3グループに分かれて業務を行っていました。11年間勤めましたが、私は、整形外科グループでの業務は経験できませんでした。
小児に興味があったのですが、いろんな疾患を見られるようになっておきたかったんですね。もうひとつは、針灸の学校に行きたかったんです。
― いつ頃から行きたいと思うようになったんですか?
三沢先生 リハビリテーション専門学校に入ったころからですね。私自身、喘息があって中国人の方に診てもらうようになってから、日増しに良くなっていました。通っている時に治療に同行し、「頭で考えるより、まずやってみなさい」と体験できる機会を頂きました。
ある日、全身性エリテマトーデスで歩けない方の治療を手伝わせて頂き、先生の真似をしながら膝のマッサージをしたら、その直後に歩けるようになったんですよね。「専門学校を卒業したらすぐに行こう」と思いました。
その先生に教わった「患者さんを治療するときは考えるより、手で感じなさい」ということをすごく言われていて、今でもその教えが役に立っているような気がします。
【目次】
第一回:悪いとわかっても公言できない社会
第二回:先入観が邪魔をする
第三回:教授回診について回る
最終回:PTとしての専門の知識だけではトータル的なケアはできない
三沢先生オススメ書籍
三沢峰茂先生のプロフィール
【出身校】
東京都立府中リハビリテーション学院卒業
京鍼灸柔整専門学校卒業
【職歴】
東京女子医科大学病院
横浜市総合リハビリテーションセンター
町田市医師会訪問看護ステーション
履修研修等
ボバース神経発達学的治療法講習会修了
ボイタ法セラピスト講習会修了
NPO法人日本ボイタ協会インストラクター
日本摂食·嚥下リハビリテーション学会認定士