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療法士の燃え尽き症候群は防げるのか?研究データを調べてみた

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「もう限界かも...」その気持ちあなただけではありません

~韓国・オーストラリア・国際研究から見えた予防策~

朝、目が覚めて職場のことを考えると気が重くなる。患者さんのリハビリを見ていても、以前のようなやりがいを感じられない。同僚との会話も何となく表面的で、家に帰っても疲れ切って何もする気が起きない。

「私、この仕事に向いていないのかもしれない...」

そんな風に自分を責めてしまう前に、知っておいていただきたいことがあります。世界各国の研究者たちが「療法士の燃え尽き症候群」について詳細な調査を行い、重要な発見をしているのです。

その結果が示しているのは、燃え尽き症候群は個人の弱さが原因ではなく、環境要因が大きく関わっているということです。

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韓国の大規模研究が明らかにした「無理な出勤」の悪循環

韓国で257人の作業療法士を対象に実施された研究では、興味深い事実が判明しました。

体調が悪くても無理して出勤する行動(研究では「プレゼンティーイズム」と呼ばれています)が、実は燃え尽き症候群や離職意向を高める要因として機能していることが統計的に証明されたのです。

多くの療法士が「休むと同僚に迷惑をかける」と考えがちですが、この研究は「無理な出勤が長期的には職場全体により大きな負担をもたらす」ことを示しています。

さらに重要な発見は、同じレベルのストレスを抱えていても、職場からの十分なサポートがある療法士は離職を考える傾向が大幅に低いということでした。つまり、個人の忍耐力だけでは解決できない、構造的な問題があることが明らかになりました。

オーストラリアの精神科医療現場からの報告

オーストラリアで精神科の作業療法士34人を対象に行われた研究では、燃え尽き症候群の要因と保護要因が詳細に分析されました。

結果は予想通りの部分もありましたが、具体的な数値で示されたことに大きな意味があります。燃え尽きレベルが高い療法士ほど職務満足度が低く、離職意向が強いことが確認されました。

この研究で特に注目すべきは、燃え尽きを防ぐ要因と悪化させる要因が明確に特定されたことです。

燃え尽きから保護する要因

  • 適切な評価と承認の実感

  • 知的にやりがいのある業務内容

  • 上司からの具体的なサポートとフィードバック

燃え尽きを悪化させる要因

  • 過度な患者接触による精神的負担

  • 慢性的なストレスと疲労の蓄積

  • 十分な回復時間の不足

これらの要因は、個人の努力だけでなく、組織的な取り組みによって改善可能なものばかりです。

より大規模な調査が示した職場環境の重要性

同じくオーストラリアで103名の精神科作業療法士を対象とした研究では、職場での幸福感が燃え尽き防止に果たす役割がさらに詳しく分析されました。

この研究の最も印象的な発見は、職務満足度だけで離職意向の約33%を説明できるという統計結果でした。言い換えれば、職場での満足度を向上させることで、離職リスクを大幅に減らすことが可能だということです。

研究では、燃え尽きと密接に関連する要因として以下が特定されています:

  • ワークライフバランスの悪化

  • 努力に見合わない報酬(金銭的報酬だけでなく承認も含む)

  • 職場での孤立感や疎外感

一方で、適切な承認と評価、個人的な満足感を得られる業務内容、良好なワークライフバランスが燃え尽きからの保護要因として機能することも確認されました。

言語聴覚士の国際比較が教えてくれること

1998年から2018年のデータを含む17の研究を対象とした国際的なレビューでは、言語聴覚士の燃え尽き症候群について興味深い地域差が報告されています。

北米のSLPは平均的から高い職務満足度を報告している一方で、英国のSLPは著しく低い職務満足度を示していました。この違いは、同じ専門職でも働く環境によって満足度が大きく左右されることを物語っています。

しかし、地域を超えて共通する燃え尽き要因も明確に特定されました:

  1. 業務量・ケースロードの過大

  2. 専門的サポートの不足

  3. 給与水準の低さ

これらの要因は、複数の国で一貫して確認されており、療法士の燃え尽き症候群における普遍的な課題と考えられます。

研究結果に基づく実践的な予防策

個人レベルでできること

研究データから導かれる、個人で実践可能な燃え尽き予防策をご紹介します。

1. プレゼンティーイズムの適切な管理

韓国の研究が示すように、体調不良時の無理な出勤は燃え尽きへの悪循環を生みます。これを防ぐためには:

  • 体調不良時は適切に休息を取る勇気を持つ

  • 「迷惑をかける」という思考パターンを見直す

  • 自分の心身の状態を客観的に評価する習慣を身につける

2. ワークライフバランスの意識的な改善

オーストラリアの研究で実証されたように、ワークライフバランスの改善は燃え尽き防止に直接的な効果があります:

  • 仕事とプライベートの明確な境界線を設定する

  • 休日の過ごし方を意識的に工夫する

  • 仕事以外の興味や活動に時間を確保する

3. 専門的成長への継続的な取り組み

研究では、知的にやりがいのある業務が燃え尽き防止に効果的であることが示されています:

  • 継続的な学習と技能向上への投資

  • 新しい治療技術や知識の習得

  • 専門領域での具体的な成長目標の設定

職場環境への建設的な働きかけ

1. サポート体制の積極的な活用

韓国の研究で組織サポートの重要性が科学的に証明されています:

  • 上司や同僚への相談を躊躇なく行う

  • 困難な症例では積極的に協力を要請する

  • チーム内での情報共有と相互支援を心がける

2. 業務負荷の適正化への提案

複数の研究で業務量の過大が燃え尽きの主要因であることが確認されています:

  • 現在の業務量を客観的に評価し、必要に応じて報告する

  • 効率化可能な業務を特定し、改善提案を行う

  • 業務の優先順位を明確化し、重要度に応じた配分を提案する

3. 承認と評価の適切な要請

研究では適切な承認が燃え尽き防止に重要であることが示されています:

  • 自身の貢献を適切にアピールする

  • 上司や同僚からのフィードバックを積極的に求める

  • 自分の成果を可視化し、評価につなげる

燃え尽き症候群の早期発見チェックリスト

研究で特定された燃え尽きの指標を基に、セルフチェックリストを作成しました。

感情的消耗の兆候

□ 仕事の後、極度の疲労感を感じることが多い

□ 朝起きて仕事のことを考えると気が重くなる

□ 患者さんとの関わりが以前より負担に感じる

□ 以前楽しかった業務にやりがいを感じなくなった

職場での疎外感

□ 患者さんを機械的に扱うことが増えた

□ 同僚とのコミュニケーションが表面的になった

□ 仕事への関心や情熱が薄れている

□ 職場での人間関係に無関心になった

達成感の低下

□ 自分の仕事に価値を感じられない

□ 専門職としての成長を実感できない

□ 患者さんの改善に喜びを感じにくくなった

□ 将来への展望が持てない

各カテゴリーで2つ以上、または全体で5つ以上該当する場合は、燃え尽き症候群の兆候の可能性があります。

段階的な回復・予防アクションプラン

短期的対策(1-4週間)

□ 十分な睡眠時間の確保(7-8時間)

□ 規則正しい食事と適度な運動習慣

□ 信頼できる人への現状の相談

□ 仕事以外の活動への時間確保

□ 職場外の社会的つながりの活用

中期的対策(1-3ヶ月)

□ ストレス管理技法の習得と実践

□ 職場でのサポート体制の見直しと改善

□ 業務の優先順位と時間管理の最適化

□ 専門的な学習目標の設定と実行

□ ワークライフバランスの具体的改善

長期的対策(3ヶ月以上)

□ キャリア目標の再設定と具体化

□ 職場環境改善への積極的な関与

□ 継続的な自己ケア習慣の確立

□ 専門職アイデンティティの再構築

□ 必要に応じた専門的支援の利用

最後に:研究が示す希望のメッセージ

世界各国で実施された研究が一貫して示しているのは、燃え尽き症候群は「避けられない宿命」ではなく、「予防と改善が可能な状態」だということです。

重要なのは、燃え尽きは個人の弱さや能力不足が原因ではなく、環境要因が大きく影響するということです。適切な職場環境、十分なサポート、バランスの取れた業務量があれば、多くの場合で予防可能であることが科学的に証明されています。

PT・OT・STとして患者さんのために働く皆さんが、自分自身の健康も大切にしながら長く専門職を続けられるよう、これらの研究結果を活用していただければと思います。

もし燃え尽きの兆候を感じたら、それは「自分が弱いから」ではなく「環境を整える必要がある」というサインとして受け取ってください。あなたの専門性と経験は、多くの患者さんにとってかけがえのないものなのですから。

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参考文献

  • Scanlan & Still (2013). Job satisfaction, burnout and turnover intention in occupational therapists working in mental health. DOI: 10.1111/1440-1630.12067

  • Scanlan et al. (2013). Enhancing retention of occupational therapists working in mental health: relationships between wellbeing at work and turnover intention. DOI: 10.1111/1440-1630.12074

  • Chun & Song (2020). A moderated mediation analysis of occupational stress, presenteeism, and turnover intention among occupational therapists in Korea. DOI: 10.1002/1348-9585.12153

  • Ewen et al. (2021). Well-being, job satisfaction, stress and burnout in speech-language pathologists: A review. DOI: 10.1080/17549507.2020.1758210

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