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医師の署名撤廃やAI活用も|米国PT協会・2024年の主な成果を報告

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米国の理学療法専門職を牽引するAPTA(American Physical Therapy Association)が2024年の年次報告書を公開しました。10万人もの会員を擁する同協会は、この1年間で医療現場に大きな変革をもたらしています。その成果は、単なる制度改革にとどまらず、AIなど先端技術の活用や専門職としての地位向上にまで及んでいます。

長年の悲願が実現―メディケア制度の大改革

「ついに実現しました」―そんな声が米国の理学療法士(PT)から聞こえてきそうな改革が、メディケア1制度で実現しました。

長年の課題だった「PT助手2の監督要件」が緩和されたのです。これまで外来では、PT助手が働くためにPTが常に同じ場所にいる「直接監督」が必要でした。しかし2024年、この要件が「一般的監督」に変更されたことで、入院施設などと同様の柔軟性が得られるようになりました。特に地方部では、これにより患者のアクセスが大幅に改善されるでしょう。

もう一つの成果は、理学療法計画書への医師署名要件の撤廃です。これまでは医師からの紹介があっても、治療計画書に医師の署名を得るために書類をやり取りする必要があり、治療開始の遅れや事務作業の増加を招いていました。この要件撤廃により、患者は必要な理学療法をより早く受けられるようになります。

州ごとに広がる理学療法士の活躍の場

「各州での改革は、まさに前例のない勢いです」と語るのは、APTA会長のカイル・コビントン氏。APTAと各州支部の協力により、州レベルでの制度改革も急速に進んでいます。

これまで多くの州では、理学療法を受けるには医師の紹介状が必須でしたが、直接PTに相談できる州が増えてきました。また、PTが画像診断を依頼し結果を解釈できる権限も拡大しています。

保険関連でも進展があり、UnitedHealthcare3のような大手保険会社は、PTサービスに対する厳格な事前承認要件を緩和し、一定数の訪問を事前承認なしで認めるようになりました。

さらに、PTコンパクト法案4の拡充により、州をまたいだ活動がしやすくなっています。一つの州でライセンスを取得すれば、参加州全体で働けるようになるため、特に州境地域や専門家不足の地域での医療アクセス向上に貢献しています。

AIと向き合う理学療法専門職―倫理的活用への道筋

「AIは敵ではなく、味方にすべきツール」―この考えのもと、APTAは2024年、AIとの関係性を明確にしました。

理学療法の実践、教育、研究においてAIの倫理的開発と統合を支持する一方で、保険会社がAIを使って理学療法サービスへのアクセスを不当に制限することには反対する立場を明確にしています。

デジタルヘルスの分野では、50社以上が「理学療法」と表記するデジタルサービスには必ず免許を持つPTの監督があることを確約する透明性キャンペーンに署名。さらに、150種類のORCHA認定5デジタルヘルスアプリを提供し、中でも27種類は女性の健康に特化したものとなっています。

注目すべきは、PTが指導する仮想筋骨格ソリューションの多くが、対面療法と同等の臨床効果を持つことが独立機関によって確認された点でしょう。テクノロジーの活用が、理学療法の未来を切り開いています。

会員へのサポート強化―経済的自立からキャリア発展まで

「会員であることの価値をさらに高めたい」―そんな思いから、APTAは会員向けの特典も大幅に拡充しました。

小規模診療所や個人開業PTのために、APTA 401(k)プラン6を導入し、将来への安心を提供。また、医療費削減ソリューションを提供するヘルスベネフィットマーケットプレイス7も確立し、個人開業者の経済的基盤強化を支援しています。

患者と理学療法士をつなぐ「Find a PT」ディレクトリも一新され、消費者や紹介元医師がAPTA会員のPTを見つけやすくなりました。その効果は絶大で、年間検索回数が100万件を超える実績を記録しています。

専門的な学びの機会も豊富に用意され、最大300CEU8相当の学習機会を提供する500以上のオンラインコースが開設。PTJ9での研究発表や、プライマリケア医に対するPT認知度調査など、専門職としての地位向上にも力を入れています。

多様性と働きやすさ―変わりゆく職場環境

時代の変化を敏感にとらえ、APTAは職場環境の改善にも注力しています。

これまで見過ごされがちだった職場や学習環境における「心理的安全性」の重要性に目を向け、専門職全体での教育を推奨する方針を採択。また、子育てや介護と仕事の両立支援として、「家族に優しい組織」になることを約束し、雇用主にも同様の方針とプログラム実施を推奨しています。

海外で教育を受けたPTに対する支援も強化され、「国際的に教育を受けた理学療法士(IEPT10)」という呼称を正式に採用。アメリカで働く外国人PTのライセンス認証プロセスの公平性と包括性を支持する方針も打ち出されました。

堅実な財務基盤と今後の展望

APTAは健全な財務状況を維持しており、総収入5,378万ドルのうち76.5%を会員サービスとプログラムに充てています。投資ポートフォリオも前年比10%増の3,340万ドルとなり、将来への備えも万全です。

会員数は99,144名と微減しているものの、PT会員57,068名、PT助手会員6,575名、学生会員31,336名と安定した構成を保っています。

「2026年からの新戦略計画では、専門職の持続的な成功に向けたポジショニング、包括性とエンゲージメントの強化、そしてすべての会員がビジョン達成に貢献できる場の確保を目指します」と語るジャスティン・ムーア最高経営責任者。

「社会を変革するために運動を最適化し、人間の経験を向上させる」という壮大なビジョンに向かって、APTAは着実に前進しています。日本の理学療法業界にとっても、制度改革と専門職発展の両面から学ぶべき点は多いのではないでしょうか。

▶︎https://www.apta.org/article/2025/04/15/apta_releases_2024_annual_report


  1. 1.メディケア(Medicare):65歳以上の高齢者と一部の障害者を対象とした米国の公的医療保険制度。日本の後期高齢者医療制度に近い役割を果たしています。

  2. 2.PT助手(PTA: Physical Therapist Assistant):米国で認められている理学療法士を補助する専門職。日本の理学療法士助手とは異なり、専門教育と国家試験に基づく公的資格です。

  3. 3.UnitedHealthcare:米国最大級の医療保険会社の一つ。多くの米国人の健康保険を提供しています。

  4. 4.PTコンパクト法案:米国内の複数の州間で理学療法士のライセンスを相互認証する制度。一つの州でライセンスを取得すれば参加州全体で活動できるようになります。

  5. 5.ORCHA(Organisation for the Review of Care and Health Apps):デジタルヘルスアプリを評価・認証する国際的な組織。健康関連アプリの品質と安全性を評価しています。

  6. 6.401(k)プラン:米国の代表的な企業年金制度。従業員が税制優遇を受けながら老後のための資産を形成できるプログラムで、日本の確定拠出年金(企業型)に相当します。

  7. 7.ヘルスベネフィットマーケットプレイス:医療保険、歯科保険、視力保険などの健康関連保険を一括して提供するプラットフォーム。特にAPTAのものは会員向けに割引が適用されます。

  8. 8.CEU(Continuing Education Unit):継続教育単位。米国では専門職の免許更新に必要な継続教育の量を測る単位です。日本の理学療法士の生涯学習ポイントに類似しています。

  9. 9.PTJ:APTA発行の査読付き学術誌「Physical Therapy & Rehabilitation Journal」の略称。理学療法分野の主要な国際学術誌の一つです。

  10. 10.IEPT(Internationally Educated Physical Therapist):米国外の教育機関で理学療法を学び、米国で働く理学療法士のこと。グローバルな人材の活用を促進するための正式な呼称として2024年に定められました。

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