17日、日本サッカー協会(JFA)が運営するJFAメディカルセンター(JMC)が、診療報酬の不正請求および不当請求を行っていたとして、東北厚生局より戒告処分を受けていたことが明らかになりました。これを受けてJFAは公式サイトにて謝罪を表明。再発防止策として、診療体制や職員教育の強化に取り組む姿勢を示しています。
問題の発端:外来リハビリ前の診察不足
今回の問題の出発点は、JMCにおける外来リハビリテーションで、適切な医師の診察(いわゆるリハビリテーション前診察)が一部で実施されていなかった点にあります。
2023年11月、東北厚生局より個別指導の通知を受けたJMCは、同年12月と翌年2月の2回にわたって指導を受けましたが、改善が認められなかったため、2024年5月からは監査へ移行。2024年11月までの半年間で10回の監査が行われました。
監査結果:不正請求と不当請求
東北厚生局が公表した監査結果では、以下の請求内容が問題視されました。
◆ 不正請求(違法な虚偽請求)
実際には医師が診察を行っていないにもかかわらず、診察を行ったとし、
- 再診料
- 運動器リハビリテーション料
- 消炎鎮痛等処置料
を請求。
◆ 不当請求(要件不備による誤請求)
- リハビリの開始・終了時刻の記載漏れ
- 総合実施計画書の様式不備
これらはいずれも、診療報酬の算定要件を満たしていない請求行為であり、医療機関としての制度運用の不備が露呈した形です。
不正請求:実施していない診療行為を請求するなど、詐欺的・虚偽的行為
不当請求:算定要件を満たさずに報酬を請求する行為
原因:法令理解不足とガバナンス体制の欠如
JFAはこの問題に対し、外部法律事務所とともに事実調査を実施。調査の結果、以下のような構造的問題が原因とされています。
- 医師・職員における法令遵守意識・制度理解の不足
- 診療報酬請求に関する知識の未整備
- 開設者としてのJFAによる人員配置・監督体制の不備
なお、診療報酬請求の第一義的責任は「診療報酬請求権限を持つ医師」にあるとされつつ、開設者であるJFAも、公益法人としてのガバナンス責任を免れないとの見解が示されています。
自主返還と再発防止策
JMCは東北厚生局の監査と並行して、全患者を対象とした自主点検を進めており、確定した請求額については速やかに返還を実施予定です。また、JFAとJMCは、再発防止策として以下の改善に取り組んでいるとしています。
- 全患者への対面診察の原則の徹底
- 法令遵守研修の継続実施
- 自主監査制度の導入
- 管理・運営体制の再構築と強化背景にある制度の構造:なぜ「再診料」では問題だったのか?
背景にある制度の構造:なぜ「再診料」では問題だったのか?
今回の問題は、診療報酬制度の理解不足が原因であるともいえます。制度上、リハビリテーションの保険請求には2つの方法が存在します。
区分 | 内容 | 要件 | 特徴 |
---|---|---|---|
再診料+リハビリ料 | 毎回の医師の診察後にリハビリを行う | 医師による毎回の対面診察が必要 | 高点数だが要件が厳格 |
外来リハビリテーション診療料 | 初回診察後、一定期間内は医師の再診不要 | 1型(7日間)/2型(14日間)の包括評価 | 実務効率が高い |
JMCのケースでは、医師による診察を省略したにもかかわらず、「再診料」を請求していたことが最大の問題点でした。もし「外来リハビリテーション診療料」という包括制度を活用していれば、制度の趣旨に適合する形で合法的な請求が可能であったと考えられます。
制度理解と現場運用のギャップを埋めるには
JMCの事案は、「制度を知らなかった」「現場が忙しかった」では済まされない、公益医療機関としての責任を問われた一件です。医療現場では、患者の利益と制度遵守の両立が求められます。そのためには、現場の実務者と経営陣が共通して制度を理解し、組織的にガバナンスを効かせる体制構築が不可欠です。今回の事例は、制度運用と倫理意識の交差点にある教訓として、他山の石とすべきものです。