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介護医療院、6割超が「最後の砦」として機能―医療・介護の狭間埋める受け皿に

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2025年度調査で明らかに 稼働率9割超も人材不足が課題

日本慢性期医療協会は10月9日の定例記者会見で、日本介護医療院協会が実施した2025年度の調査結果を公表した。介護医療院の約7割が「介護施設にも病院にも入ることができない方々の最後の砦となっている」と回答し、医療と介護の狭間にある患者の受け皿として機能している実態が浮き彫りになった。

調査は2025年6月に全国の介護医療院763施設を対象に実施し、156施設から回答を得た。回答率は20.4%で、療養床数の合計は1万1367床だった。

高い稼働率と重度化進む入所者

日本介護医療院協会会長で医療法人社団三喜会理事長の鈴木龍太氏が調査結果を報告した。稼働率は全体で92.1%と高水準を維持しており、I型が91.7%、II型が93.3%だった。鈴木氏は「創設以来、高い稼働を維持している」と説明した。

平均要介護度はI型が4.31、II型が3.89で、鈴木氏は「I型は4以上。II型も当初は3点台が多かったが、少しずつ上がってきている」と述べた。

介護報酬は改善傾向も医療行為の負担増

2025年5月の介護保険算定単価は、I型が1万5871円、II型が1万2901円だった。2021年に移行定着支援加算の廃止で大きく下がったが、その後は徐々に上昇している。鈴木氏は「I型は下がってから一番高い数字になっている。介護報酬改定の影響があるかもしれない」と分析した。

在宅復帰も一定数実現

退所先の傾向では、死亡退所が全体の54.8%と最も多かったが、自宅への退所が6.7%、自宅系高齢者施設への退所が7.7%で、合わせて約15%が在宅復帰している。鈴木氏は「去年は11%くらいだったが、今年は15%くらいになっている。リハビリを熱心にやっているので、在宅復帰に向けても少しずつ効果が出てきている」と説明した。

II型の独立型では、他院への転院が多い傾向が見られた。鈴木氏は「夜間に医者がいないため、何か変化が起こった時には病院へ転院する傾向がある」と指摘した。

要介護度と医療ニーズのギャップが課題

今回の調査で新たに追加された項目として、急性期病院からの受け入れ時の要介護認定状況が明らかになった。未認定または要支援1・2の入所者が4.6%、要介護度1・2の入所者が12%おり、合わせて約16%が軽度または未認定の状態で入所していた。

さらに、要介護度1・2で入所した人のうち51.5%で、認定された要介護度と実際の医療・介護ニーズにギャップがあったという。鈴木氏は「実際の利用者の状況の方が、判定された要介護度よりも重度である。医療行為が多い。そういうギャップがあった入所者が全体の50%もいた」と述べ、「それによって施設の業務負担が増えたり、医療行為による持ち出しが増えたりする。収入としては要介護度が低いので、施設としては経営的に難しい」と課題を指摘した。

協力医療機関との連携は概ね良好

2025年7月1日時点で、98.1%の施設が協力医療機関を定めていた。このうち71.2%は法人内医療機関で、急変時の緊急転院は約半数の施設で実施できている。

一方、協力医療機関連携加算については、66%の施設が50単位の加算を算定しているものの、33.3%の施設は算定していない。算定していない理由として、50%の施設が「定期的な会議を行う体制が整わない」と回答した。

本人参加のACP実施は依然困難

施設基準で求められている「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組みについて、3カ月間で2340件の意思確認カンファレンスが開催されたが、本人が参加して意思を表明できたのはわずか60件、2.6%だった。

鈴木氏は「介護医療院は要介護度4、5に近い人たちなので、本人の意思を確認するのは難しい」と説明。一方で、入所前にACPを実施していた入所者が12.5%、事前指示書を持参していた入所者が11.7%いたことを挙げ、「本人の意思決定を尊重するのであれば、もっと状態が良い時期に参加するということを推奨すべきだ。最初に介護認定をする時や、急性期病院でこういうことを進めるなど、介護医療院で進めるよりはもっと前の段階で進めていただけたらいい」と提言した。

身体拘束ゼロへの取り組みと現実のギャップ

尊厳の保持に関する取り組みでは、「身体拘束ゼロへの取り組み」が5点満点中4.2点と最も高い評価だった。しかし実際には、62.2%の施設で身体拘束を実施せざるを得ない状況にあり、最も多い理由は「経鼻栄養等チューブトラブル防止」(90.6%)だった。

人材不足が最大の課題

現場で苦労していることとして、介護職確保が75.5%で最も多く、次いで看護師確保が56.8%、身体拘束ゼロ対策が52.9%だった。外国人を採用している施設は50%に上り、特定技能が29%、技能実習が23%を占めた。

【資料引用:同25ページ、29ページ、30ページ】

経営状況は他施設と比べ良好

介護医療院単独で黒字と回答した施設は、I型で39.8%、II型で34.1%だった。赤字はI型で26.9%、II型で29.5%。鈴木氏は「特養では2022年に赤字だった施設が62%。病院全体の赤字が70%とかいう風に報道されているので、それらと比べると介護医療院は経営上悪くないかもしれない」と述べた。

経営状態を分析すると、I型では黒字施設の稼働率が93.1%で赤字施設の85.8%より高く、II型では黒字施設の平均要介護度が4.10で赤字施設の3.83より高かった。鈴木氏は「稼働率と平均要介護度で経営の状態が完全に決まる」と説明した。

7割が「やって良かった」

介護医療院を開設して良かったかという質問には、全体の66.7%が「良かった」と回答した(I型69.1%、II型59.1%)。「悪かった」はI型で2.7%、II型で4.5%と少なかった。鈴木氏は「新しい施設で70%以上が良かったと言ってくださる施設はなかなかない。介護医療院は成功していると思う」と評価した。

今後の課題と要望

自由記載では、「医療行為が増加し施設の持ち出しになる。算定できる医療行為を増やしてほしい」「要介護度と実際の医療・介護必要度のギャップを埋めてほしい。ターミナル加算等が必要」「介護職員処遇改善の割合が低い」「全体の介護報酬を上げてほしい」などの要望が出された。

質疑応答

鈴木氏は特養と比べて赤字割合が低い理由について「介護医療院は割と人気が高くて稼働率が高い。本当に最後の砦という形で空きは割とない。要介護度も特養と比べて高いかもしれない」と説明した。

日本慢性期医療協会会長の橋本康子氏は、特養との違いについて「特養は最近地方では空所があるようなところもある。特養は患者さんがすごく重度化しているので、しょっちゅう入院される。入院治療を受けているとそこがマイナスになっていく」と補足した。また身体拘束について、「覚悟と人員が必要。特養や老健と違って医者や看護師が近くにいるので、取り組む姿勢や努力はしやすい」と述べた。

鈴木氏は病床稼働率と経営の関係について「慢性期の病院は全く稼働率に連動している。介護医療院も包括なので稼働率に連動する。一般病院は稼働率とは連動しない」と説明した。

橋本氏は「病院の中にあると比較的出ていくコストが少ない。大きな病院の中にあるというのが一つの利点だ」と付け加えた。

会見の最後に、鈴木氏は「厚労省が発表してくださるのに、今の療養床数が数えられないのがとても残念。最近は医療と介護の狭間の、本当にそういう人たちの最後の砦になっているという意見がすごく多い。その代わり、入ったら医療行為や手間がかかる方が増えてきていて、当初よりもすごく増えてきている。施設の経営的な負担や業務的な負担がすごく負荷がかかっているのが現状だ」と述べた。

橋本氏は「高齢化で病気が終わりになる方が多い。そのまま放っておいて看取りをすればいいというわけではなく、治療しなきゃいけないというところも往々にある。介護医療院はすごく有用な施設だ」と強調。「決して楽をして儲けているということではなく、本当に今の高齢者の方の需要と合っている。医療と介護と看護が一緒になって提供される施設というところが、やりがいがある」と述べた。

鈴木氏は最後に「誤解しないでいただきたいが、決して儲かってはいない。ギリギリだ」と付け加えた。

介護医療院、6割超が「最後の砦」として機能―医療・介護の狭間埋める受け皿に

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