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#3 途上国での医療と理学療法、そしてスポーツ|世界17ヶ国回ったからこそ見えたこと

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ヨーロッパを後に、トルコのイスタンブールを経由してアジアへ入りました。いわゆる途上国と呼ばれる国としては、キルギス、スリランカ、カンボジアなどを訪れました。帰国後、途上国での医療の現状を知りたいと聞かれることは多いですが、いくつか国をまわったことで、これらを総じて伝えることがとても難しいということを知りました。その上でまとめますと、

 

・医療の質が担保されていない

・信頼できる医療を受けるために隣国へ行く

・良い給料を求めて医師も隣国へ行く

・地方まで医療が届かない

・交通事故が多い

・スリング、電気療法など物理療法主体の場所が多い

・脳血管疾患リハビリの需要が大きい

 

といった感じでしょうか。一概に伝えられない理由としては、それぞれの国がそれぞれの事情を持っているからです。例えば、キルギスには理学療法士がいません。運動指導士さんがリハビリの役割も担っています。スリランカの首都コロンボは、一見栄えています。しかし、物価の上昇に対し、賃金が追いついておらず、生活はかなり苦しいようです。インド東部の都市チェンナイでは、貧富の差が大きく、空調もない病院もあれば、高級ホテルと見間違えるような病院もありました。これらは車で10分ほどの距離です。

 

スリランカの首都コロンボにある病院のリハビリ室

 

遊牧民の国キルギス

 キルギスの場所はご存知でしょうか。標高4000m以上の山々が連なる自然豊かな国で、世界で2番目に透明度が高い湖があります。また、隣国のロシアや、ウズベキスタンの影響を受けており、首都ではロシア語とキルギス語のバイリンガルが当たり前です。この国では、JICAの青年海外協力隊の方々にお世話になり、総合病院、通所リハビリセンター、訪問リハ、小中学校、陸上クラブなど沢山見学させていただきました。キルギスでは英語が通じないため、協力隊の方々に会話は頼りっきりでした。それでも、キルギス人は1日に何回もティータイムをするお話好きで、客人が来たら必ずもてなしてくださり、とても楽しいひと時を過ごすことができました。

 

首都ビシュケクの通所センター

 

 遊牧民の生活にも憧れていたため、キルギスの中でも最も伝統的な暮らしが残るナリン村にも行かせていただきました。そこの子どもたちは、自転車ではなく馬を乗り回しており、おはじきには羊の骨を使います。コクボルといって馬に乗りながら、砂を詰めた羊の死体をボールに行うラグビーのようなスポーツがあったことは信じられませんでした。

 

標高2000mにあるナリン村

 

 

コクボルに熱中する少年たち

 

健康面では、子どもたちの虫歯が大きな問題になっていました。食後に歯みがきをする習慣が定着していない子どもが多く、それを指導する保健師さんもいません。そのため、理学療法士の中村恵理先生は、通所リハビリセンターで働く傍ら、小学校にて栄養教室や歯磨き指導も行っていました。理学療法という手段にとらわれず、「子どもたちの健康を守る」ため、現地の文化や課題に合わせて働く大切さを学びました。

 

動画と歌を使って歯磨きを教えている場面

 

 スポーツに関しては、首都のビシュケクであれば、陸上競技に打ち込める競技場があることを嬉しく思いました。スリランカの観光都市であるキャンベラでも、熱心な指導者のもと、陸上競技やラグビーに励んでいる姿をみることができました。キャンベラの陸上チームの女子エースは、なんと100mを11秒台で走ります。彼らの努力が実を結び、スポーツで母国を盛り上げてほしいです。

 

キルギスの首都ビシュケクの陸上競技場

 

スリランカの観光都市キャンベラでの練習風景

インドでの講演

 インド東部の都市チェンナイでは、最も濃厚な1週間を過ごすことになりました。当初は4病院2大学の施設見学の予定だったのですが、その1週間前になって「せっかく日本から来るのだから日本の医療、理学療法を教えてくれ」と、講演の依頼をされました。それも10分×4テーマです。それから必死で、「日本の理学療法」、「ランニング障害の予防方法」、「転倒予防体操」、「アスレチックリハビリテーション」の4テーマで資料を作り、医師、理学療法士、看護師、学生などに向けて4日間で6回講演しました。講演といっても開会式で聖火入灯したり、記念に大きな仏像をもらったり、と日本では体験できないことばかりでした。この経験のおかげで、私たちが日本で日々行っていることが、海外で需要があると知ることができました。

 

インドのチェンナイにて200人の前で講演している場面

 

 もう一つ印象的であったことは、ACL損傷の勉強会に参加した時のことです。日本ではACL損傷の発生機序として、ContactかNon-Contactかのどちらかで考えられることが一般的だと思います。しかし、チェンナイの整形病院の最も多いACL損傷の原因は交通事故でした。そのため、スポーツ選手でない方が多いため、術式も膝関節の安定性よりも早期日常生活復帰ができる方法を採用されていました。これも「当たり前が当たり前でない」と気付かされるきっかけであり、海外の論文を読むときは、その国の背景まで考える必要があると感じたエピソードでした。

 

インド、チェンナイの渋滞。バイクはこの隙間を縫うように進みます。

 

*目次

#1:なぜ海外に飛び出そうと思ったのか

#2:先進国の理学療法に触れる旅

#3:途上国での医療と理学療法、そしてスポーツ

#4:盛り上がるアジアの国々

 

堀田孝之先生プロフィール

学歴

2009-2013 京都大学人間健康科学科理学療法学専攻

2013-2015 京都大学大学院医学研究科人間健康系科学専攻(修士:人間健康科学)

職歴

2013-2015 あそうクリニック

2015-2017 社会医療法人行岡医学研究会 行岡病院

2018-   あそうクリニック

2018-   訪問看護ステーションめりっと

#3 途上国での医療と理学療法、そしてスポーツ|世界17ヶ国回ったからこそ見えたこと

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