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回復期リハ病棟の重症基準をどう見直すか ―FIM20点以下患者の扱いとリハ実績指数を巡る議論

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2026診療報酬改定の焦点

2026年度診療報酬改定に向けて、11月14日の中央社会保険医療協議会・総会では、回復期リハビリテーション病棟入院料の見直しが集中的に議論されました。厚生労働省保険局医療課の林修一郎課長は、資料「中医協 総-2 入院(その5)回復期リハビリテーション病棟、リハビリテーション、病棟における多職種連携」(以下、総-2資料)を用いて、次の4つの論点を提示しました。

  1. 1.重症患者割合の基準をどう考えるか

  2. 2.リハビリテーション実績指数の除外基準などをどう考えるか

  3. 3.より質の高い集中的なリハビリ実施をどう推進するか

  4. 4.地域機関との連携をどう促すか

総-2資料の分析結果からは、重症患者割合の基準が現場の運用に影響を与えている可能性や、リハビリ実績指数の除外基準が現状の患者像と必ずしも一致していない点などが示されました。一方で、集中的なリハビリの機会が真に必要な重症患者を、回復期リハ病棟から締め出してはならないという診療側の強い懸念も示されています。

重症患者割合の基準が生むジレンマ

FIM20点以下の「全介助に近い患者」が1割

回復期リハビリ病棟では、リハビリ効果が出やすい軽症患者のみを選別して受け入れる「クリームスキミング」を防ぐ目的で、重症患者割合を施設基準としています。重症患者は「日常生活機能評価10点以上またはFIM総得点55点以下」と定義され、高点数の入院料1・2では重症患者割合4割以上、入院料3・4では3割以上が求められています。

林課長が示したデータによると、とりわけ入院料1・2を届け出ている病棟では、重症患者割合が4割前後に集中しており、「基準ぎりぎり」の病棟が多数存在している状況が示されました。

さらに、重症患者のうち約1割はFIM得点20点以下の患者であり、FIM運動項目・認知項目ともに1点(全介助)またはそれに準じる状態です。これらの患者ではFIM利得(リハビリによるADL改善効果)が全体と比べて小さく、極めて低い例も多いことが紹介されています。

こうしたデータから、「重症患者割合を満たすために、リハビリ効果が出にくい全介助に近い患者が回復期リハ病棟に多く入院している可能性がある」との問題意識が提示されました。

支払側・診療側で分かれる評価

支払側委員の松本正人委員(健康保険組合連合会理事)は、回復期リハビリ病棟の役割を「機能回復が見込まれる患者に対して短期集中的にリハビリを提供し、在宅復帰を目指すこと」と説明したうえで、次のような趣旨の指摘をしました。

  • FIM得点20点以下の患者ではリハビリ効果が出にくい傾向がデータから示されていること

  • こうした患者は、他の病棟での対応を検討すべきではないかということ

  • FIM20点以下の患者を重症患者の定義から除外し、入院料ごとに重症患者割合の基準を見直すべきではないかということ

これに対し、診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)と太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、現場の実感として「FIM20点以下でも集中的なリハビリにより大きく改善する患者が一定数いる」と強調しました。

江澤委員は、「『FIM20点以下はリハビリ効果が出ない』と一律に決めつけて重症患者から外し、回復期リハ病棟での受け入れを困難にすることは避けるべきです」と述べ、FIM値だけで線引きを行うことには慎重な姿勢を示しています。

太田委員も、「現場では、重度であっても回復が見込める患者を見極めたうえで受け入れている」として、重症患者割合や重症定義の変更に当たっては、「どのような患者が回復期リハから外れてしまうのか」を丁寧に検証する必要があると指摘しました。

重症患者割合は、本来「軽症患者だけを選別して受け入れることを防ぐ仕組み」として導入された経緯があり、

  • クリームスキミング防止

  • 無理な重症受け入れの回避

  • 回復が期待できる重症患者への集中的リハの確保

という3つの要請をどう両立させるかが、今後の検討課題として示された形です。

リハビリテーション実績指数と「除外患者」の見直し

3割まで除外可だが、対象は4割超

次に議論となったのが、回復期リハ病棟ごとのリハビリ効果を示す【リハビリテーション実績指数】です。

2016年度改定で導入された同指数は、患者ごとのFIM運動利得(退棟時-入棟時)を在棟日数と状態別の上限日数で調整して合算し、一定以上の指数がなければ疾患別リハビリ料を1日6単位を超えて算定できない仕組みです。

一方で、アウトカム評価による患者選別を避けるため、「FIM利得としてリハビリ効果を把握しにくい患者」を計算から除外するルールが設けられています。医療機関の判断で、各月入棟患者数の3割まで除外できる患者として、

  • 入棟時FIM運動項目20点以下

  • 同76点以上

  • 入棟時FIM認知項目24点以下

  • 入棟時年齢80歳以上

などが挙げられています。

厚労省がDPCデータに基づいて分析したところ、回復期リハビリ病棟を有するすべての医療機関で、上記の「除外可能」な条件のいずれかに該当する患者割合が40%を超えており、除外可能上限である30%を上回っている状況が示されました。

80歳以上・認知15点以上は「他患者と同等の利得」

さらに厚労省は、除外対象とされている患者層の中身を詳しく分析しました。その結果、

  • 「80歳以上」の患者のFIM運動利得は、患者全体とほぼ同程度であること

  • 「FIM認知項目24点以下」の患者を細分化すると、認知5~14点では利得が低いが、15~19点では全体と同程度、20~24点ではむしろ高いこと

などが示されました。

一方で、

  • FIM運動項目20点以下

  • FIM認知項目14点以下

の患者については、FIM利得がほとんど得られない層が存在することも確認されています。

さらに、「FIM運動20点以下・FIM認知14点以下」の患者のうち、1日当たりのリハビリ平均実施単位数が3単位を超える患者では、患者全体と概ね同程度のFIM利得を得ているケースが一定数ある一方、4単位以上に増やしても利得は頭打ちになる傾向も示されました。

支払側の見直し案と、診療側の懸念

これらの結果を踏まえ、松本委員は、

  1. 「80歳以上」および「FIM認知項目15点以上」の患者は、他の患者と同様にFIM利得で効果を把握できるとして、実績指数から除外せずに計算対象に含めるべきであること

  2. 一方、「FIM運動20点以下・FIM認知14点以下」の患者については、原則として実績指数から除外しつつ、一定量以上(例:3単位超)のリハビリを提供した場合には計算対象に含めることを検討してはどうか

という2点を提案しました。

1点目については、診療側の江澤委員も、データからみて「80歳以上や認知15点以上は除外しなくてもよい」との考え方に賛意を示しています。

しかし2点目については、江澤委員は強く懸念を示しました。「FIM運動20点以下・FIM認知14点以下の患者でも、多くのリハビリ提供で大きなADL改善効果が得られる例があります。一律に『ここまでしかリハビリをしても評価されない』というメッセージになれば、必要なリハビリ提供が抑制されるおそれがあります」と述べ、リハビリ単位数に上限的な意味合いを持たせることに慎重な姿勢を示しました。

また江澤委員は、「我が国では、集中的なリハビリを提供できる病棟は実質的に回復期リハビリ病棟しかありません。FIM運動20点以下といった重度の患者が回復期リハ病棟に入れず、集中的なリハビリを受けられなくなる仕組みは望ましくありません」とも強調しています。

実績指数については、支払側・診療側とも「リハビリ効果の質を担保するうえで重要な指標」であるという認識を共有していますが、

  • どの患者まで計算対象とするか

  • 除外率をどう設定するか

については、データと現場の実感を丁寧にすり合わせながら調整していく必要があるとの認識が示されました。

FIM下位項目「トイレ」「移動」と在宅復帰率

5点・6点への改善をどう評価するか

林課長はあわせて、FIM下位項目のうち「トイレ動作」と「移動(歩行・車椅子)」に着目した分析を提示しました。退棟時にこれらの得点が5点(監視レベル)または6点(修正自立)となった患者では、自宅等への退院割合が顕著に高くなることが示されています(総-2資料p24)。

この結果を踏まえ、診療側の江澤委員、支払側の松本委員ともに、「トイレ動作」「移動能力」は在宅復帰に直結する重要な指標であり、診療報酬上での評価を一層充実させる必要があるとの認識を示しました。

今後、加算の新設や既存評価への組み込みなど、具体的な制度設計は検討段階ですが、「在宅復帰につながる機能回復」をより前面に据えた評価へと軸足を移していく方向性が示されたと言えます。

日常生活機能評価表とFIMの「二重測定」をどうするか

重症患者評価や重症患者の改善度評価には、日常生活機能評価表とFIMの両方が用いられています。総-2資料では、日常生活機能評価表の評価項目とFIMの対応関係が示され、両者の項目が重複する一方で、重みづけなどに違いがあることが整理されています。

現場からは、「両方の評価を入力することが業務負担になっている」という声もあり、資料では「役割分担や一本化の可能性」を論点として提示しています。

松本委員は、現場負担軽減の観点から「FIMへの統一」を提案しました。

これに対し、太田委員は、「例えば『ベッドから車椅子への移乗』などで、日常生活機能評価表とFIMとでは重みづけが大きく異なります。評価指標をFIMに一本化した場合、現行の重症患者割合の基準を満たせなくなる病棟が出る可能性もあります」と述べ、影響の検証を踏まえた慎重な判断を求めました。

診療側委員も、業務負担軽減の方向性そのものには異論を唱えていませんが、「評価指標を変えることで、現場に予期せぬ不利益が生じないか」を見極めながら議論を進める必要があるとの認識を示しています。

質の高いリハビリ提供体制をどう評価するか

排尿自立支援加算・摂食嚥下機能回復体制加算の位置づけ

3つ目の論点として、「より質の高い集中的なリハビリ提供」をどう促すかが取り上げられました。林課長は、生活機能回復に直結する加算として、【排尿自立支援加算】と【摂食嚥下機能回復体制加算】の現状を示しました。

【排尿自立支援加算】は、排尿ケアチームによる包括的な支援体制を評価するもので、回復期リハビリ病棟入院料1を届け出ている病棟のうち、同加算を算定しているのは30.2%にとどまっています。

【摂食嚥下機能回復体制加算】は、専任医師、専従言語聴覚士、専任管理栄養士などで構成されるチームによる嚥下機能評価・支援体制を評価する加算で、回復期リハ入院料1の病棟での届出割合は約13%とされています。専従の言語聴覚士(ST)配置が要件となっていることから、「STの確保が難しい」という現場の声も紹介されています。

総-2資料では、上位区分の回復期リハ病棟(入院料1・2)について、こうした生活機能回復に資する加算の届出を要件化(義務化)する方向性が論点として提示されています。

これに対し、江澤委員は「上位区分の病棟に新たな義務を課すのであれば、それに見合う点数設定が必要です」と述べ、義務化と評価のバランスを求めました。

一方、松本委員は、「高い点数を受けている上位区分の病棟には、生活機能回復につながる取り組みを一定程度義務づけることは妥当だ」として、義務化の方向性自体には理解を示しました。

また、摂食嚥下機能回復体制加算の「専従ST要件」について、江澤委員は「言語聴覚士のニーズは非常に高い一方で、養成が十分ではありません。専従に縛るのではなく、より幅広い業務に関わることができるよう、要件の見直しを検討すべきです」と述べ、人材確保と制度要件のバランスの必要性を指摘しました。

退院前訪問指導の評価をどう高めるか

退院支援の場面では、退院前訪問指導の実態も示されました。総-2資料では、回復期リハ病棟における退院前訪問指導が、複数の職種が参加し、往復の移動時間を含めて長時間を要するケースが多いこと、在宅復帰に有用であることなどが示されています。

訪問指導を実施している病棟では、自宅復帰率やリハビリ実績指数が良好な傾向も示されており、在宅復帰支援としての有効性が裏付けられつつあります。

江澤委員は、「退院前訪問指導は在宅復帰を円滑にするうえで非常に有効であり、現場の負担も大きいことを踏まえると、現在の包括評価から出来高評価も含めて見直す必要があります」と述べ、評価の充実を求めました。

休日リハビリ提供の基準引き上げ

休日のリハビリ提供についても議論が行われました。現在、回復期リハ入院料1・2の施設基準では「休日も1日平均2単位以上」のリハビリ提供が求められている一方で、入院料3・4には明確な基準が設けられていません。

一方、総-2資料の分析によると、実際にはすべての入院料区分で平日・休日ともに1人1日5~6単位前後のリハビリが提供されており、休日の提供単位数は平日の8~9割程度に達していることが示されています。

また、急性期病棟に新設された【リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算】では、「休日のリハビリ提供量を平日の8割以上」とする要件が導入されています。

この状況を踏まえ、江澤委員は「入院料1・2では平日の8割以上、入院料3・4でも一定以上の休日リハ提供を求める方向性は理解できますが、現場の勤務体制を考慮しながら段階的に誘導していくべきです」と述べました。

太田委員も、「すでに休日リハは相当程度実施されていますが、基準を急激に引き上げると現場に大きな負担がかかります。経過措置を設け、無理なく対応できるようにしてほしいです」と、移行期間の確保を求めました。

一方、松本委員は、「現状でも休日リハの実績は高く、入院料1・2では基準値の引き上げ、入院料3・4でも一定の基準設定を行い、休日も含めたリハビリ提供体制をさらに整えていくべきです」と指摘し、数値目標の明確化を求めました。


高次脳機能障害患者の退院支援と地域連携

相談窓口の提示とネットワーク構築

4つ目の論点として、高次脳機能障害患者の退院支援と地域連携のあり方が取り上げられました。

令和6年度障害者総合福祉推進事業の調査によると、回復期リハビリ病棟126病棟を対象にした調査で、「高次脳機能障害のある患者が1~10人」という病棟が36.4%と最も多く、一定数の患者が回復期リハ病棟でリハビリを受けている実態が示されています。

一方で、関係機関へのヒアリングからは、

  • 急性期・回復期病院で高次脳機能障害の診断や説明が十分でない場合があること

  • 介護保険や障害福祉サービス、障害者手帳などに関する情報提供・申請支援が不十分なケースがあること

  • 高齢者中心の病棟では、壮年期の高次脳機能障害患者に対する支援ノウハウが蓄積されにくいこと

といった課題も報告されています(総-2資料p37)。

林課長は、退院支援の場面で「退院後に困ったときに相談できる窓口」の情報を伝達する重要性を強調し、高次脳機能障害支援拠点機関(全国126カ所)が地域における相談・連携の中核となっていることを紹介しました。

地域支援事業への参加を「義務化」へ?

2024年度診療報酬改定では、回復期リハ入院料1・2の病棟に対し、市町村が実施する地域支援事業(地域リハビリテーション活動支援事業等)への参加が「望ましい」と位置づけられました(令和6年度改定告示・通知)。総-2資料によると、2024年11月1日時点で、入院料1・2病棟の約7割が地域支援事業に参加している状況です。

松本委員は、「この参加状況を踏まえると、2026年度改定では、入院料1・2について地域支援事業への参加を義務化することも検討できるのではないでしょうか。また、入院料3・4についても『地域支援事業への参加が望ましい』という要件を設けるべきです」と提案しました。

江澤委員も、「高次脳機能障害の患者や家族を地域で支えるためには、医療・障害福祉・介護など多様な機関とのネットワーク構築が不可欠です。回復期リハ病棟が地域支援事業への参画を通じて、地域の支援資源とつながっていくことは重要です」と述べ、地域連携強化の方向性に賛意を示しました。

今後の焦点

今回の中医協総会では、総-2資料に基づくデータ分析を通じて、回復期リハビリ病棟が抱える構造的な課題が改めて整理されました。

  • 重症患者割合の基準が、本来の趣旨とは異なる運用を生みかねないこと

  • リハビリテーション実績指数の除外基準が、現状の患者構成やリハビリ効果と必ずしも整合していない可能性があること

  • 在宅復帰に直結する「トイレ動作」「移動能力」の改善を、診療報酬でどう評価するかという課題があること

  • 排尿自立支援加算・摂食嚥下機能回復体制加算、退院前訪問指導、休日リハビリ提供など、質の高いリハビリ提供に資する取り組みの評価の在り方を検討する必要があること

  • 高次脳機能障害患者の退院支援と、地域支援事業への参加を通じたネットワーク構築の重要性が指摘されていること

一方で、診療側委員が繰り返し強調したように、「画一的な基準設定によって、真に集中的なリハビリが必要な重症患者の受け入れが阻害されてはならない」という視点も共有されています。

データに基づく客観的な評価と、現場の実態に即した柔軟性とのバランスをどう取るかが、今後の診療報酬改定に向けた議論の大きな論点となります。

回復期リハビリ病棟が、機能回復と在宅復帰を支える中核として、より実態に即した役割と評価を得られるのか。中医協での審議を引き続き注視していく必要があります。

▶︎中央社会保険医療協議会 総会(第627回)

回復期リハ病棟の重症基準をどう見直すか ―FIM20点以下患者の扱いとリハ実績指数を巡る議論

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