本領域の目的:
超高齢社会を迎えた我が国では、加齢に伴う運動器の障害や脳卒中・脳変性疾患による運動麻痺等が急増しており、これらの運動機能障害を克服する有効なリハビリテーション法の確立が急務である。その鍵を握るのは、身体機能の変化に対する脳の適応メカニズムの解明である。例えば、加齢による転倒の増加は、運動機能の低下に脳の適応が伴っていないことを示唆する。また逆に、運動器には障害が無い病態でも身体認知に異常が生じ得る。これらの事実は、我々の脳内には身体のモデル(脳内身体表現)が構築・保持されており、これに異常が生じると感覚系や運動系に深刻な障害が起きることを意味する。 本領域では、脳内身体表現の神経機構とその長期的変容メカニズムを明らかにし、リハビリテーション介入へと応用することを目的とする。このため、システムの振る舞いを数理モデルとして整合的に記述できるシステム工学を仲立ちとして脳科学とリハビリテーション医学を融合することを試みる。これにより、運動制御と身体認知を統合的に理解し、真に効果的なリハビリテーション法を確立する「身体性システム科学」なる新たな学問領域の創出を目指す。