目次
はじめに
思春期特発性側弯症(Adolescent Idiopathic Scoliosis: AIS)は、10〜18歳の青少年期に発症する原因不明の脊柱側弯症です。世界的な有病率は0.47〜5.2%とされ、確認される側弯症の約80%を占める最も一般的な脊柱変形疾患です。
AISは軽度では無症状のことが多いものの、進行性のカーブは外観の変形、機能制限、疼痛を引き起こす可能性があります。これらの身体症状には、しばしば自尊心の低下や社会的引きこもりといった心理社会的な課題が伴い、特に美的自己認識への不満や日常生活での身体的参加の制限により、全体的な生活の質が損なわれることが報告されています。
保存的治療は、軽度(Cobb角10〜25度)から中等度(Cobb角25〜45度)のカーブに対する主要な治療選択肢となっています。2016年のSOSORT(国際脊柱側弯症整形外科・リハビリテーション治療学会)ガイドラインでは、保存的治療の目標を形態学的目標(美容の改善など)と機能的目標(カーブ進行の予防、疼痛軽減など)に分類しており、これらはすべて生活の質と密接に関連しています。
最新の包括的エビデンス:2025年ネットワークメタ分析の知見
2025年に発表されたRenらによる包括的なネットワークメタ分析は、AISの保存的介入に関する最も信頼性の高いエビデンスを提供しています。この研究では、54のランダム化比較試験(RCT)から3,984名の参加者を対象に、19種類の保存的介入の効果を比較検討しました。
主要な知見
中等度の確実性で効果が認められた複合療法:
- 装具+脊柱側弯症特異的運動療法(PSSE):平均差4.80度(95%CI: 0.56〜9.04)
- 徒手療法+PSSE:平均差5.26度(95%CI: 1.09〜9.43)
- 徒手療法+マインドボディエクササイズ:平均差5.14度(95%CI: 1.25〜9.04)
単独療法の限界: 中等度の確実性のエビデンスにより、装具単独(平均差1.56度、95%CI: -2.00〜5.13)およびPSSE単独(平均差0.83度、95%CI: -2.74〜4.40)は、最小限の介入と比較してCobb角の改善においてほとんど差がないことが示されました。
進行抑制における装具の効果: 装具単独治療は、側弯症の進行抑制において中程度の効果(相対リスク1.53、95%CI: 1.09〜2.14、高い確実性)を示しました。
⇆ 横にスワイプして保存療法の効果と確実性を比較できます(いずれも最小介入との比較)
装具+PSSE複合
Cobb角 改善 約4.8°
MD 0.56〜9.04° / 中等度の確実性(Ren 2025)
進行抑制:装具単独並み(補助効果期待)
主な利点:構造改善の上乗せ
留意:長期追跡のエビデンス不足
徒手療法+PSSE複合
Cobb角 改善 約5.3°
MD 1.09〜9.43° / 中等度の確実性(Ren 2025)
進行抑制:PSSE単独より期待
主な利点:可動性・運動学習を補完
留意:徒手単独の根拠は弱い(Sun 2023)
徒手療法+マインドボディ運動複合
Cobb角 改善 約5.1°
MD 1.25〜9.04° / 中等度の確実性(Ren 2025)
進行抑制:データ限定的
主な利点:姿勢・呼吸の統合
留意:単独効果は未確立
装具(単独)単独
進行抑制 RR 1.53
95%CI 1.09–2.14 / 高い確実性(Ren 2025)
Cobb角:差はごく小(中等度の確実性)
臨床Tips:装着時間>18h/日で成功率↑(BRAIST)
留意:QOLの短期改善は限定的
PSSE(単独)単独
Cobb角 差はごく小
MD −2.74〜4.40° / 中等度〜高の確実性(Ren 2025)
付記:Schrothで統計学的改善は報告(Ceballos-Laita 2023)
臨床Tips:複合療法で上乗せが妥当
留意:長期効果は未確立
※ 効果量はネットワークメタ解析の「最小介入」対比。レンジは95%信頼区間。長期フォローのエビデンスは限定的(Ren 2025)。
介入別のエビデンス整理
A) 装具治療