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3Dアクションゲームで認知機能の測定に成功―ゲームデザインを応用し、複雑な認知的作業の研究に貢献―

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概要

京都大学医学部附属病院 小野富大 民間等共同研究員 兼 BonBon 株式会社 研究統括、京都大学医学研究科村井俊哉 教授、櫻井武 同客員研究員、BonBon 社 糟野新一 ゲームディレクターらの共同研究グループは、BonBon 社(京都市、CEO:荘子万能)制作の3D アクションゲーム「Potion」のデータと認知機能 1検査の結果を比較し、「複雑なゲームを使って認知機能を多面的に測ることが可能」であることを実証しました。近年ゲームの社会応用が注目されていますが、複雑なゲームデザインと科学的な意味づけの両立は難航してきました。

本研究では、ゲーム内の「動き回る」「狙う」「隠れる」「当てる」などの挙動データから、「運動機能」「注意力」「抽象思考」「識別力」などの複数の認知機能を測定することに成功しました。ゲームで認知機能を測定する技術には、日常生活により近いタスクの実施を通して認知機能を測れるようになる、従来の検査が難しい子供にも継続的に対応が可能になるなどといった応用が期待されます。本成果は、2022 年 7 月 21 日(現地時刻)に英国の国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

 

ゲーム「Potion」の紹介動画:

 

研究に使われたゲームソフト「Potion」(BonBon 株式会社、今年度リリース予定)のゲーム内の要素や、それぞれに与えられた分析上の意味づけを一部紹介。絵:尾﨑 由紀(BonBon 株式会社)

1.背景

ゲームには人を惹きつけ、やる気をもって課題に取り組ませる力があります。そういったゲームのもつ特性を科学的に紐解き、認知機能を測る・使わせるという応用ができないかという動機で、ビデオゲームの登場のころから様々な研究が行われてきました。ゲームで認知機能を測ることができれば、通院が難しい方や来院に至ってない方の認知機能状態を評価することや、既存の心理検査では捉えきれない認知機能を研究することも可能になるかもしれません。いままではゲームを通して認知機能の働きを測るためには、ゲーム性を極限まで削って一つの認知機能しか使わないほど単純になったゲームか、特にまとまりのないミニゲームをいくつもやってもらう(例えば、記憶力を測るために神経衰弱をやってもらった後に知識を測るために●✖クイズをやってもらうといったようなものです)という手法が主流でした。一方で、複雑で面白い市販のゲームを認知機能を測る研究に使おうとした場合、純粋な認知機能の計測結果を得ることは難しいという課題がありました。なぜなら、ゲームをして得られるスコアには、「ゲームの上手さ」が混合していて、細かい意味づけができない指標としてしか参照できなかったためです。複雑に絡み合う要素を多く含む日常生活で直面するような課題・場面は、エンターテイメント性の高い複雑なゲームの体験と構造が似ています。そのため、複雑な課題に人がどう取り組むかを細かく分析するためには、複雑なゲームで認知機能を細かく測定できるかどうかを確認する必要がありました。

2.研究手法・成果

アクションゲームで遊んでいる際にどういった認知機能が使われているかを探索・検証するという趣旨の研究でしたので、まずユーザーのゲーム内の挙動や成果を細かく記録でき、なおかつゲームデザイン上それぞれの挙動や行動に意味づけが可能なゲームを用意する必要がありました。市販のゲームにはそういった設計や機能は備わっていないため BonBon 株式会社で認知機能計測用に開発中であったアクションゲーム「Potion」を採用し、比較対象としては米・ペンシルベニア大学が運営する電子版認知機能検査サービス「WebCNP」を採用しました。20 代から 70 代までの京都近辺の参加者 158 人にゲームと認知機能検査両方をやってもらい、ゲーム内の特定の要素(例えば、「草むらを使って索敵を回避する」率)と電子認知機能検査のスコア(例えば、複数の図形を示された際に次にくる図形を当てるテストにおける正答率)が連動しているか等の分析を行いました。また、ゲームへの慣れがゲーム内の数値にどこまで影響を及ぼしているのか検証するために、参加者が普段どのぐらいゲームに触れているか、ゲームが好きか、また指の操作がどれぐらい俊敏であるか等の数値的影響を取り除きました。

今回のゲーム研究を通して、複雑なゲーム性と研究的価値は必ずしも相反しないことが判明しました。また、ゲーム内の要素の使い方には、ゲームデザイン上ユーザーに意識してほしいことが数値的にも反映されていることがわかりました。ただ、若い世代のプレイヤーと上の世代のプレイヤーで傾向や反映の度合いは大きく違ったので、ゲームの応用を設計する際には対象者を絞る必要があります。

 

図1.ゲーム内の測定指標と古典的認知機能検査の結果をまとめ、関連付けたもの。

それぞれ直接数値を使うわけではなく、連動の度合いが強かった要素を複数まとめあげた上で比較を行った。ゲーム内の要素が、設計上関連があってもおかしくない認知機能とそれぞれ(草むらを使って索敵を逃れる動きと、抽象的思考を測る検査項目等)相関しているのが重要な発見。

 

図2.ゲーム内でユーザーが行う挙動のおおまかな全体像。

分析上ではそれぞれ別の認知機能と対応しているが、ゲームをやっているユーザーにとっては一連の流れとして違和感なく取り組んでいるため、「今は〇〇を測定されているから気を付けよう」といった意識は生じてる可能性が低い。

3.波及効果、今後の予定

今回の研究で、市販のゲームに見られるような複雑なエンターテイメント性と認知機能検査に見られるような要素の切り分けはデザイン・設計次第では両立可能であるということが判明しました。これを機に、より多くのゲームデザイナが認知機能というトピックに興味を持ち、研究者もより複雑な認知プロセスをゲームで研究できるという希望を持てると考えています。ゲームで使われる認知機能の測定技術の進歩は、検査が難しい子供の認知機能の数値化や長期の取り組みが必要な認知機能のモニタリングなどの発展につながるかもしれません。

一方で、今回は倫理審査を受けて学術発表をするという透明性の高い場で研究を行いましたが、認知機能の複雑な測定を秘密裏に行う企業・団体が出ることを警戒し対策を議論していく必要もあるでしょう。

4.研究プロジェクトについて

研究予算は BonBon 株式会社が出資しました。京都大学と BonBon 株式会社の共同研究として実施されました。参加者の募集に、非営利活動法人「健康づくり0次クラブ」(滋賀県長浜市、理事長:辻井信昭)が一部協力しました。本研究は課題番号「2-P-30」課題名「ビデオゲームを解した計量心理に関する研究」として京都大学こころの科学ユニット研究倫理審査委員会の承認を受け実施されました。

<用語解説>

1認知機能: 知能に関わる脳の働きの要素を指す言葉。記憶、判断、計算、学習、注意など多岐に及び、認知症などの疾患においては複数の認知機能の低下がみられるため疾患が発症していないかどうかの指標に使われることもある。

<研究者のコメント>

「エンターテイメント」と「学問」の境界領域に位置する本研究の成果は、全く異なる専門家からなる学際的チームにより達成されたものです。世界中が愛するビデオゲームという文化に、エンターテイメントの枠を超えて、医療などの他分野に発展する可能性を学術的に示せたこと、また分野を超えたチームの一員として新しい学問としての成果を達成できたことに、ゲームディレクターとして非常に喜ばしく誇りに思います。(糟野新一)

<論文タイトルと著者>

タイトル:Novel 3‑D action video game mechanics reveal differentiable cognitive constructs in youngplayers, but not in old

(新規開発3D アクションビデオゲームを通して複数の認知機能の並行計測に成功、

プレイヤー年代層によって精度に差あり)

著 者:Tomihiro Ono、Takeshi Sakurai、Shinchi Kasuno、Toshiya Murai

掲 載 誌:Scientific Reports

DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-15679-5

 

詳細▶︎https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-07-22

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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