“派遣されてから約10ヶ月。もうあんな日々には絶対戻りたくない。”
2019年1月から青年海外協力隊としてインドの国立研究所に派遣されている作業療法士の渡辺成美です。千葉県の回復期リハビリテーション病院へ入職後、臨床経験4年目の時に大学院に入学しました。大学院で海外での医療の取り組みについての授業を受け、自身も海外の医療現場を知りたいと思ったのが参加のきっかけです。
さて、インドは誰もが知っている国の一つだと思いますが、どんなイメージを持っていますか。ターバン、カレー、ガンジス川。。。そんなところでしょうか。恥ずかしながら私は応募する時点ではインドについてほとんど何も知らず、アジアでこれからどんどん発展していきそうな国、なんとなく楽しいかもと言う理由だけで希望しました。
Photo:私の住む街並み。
いよいよインドに派遣。苦しい?協力隊生活のスタート
控えめに言って最初は本当に本当に大変でした。私にとって大きな壁となったのは「言語」でした。協力隊は派遣前に約2ヶ月間、訓練所にてそれぞれの地域の語学を学ぶのですが、私はそこで英語を勉強していました。
訓練はあったものの、観光程度でしか海外に行った事がなかった私は日常的な英会話でさえもままならない状態でした。さらに、医療英語にも苦戦し、「説明したいけど、この筋、骨、神経、疾患って英語でなんて言うんだっけ?」と毎回調べてメモしていました。そのため、カルテもスムーズに読めませんでした。
Photo:英語でのプレゼンは毎回緊張します。
でもさ、臨床経験があればやりながらなんとか説明できるでしょ。
最初は私もそう思っていたのです。
しかし、たくさんの現地語にさらに苦戦しました。インドの公用語はヒンディー語。もともとイギリスの植民地だったこともあり、準公用語は英語。また、国内では850言語が日常会話で使用されているそうです。
教育レベルによって使用できる言語は異なり、学士号を取得している人は基本的に母語、ヒンディー語、英語を話すことができるようです。当施設に通う患者さんは農村部に住み、基本的にベンガル語のみを話します。
一方、同僚の日常会話はヒンディー語です。他の州から来ているスタッフも多いためインド人でさえも患者さんとのコミュニケーションに苦労しています。そのため、わたしが臨床で介入する際は周りの手助けが必要です。
しかし、当施設は人手不足に加え、学生が治療を行うことが多く、評価や治療に時間がかかるため、私への翻訳でさらに時間をとってしまう。治療を通しながら、技術移転をしようと意気込んでいたわたし。さて、これからどうしようか。
わたしにできることはまだあるかい
言語の困難さに加え、インドの医療ついて全く分からなかったため、最初の半年間はとにかく現地を知るために聞き取り調査をしました。セラピストは何に困っているの?どんな患者さんが通っているの?
患者さんはどんな経済状況なの?とにかく色んな人に尋ねました。そうすると少しずつ現地の人々が置かれている状況が見えてきました。たくさんの人とコミュニケーションをとるにつれて信頼関係が生まれ、現地の人々の方からも声をかけてくれるようになり、少しずつ言語にも慣れてきました。
現在では活動の幅も広がり、症例検討や治療などのプレゼン、学生、教員向けニュースレターの作成、臨床、研究等を行なっています。活動内容については今後の記事でお伝えできたらと思います。
Your therapy is good, beautiful.
そんなこんなであっという間に過ぎ去った約10ヶ月。もうあんな日々には絶対戻りたくないと思うくらい派遣当初は、自身の語学力や説明力の低さ、セラピストとしての知識不足に直面し、辛くて何回も逃げ出したくなりました。
そんな中でもここまでこれたのはどんな時も明るく声をかけてくれた現地の方々のお陰でした。現地の人々は穏やかで人懐っこくて表現力が豊かで、一緒にいるととても楽しい気持ちにしてくれます。外国人である私を医療機関が受け入れることは簡単ではなかったと思います。
また、ベンガル語やヒンディー語、英語をミックスした私の拙い言葉とたくさんのボディランゲージ、イラストを使いながら伝える説明に耳を傾けくれる患者さんにも感謝しております。
ある日、担当患者さんにポジショニングの説明していると、「Your therapy is good, beautiful. あなたの治療をいつも待ちわびているわ」と英語を混ぜながら患者さんのご家族が話してくれました。私の活動がようやく1歩前進したと思えた瞬間でした。
私が出来る国際協力とは何か。
「国際協力」というものの定義はないそうで、これに対する解答は自身で見つけなければいけないようです。
私はこれに対する答えはまだ見つけられていませんが、日本の技術や方法を押し付けるように伝えるのではなく、まずは現状を知り、それぞれの国にあった作業療法、リハビリテーションを少しずつ、焦らず、現地の方々と信頼関係を築きながら一緒に考えることで探していければと思っています。
いつか答えが見える時が来ることを願って、目の前の課題に少しずつ取り組んでいきたいと思います。