厚生労働省は2026年4月10日、「第1回 2040年に向けた看護職員の養成・確保の在り方に関する検討会」を開催しました。看護職員の需給推計を2040年まで延長し、推計方法を見直す方針が示され、訪問看護をはじめとする領域偏在や養成校の定員割れといった構造的課題が議論の俎上に載りました。訪問看護ステーションを経営する療法士にとっても、看護師採用の見通しを左右する動きです。
検討会の位置づけ──新・地域医療構想と連動
本検討会は、現在策定が進む新たな地域医療構想に合わせ、看護職員の養成・確保策と需給見通しを一体的に検討するために設置されたものです。検討事項は以下の3点です。
- (1)今後の看護職員に求められる資質
- (2)2040年に向けた看護職員の養成・確保への対応
- (3)2040年に向けた看護職員の需給見通し
座長は小野太一氏(政策研究大学院大学副学長・教授)。日本看護協会、日本医師会、日本病院会のほか、訪問看護財団や在宅ケアアライアンスの代表も構成員に名を連ねています。
訪問看護の求人倍率は他領域を大きく引き離す
検討会に提出された資料3「看護を取り巻く現状について」では、都道府県ナースセンターにおける領域別の看護職員の求人倍率(2024年度)が示されました。訪問看護ステーションは4.54倍で、2位の病院(20〜199床)の3.00倍を大きく上回り、看護職員の人材確保がとりわけ困難な領域であることが改めて浮き彫りになっています。

訪問看護ステーションで就業する看護職員数は、2002年の約2.4万人から2023年には約8.7万人へと3.6倍に増加しました。それでもなお需要に追いついていない状況です。
訪問看護の利用者数は、多くの二次医療圏(198の医療圏)で2040年以降にピークを迎えると推計されており、後期高齢者の割合は2025年以降に7割を超える見通しです。在宅医療全体でも、在宅患者数は多くの地域で今後増加し、2040年以降に237の二次医療圏でピークを迎えるとされています。
養成校の受験者数は5年で30%減──定員充足率も低下
看護師学校養成所(3年課程)の受験者数は、大学・養成所合計で令和元年の203,524名から令和6年の142,069名へ、5年間で30.2%減少しました。養成所(3年課程)に限ると67,611名から35,728名へと47.2%の減少です。
3年課程全体の定員充足率は令和7年度で79.5%。平成20年度の96.7%から長期的に低下傾向にあります。充足率30%未満の課程が69、30%以上40%未満が54と、合わせて123の課程が深刻な定員割れ状態にあります。2025年以降に廃止が予定されている課程は94課程に上ります。

需給推計は2040年まで──委員からは「途中見直し」の声
資料5「看護職員の需給推計について」では、従来5年程度だった推計期間を2040年まで17年程度に延長する方針が示されました。供給推計の論点として、若年人口の減少を反映した新規就業者数の推計や、現在の就業者の約半数を占める45歳以上の者が2040年に60〜80歳代以上となることを踏まえた推計方法が提案されています。
委員からは「推計期間が長期になるため、途中での見直し時期を明確にすべき」との意見が複数出ました。日本在宅ケアアライアンスの新田國夫理事長は、在宅医療の需要推計について「介護保険サービスだけでなく、医療保険で訪問医療に関わる人材も考慮すべき」と指摘。看護師の賃金水準が一般職と比べて低い現状にも触れ、「待遇改善なくしては人材確保は難しい」と述べました。
訪問看護をめぐる委員の発言──現場からの声
検討会では訪問看護の人材確保について、複数の委員から現場の実情を踏まえた発言がありました。
日本訪問看護財団の平原優美常務理事は、訪問看護の対象が「高齢者だけでなく医療的ケア児や重度の精神疾患の方など、0歳から100歳まで多様化している」と指摘。夜間の緊急対応については「若い看護師が深夜に一人で訪問先へ向かう。親御さんの世代にも葛藤があり、『訪問看護にならないでほしい』と家族に言われて退職したナースもいる」と、安全面の課題を訴えました。
北海道大学の古元重和教授は「特に地方や僻地において訪問看護の人材不足が大きな課題になっている」と述べ、潜在看護師や若手を対象とした実践的研修の充実を求めました。
日本病院会の園田孝志副会長は、訪問看護は新人には難しく、まず病院で経験を積んだ看護師が担うのが現実的だとの見方を示しました。一方、介護老人保健施設の樋口秋緒氏は「学生の中で卒業後の就職先として訪問看護を考える人が非常に少ない」と、養成段階から在宅領域への意識づけが必要だと主張しました。
需給推計の議論では、樋口氏が高齢看護師の継続雇用・再雇用に伴う人件費の問題に触れ、「中小病院では赤字化が進んでおり、年齢が一定に達した看護師を継続・再雇用していくには人件費への補助も考える必要がある」と述べました。
養成・確保策の論点
資料4では、今後議論される養成・確保策の論点案が示されました。主な項目は以下のとおりです。
養成の在り方:看護の実践能力を高めるための養成課程・研修の在り方、少子化に対応した養成所の運営、社会人経験者のリスキリング支援
地域の確保策:地域偏在への対応、領域偏在への対応(訪問看護等)、求人・求職間のミスマッチの改善、ハローワークと一体となった就職支援
勤務環境改善:多様で柔軟な働き方への対応(育児・介護との両立支援、夜勤の在り方含む)、ICT機器の活用による業務効率化、カスタマーハラスメント対策の強化
今後のスケジュール
検討会は2026年春から秋にかけて供給推計・需要推計の議論を進め、冬頃にとりまとめを行う予定です。看護職員の需給推計は、各都道府県が地域医療構想を策定するうえでの基礎資料となります。訪問看護ステーションの人材確保策がどこまで具体化されるか、今後の議論が注目されます。






