日本病院会は30日、Web記者会見を開き、今夏の参議院選挙を見据えた新たな政策提言を公表しました。会見では、4月26日に開催された常任理事会の議論をもとに、地域医療の崩壊を防ぐための「5つの重点項目」が示されました。
相澤孝夫会長は「まずは国民と議員の皆様に、病院の実情を知っていただくことが必要です」と述べ、病院経営の危機的状況と、その打開に向けた財政支援の必要性を訴えました。
1.「今にも倒れそうな病院」への即時財政出動を
最初に挙げられたのは、経営危機に直面する病院への緊急支援です。すでに一部地域では病院の閉鎖が発生し、地域医療が崩壊しかけている現実があるといいます。
「出血して倒れそうな病院は、今年中にでも財政的に救わなければなりません」と相澤会長は強調しました。支援の対象は全国各地に存在しており、もはや猶予はないとしています。
2.据え置かれ続けた「入院基本料」の見直しを要望
2点目は、長年実質的に据え置かれてきた入院基本料の引き上げです。看護料や医学管理料などを一体化した入院基本料は、現行水準では職員の処遇改善や施設更新すらままならないと指摘されました。
「人材確保、教育、施設の維持更新すべてにおいて、今の入院基本料では限界があります」と訴え、診療報酬全体の再設計が必要であると訴えました。
3.「とりあえず診てくれる病院」の役割を明確に
地域で急病や休日の診療に対応できる「とりあえず診てくれる病院」の機能が曖昧なままになっていることにも言及しました。特に高齢者が増加する地域では、外来と入院を一体で担う病院の存在が極めて重要であるとしています。
「国民にとって必要なのは、すぐに診てもらえる安心感です。このような医療機関の明確な位置づけと支援体制が必要です」と話しました。
4.総合診療医の育成とキャリアパスの整備を
高齢化社会の中で、専門分野にとらわれず総合的に診療できる医師の重要性が増しています。日本病院会では、こうした「総合診療医」の育成と、それを支えるキャリアパスの整備に取り組む意向を示しました。
「地域医療構想の中では手術件数の減少が予想されます。その分、幅広く診られる医師の存在が不可欠です」とし、「医師としても人としても働きやすい仕組み」が求められていると強調しました。
5.病院は地域経済の核──創生政策との一体化を提言
最後に、病院の地域経済における役割にも言及しました。病院の収入の約半分は職員の給与に充てられており、雇用の創出や消費喚起といった面でも、地域活性化の中心的存在であると述べました。
「病院があることで、その地域に安心と経済の循環が生まれます。地域創生政策の文脈で病院への支援を考えるべきです」と訴えました。
国民の理解を第一に、5月中旬に提言公表へ
これらの5項目は、5月中旬を目途に正式な文書として取りまとめ、日本病院会の提言として国民や議員に向けて公表される予定です。
「病院は儲かっている」「医師は高給取り」といった誤解を払拭し、医療の実情に即した支援を求めていくと相澤会長は述べました。
また、参議院選挙や「骨太方針2025」への提言提出も視野に入れており、今後は他団体とも連携しながらロビー活動を強化する方針です。
「病院がなくなるということは、地域がなくなること」
記者会見の締めくくりで相澤会長は「病院がなくなるということは、地域がなくなることだと思っています」と語り、医療の持続可能性を確保するための社会全体の理解と協力を呼びかけました。