2025年11月12日、自由民主党団体総局厚生関係団体委員会・厚生労働部会「予算・税制等に関する政策懇談会」が自由民主党本部で開催され、公益社団法人日本理学療法士協会(以下、PT協会)が2025年度補正予算および2026年度予算・税制改正に関する要望書を提出した。
PT協会からは斉藤秀之会長、佐々木嘉光副会長が出席し、出席した自民党国会議員に対して要望事項を説明した。
予算6項目、税制5項目の要望を提出
要望書は予算に関する6項目(うち緊急重点要望2項目)、税制に関する5項目(うち重点要望3項目)で構成されている。
予算に関する要望は以下の通り。
- 1.医療・介護・福祉における理学療法士の確実な処遇改善<緊急重点要望>
- 2.経済・物価動向等を踏まえた公定価格の引き上げ<緊急重点要望>
- 3.医療・介護保険財源の安定化に向けた理学療法提供体制の充実
- 4.国が認める登録理学療法士制度、認定・専門理学療法士制度の確立と社会保障に資する評価
- 5.施行から約60年に及び改正されていない理学療法士の資格法の在り方に関する検討会の設置
- 6.リハビリテーション課の新設とリハビリテーション政策を担う担当部局への理学療法士の配置
税制に関する要望は以下の通り。
- 1.医療従事者の処遇改善に向けた税制優遇措置の導入<重点要望>
- 2.へき地でのサービス利用を支援する新たな税制措置<重点要望>
- 3.健康経営に資する企業への継続的な税制優遇措置の検討<重点要望>
- 4.医療・介護分野におけるDX推進への継続的な税制優遇措置
- 5.災害対応用機器の取得・維持に係る税制優遇措置の創設
トリプル改定後も賃上げ未達成、補正予算での「真水」対策を要望
緊急重点要望として、日理協は「理学療法士の確実な処遇改善」を掲げた。令和6年度のトリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定)でベースアップ施策が導入されたものの、2年経過しても十分な賃上げが実現していない実態を指摘した。
PT協会が実施したリハビリテーション専門職団体協議会による令和7年度の調査結果によると、今年度現金給与総額の引き上げを実施した施設は医療施設で66%、介護施設・事業所で43%、障害福祉施設・事業所で54%にとどまった。また、過去2年間におけるベースアップの実施率は医療施設で26%、介護施設・事業所で40%、障害福祉施設・事業所で41%と極めて低い水準であることが明らかになった。
PT協会は、消費者物価指数の上昇率(前年比2.7%)を考慮し、物価上昇を上回る最低でも5.5%以上の賃上げ、および全産業平均年収に近づく医療・介護・障害福祉分野のすべてのリハビリテーション専門職の格差が生じない確実な賃上げの達成を強く求めた。具体的には、今年度補正予算での「真水」による抜本的な対策を行うことを要望している。


約20年据え置きの疾患別リハ料、総合的に10%以上の引き上げを要請
もう一つの緊急重点要望として、PT協会は「経済・物価動向等を踏まえた公定価格の引き上げ」を掲げた。
平成18年度(2006年)の疾患別リハビリテーション料導入により、リハビリテーション料等の技術料は引き下げられ、以後約20年間、理学療法士の技術料はほとんど変わらないままとなっている。
PT協会の試算によると、現状ではリハビリテーション専門職1人あたりの年間利益はおよそ1,094万円、人件費率33.5%であるところ、病院経営を安定させ、全産業平均並みの賃上げを達成するためには、リハビリテーション専門職1人あたりの年間利益をおよそ1,202万円まで引き上げる必要がある。
PT協会は、疾患別リハビリテーション料を総合的に10%程度引き上げることで、現行の人件費率に則り、全産業平均年収に届くだけの賃上げが達成できると説明。次年度の診療報酬改定に係る予算による早急な公定価格の引き上げ、およびその報酬が確実にリハビリテーション専門職の賃金に反映される対策の推進を強く要望した。


国会議員から「責任を持って取り組むべき」と力強い発言
懇談会に出席した国会議員からは、「介護・医療分野においては、要望というより怒りに強い印象であり、責任を持って取り組むべき」との発言があった。
また別の議員からは、「新総理のもと積極財政で期待感が高まっているものの、十分な手当てができないとなった時、希望から絶望へと変わることで、大変な反動になることを肝に銘じるべき」と、政党としての危機感について力強い発言があった。
資格法改正、リハビリテーション課新設なども要望
その他の重要な要望として、PT協会は施行から約60年に及び改正されていない理学療法士及び作業療法士法について、時代に即した法制度への見直しに向けた検討会の設置を求めた。


また、厚生労働省内にリハビリテーション分野を専門的・体系的に担う「リハビリテーション課」の設置に向けた検討会の立ち上げおよび必要に応じた制度整備についても要望している。令和6年12月に開催された「第10回リハビリテーションを考える議員連盟総会」において、厚生労働省内の当該局へリハビリテーション専門官が加配されることが明言され、速やかに実行された経緯を踏まえ、さらなる体制整備を求めた。
PT協会は今後も、政府与党ならびに関係省庁に対する要望活動を通じて、国民の医療・保健・福祉の増進と、理学療法の推進や充実、処遇改善などを働きかけていく方針だ。
▶︎自民党「予算・税制等に関する政策懇談会」に2025 年度補正予算および2026年度予算・税制改正に関する要望書を提出しました
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理学療法士としての現場経験を経て、医療・リハビリ分野の報道・編集に携わり、医療メディアを創業。これまでに数百人の医療従事者へのインタビューや記事執筆を行う。厚生労働省の検討会や政策資料を継続的に分析し、医療制度の変化を現場目線でわかりやすく伝える記事を多数制作。
近年は療法士専門の人材紹介・キャリア支援事業を立ち上げ、臨床現場で働く療法士の悩みや課題にも直接向き合いながら、政策・報道・現場支援の三方向から医療・リハビリ業界の発展に取り組んでいる。







