【特集】訪問リハビリテーション30年、看護とリハの綱引き史

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1992年の老人訪問看護制度から令和9年度改定の議論まで、訪問看護ステーションからのリハ職訪問と訪問リハビリテーションをめぐる制度の変遷を、一次資料でたどる特集です。

2026年6月29日、令和9年度介護報酬改定に向けた社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)に提出された訪問看護の資料に、こんな一文が置かれました。「医療処置を含めた24時間の看護サービスの提供ではなく、リハビリテーションの提供が主体の事業所も一定数あると推察される」。訪問看護ステーションによる要介護者への訪問看護のうち、単位数ベースで34.1%(令和6年度)は理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による訪問です。

リハ職の在宅訪問は、看護の代わりなのか。それとも独立した専門職サービスなのか。30年余り前、その大きな部分が「看護の中」で制度化されたこの仕事をめぐって、国は、看護は、そしてリハ職は、綱を引き続けてきました。2020年の冬には、19万筆の署名が厚生労働大臣に提出される大きな対立も起きています。本特集は、その綱引きの30年史です。

目次

第1章 三つの入口──在宅リハ30年の地図

ある利用者の家に、月曜日は訪問看護ステーションの理学療法士が来ます。木曜日には、近くの病院の訪問リハビリテーションから作業療法士が来ることもあります。もし3団体が求めてきた構想が実現していれば、リハ職だけで開設した「訪問リハビリテーションステーション」から誰かが来る未来もありました。

リハ職が利用者の家に入る道は、この30年で三つ語られてきました。

第一の入口は、訪問看護ステーションからの訪問です。介護保険では「訪問看護費」の一部として算定され、リハ職の訪問はあくまで看護の一環と位置づけられています。介護保険の給付規模で見ると、これが最も大きな入口です。1単位を10円と機械的に仮定した参考試算では、訪問リハビリテーション本体の費用額(令和3年度・介護予防を含む約614億円)の約1.7倍の規模に達します。

第二の入口は、病院・診療所・介護老人保健施設などが行う訪問リハビリテーション、いわば正面玄関です。医師の配置が必須で、事業所は医療機関等に限られます。

第三の入口が、冒頭の「訪問リハビリテーションステーション」。リハ職能団体が長年求め続けながら、いまも全国制度になっていない、幻の入口です。

なぜ最も大きな入口が看護の制度の中にあり、正面玄関は広がりにくく、第三の入口は実現していないのか。30年をさかのぼります。

図表1

訪問リハビリテーション30年 制度変遷タイムライン(1991-2026)

クリックで各イベントの詳細が展開します

制度の節目(創設・改定) 減算・規制 リハ職側の動き
1991年老人保健法等改正法 公布(平成3年法律第89号)+

1991年10月4日に公布された老人保健法等の一部を改正する法律(平成3年法律第89号)が、この30年史の起点。翌年に始まる老人訪問看護制度の法的な根拠となった。

1992年老人訪問看護制度 施行。「看護婦その他厚生省令で定める者」としてPT/OTが従事者に+

寝たきりの高齢者などの家庭に看護職が出向く老人訪問看護制度が始まり、老人訪問看護ステーションが誕生。PT・OTは条文に名前がなく、「その他厚生省令で定める者」として省令のレベルで従事者に加えられた。事業の中身は「療養上の世話又は必要な診療の補助」で、看護業務と同じ言葉が使われた。

1994年健康保険法改正で訪問看護療養費 創設。みなし指定を導入+

1994年10月、健康保険法改正で「訪問看護療養費」が創設され、訪問看護は難病患者や末期がん患者など老人以外にも拡大。既存の指定をもって別制度の指定を受けたものと扱う「みなし指定」の仕組みが、この時点で導入された。

1997-98年言語聴覚士法 成立・施行+

言語聴覚士法が1997年に成立し、1998年9月に施行。老人訪問看護制度の出発時点では、STは国家資格すら存在していなかった。

2000年介護保険施行。訪問リハ(病院・診療所)と訪看STのリハ職訪問が並立。リハ職は「適当数」+

介護保険制度が始まり、在宅リハの入口は訪問看護ステーションからのリハ職訪問と、新設の居宅サービス「訪問リハビリテーション」(開設は病院・診療所に限定、医師の配置が要件)の二つに。訪看STの人員基準は看護職員常勤換算2.5人以上に対し、リハ職は下限のない「適当数」とだけ規定された。

2003年石川誠氏が「訪問ステーション」構想を提唱。老健が訪問リハに参入可能に+

2003年3月の第1回訪問リハビリテーション研究会で、石川誠氏(初台リハビリテーション病院長・当時)が訪問看護・訪問リハ・訪問介護を統合した「訪問ステーション」の創設を提案。同年から介護老人保健施設が訪問リハに参入可能になった。

2006年訪問リハでST算定可・リハマネ加算創設。3団体の連名要望は2008年+

2006年度改定から訪問リハ本体で言語聴覚士の訪問が算定可能になり、リハビリテーションマネジメント加算(1日20単位)も創設された。日本理学療法士協会・日本作業療法士協会・日本言語聴覚士協会の3団体は、公開資料で確認できる限りでも2008年9月に「訪問リハビリステーション」の創設を連名で要望している。

2009年訪問リハが1日550→500単位を経て1回20分・305単位の時間単位制へ。リハマネ加算は包括化+

1日単位の包括評価だった訪問リハは、2006年改定で1日550→500単位に引き下げられた後、2009年度改定で「医療保険等との整合性」を理由に1回20分・305単位の時間単位制へ。原則週6回という上限もこのとき定まり、リハマネ加算は基本報酬へ包括化されていったん姿を消した。

2011-12年「共同利用型」要望書提出→2012年度改定で実現せず。復興特区で特例開設始まる+

2011年8月、3団体が「共同利用型訪問リハビリステーションの設置について(要望)」を厚生労働大臣に提出したが、2012年度改定では実現しなかった。一方、東日本大震災の復興特別区域法に基づく特例で、被災地では医療機関等でなくても訪問リハ事業所を開設できるようになった。

2015年訪看STのリハ職訪問 318→302単位(訪問リハと「報酬の整合」)。リハマネ加算再創設+

訪看STのリハ職訪問は1回20分あたり318→302単位へ。理由は訪問リハビリテーションとの「報酬の整合」だった。訪問リハ側ではリハマネ加算が再創設され、「活動と参加」に働きかける生活期リハへの転換点となった。

2018年302→296単位。計画書の連携作成・利用者への説明同意を要件化。訪問リハに診療未実施減算+

302→296単位への引き下げとあわせ、計画書・報告書の看護職員との連携作成、看護職員による定期的な訪問評価、「看護職員の代わりにさせる訪問であること等を利用者等に説明し、同意を得る」ことが要件化された。訪問リハ側には診療未実施減算(当初20単位減)が設けられた。

2020年4月医療保険でリハ職訪問を独立区分「ニ」に分離。機能強化型に看護6割要件+

2020年度診療報酬改定で、看護師と同区分・同額だったリハ職の訪問看護が独立の区分「ニ」(5,550円)に切り出され、週4日目以降の増額(6,550円)も適用されなくなった。機能強化型訪問看護管理療養費の施設基準には「看護職員6割以上」の要件が入った。

2020年11月第193回分科会で人員基準「看護6割」を提案。3協会が翌日に反対声明+

11月16日の第193回介護給付費分科会で、厚生労働省が人員配置基準に「看護職員6割以上」の要件を設ける案を正式に提案。人員配置基準のため、満たせない事業所では指定の維持に影響が及ぶおそれがあった。翌17日、3協会は約8万人の利用者がサービスを受けられなくなり、リハ職約5,000人が雇用を失うとの推計(いずれも3協会の試算)を示す合同声明で反対した。

2020年12月反対署名188,035筆を田村厚労相に提出。人員基準は見送りへ+

反対署名は最終188,035筆(紙面署名105,986筆・インターネット署名82,049筆)。12月8日、3協会が要望書とともに田村憲久厚生労働大臣に提出した。12月の審議報告で、人員配置基準への6割要件は見送りが決まった。

2021年297→293単位。看護6割は看護体制強化加算の要件に。予防は2回超を50%算定に+

基本単位は297→293単位(2019年10月の消費税対応で296から297になっていた)。「看護職員6割以上」は看護体制強化加算の算定要件として新設される形に落ち着いた(施行は2023年4月1日まで猶予)。介護予防では1日に2回を超える訪問の単位が所定単位数の90%から50%に引き下げられ、12か月を超えて利用する場合の減算も新設された。

2024年老健・介護医療院のみなし訪問リハ解禁と、リハ職訪問の8単位減算が同時施行+

介護老人保健施設・介護医療院の開設許可をもって訪問リハ事業所の指定があったものとみなす省令改正(2024年6月1日施行)で正面玄関を拡大。同時に、訪看STのリハ職訪問には、リハ職の訪問回数が看護職員を超えている等の事業所を対象に1回につき8単位の減算が導入された。看護職員よりリハ職の訪問が多いこと自体を、新たに減算事由とする仕組み。

2026年第259回分科会で令和9年度改定の論点提示。「リハ提供が主体の事業所も一定数」+

6月29日の第259回介護給付費分科会で、令和9年度改定に向けた訪問看護の論点を提示。リハ職訪問の割合(単位数ベース)が要介護で34.1%(令和6年度)に達した推移を示した上で、「リハビリテーションの提供が主体の事業所も一定数あると推察される」と現状を整理した。議事録では日本医師会の江澤和彦委員が「本来のあるべき訪問看護あるいは訪問看護ステーションではなく、かなり乖離した状況」と発言。

2026年3協会が「訪問リハビリテーションステーションの再構想」を要望+

9月16日の第267回介護給付費分科会(関係団体等意見交換会)で、リハビリテーション専門職団体協議会が「訪問リハビリテーションステーションの再構想を検討していくべき」と記した資料を提出。中山間・人口減少地域で、復興特区の特例に準じた開設要件の緩和と、かかりつけ医の指示による提供を求めた。訪問リハ事業所のない市町村は38.7%。

2026年第271回分科会で改定の方向性。訪看のPT等訪問は「評価の見直し」、訪問リハは事業所医師の診療を基本に+

10月19日の第271回介護給付費分科会で、訪問看護ステーションの理学療法士等による訪問看護について「サービスの提供体制や実績等を踏まえた評価の見直し」を論点に提示(具体的な単位数・要件は示さず)。訪問リハビリテーションでは、適用猶予期間を設けたうえで事業所医師の診療による実施を基本とし、猶予期間中は診療未実施減算とリハマネ加算の併算定を不可とする案が示された。減算の算定率は創設時の20.8%から11.0%に低下。

出典:本特集記事、衆議院 制定法律(平成3年法律第89号)、社会保障審議会介護給付費分科会 各回資料・議事録、各年度介護報酬・診療報酬改定資料、日本理学療法士協会・3協会合同声明 ほかから編集部作成

図表2 リハ職が在宅に入る三つの入口の概念図(訪問看護ステーション・訪問リハビリテーション・幻の訪問リハステーション)

図表2:リハ職が利用者の家に入る三つの入口。介護保険の給付規模で最も大きな入口は訪問看護ステーション(介護報酬「訪問看護費」の一部)で、正面玄関の訪問リハビリテーションは医師必置・医療機関等に限定、第三の「訪問リハビリテーションステーション」は全国制度になっていない。

第2章 1992──「看護婦その他厚生省令で定める者」

物語の起点は1991年10月4日に公布された老人保健法等の一部を改正する法律(平成3年法律第89号)です。翌1992年4月、寝たきりの高齢者などの家庭に看護職が出向く「老人訪問看護制度」が始まり、老人訪問看護ステーションが誕生しました。なお、病院・診療所からの訪問リハビリは、医療保険で1988年に「寝たきり老人訪問リハビリテーション指導管理料」が設けられ、すでに始まっていました。本特集が起点に置くのは、リハ職が「看護」の名で訪問する仕組みの誕生です。

このとき、法律は老人訪問看護事業をこう定義しました。

「疾病、負傷等により、寝たきりの状態にある老人又はこれに準ずる状態にある老人…に対し、その者の家庭において看護婦その他厚生省令で定める者が行う療養上の世話又は必要な診療の補助…を行う事業をいう」(老人保健法第6条第5項)

理学療法士と作業療法士は、条文に名前がありません。「その他厚生省令で定める者」として、省令のレベルで従事者に加えられました。事業の中身は「療養上の世話又は必要な診療の補助」で、保健婦助産婦看護婦法が定める看護業務と同じ言葉が使われています。訪問看護の制度の中では、リハ職の訪問は看護業務の担い手の一部として位置づけられたことになります。その後の議論の出発点の一つを、この条文に見ることができます。

なお、言語聴覚士はこの時点でまだ国家資格すら存在しません。言語聴覚士法の成立は1997年、施行は1998年9月です。

1994年10月には健康保険法改正で「訪問看護療養費」が創設され、訪問看護は難病患者や末期がん患者など老人以外にも広がりました。このとき、指定老人訪問看護事業者は、別段の申出をしない限り、指定訪問看護事業者の指定があったものとみなす仕組みが導入されています。後に介護保険でも用いられる「みなし指定」(既存の許可・指定をもって別制度の指定を受けたものと扱う仕組み)が、この時点で導入されました。

医療保険の世界では、リハ職の訪問は看護師の訪問と同じ区分・同じ金額で算定される時代が、2020年の区分分離まで続きます。報酬の上では、リハ職の訪問を看護師の訪問と区別しない扱いが続いた時期でした。

第3章 2000──並立の始まりと「適当数」の伏線

2000年4月、介護保険制度が始まります。介護保険の中で、在宅リハの入口は二つのサービスに分かれました。

一つは訪問看護ステーションからのリハ職の訪問。もう一つが、新設の居宅サービス「訪問リハビリテーション」です。ただし後者を開設できるのは病院・診療所に限られ(介護老人保健施設の参入は2003年から)、医師の配置が要件とされました。保険医療機関であれば指定を受けたものとみなす「みなし指定」の本則(介護保険法第71条。介護老人保健施設は第72条)も、このとき整いました。

同じ年、訪問看護ステーションの人員基準にも重要な線が引かれています。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第60条は、看護職員を「常勤換算方法で、二・五以上となる員数」(常勤換算=非常勤職員の労働時間を常勤の人数に換算する方法)と定めています。一方、理学療法士・作業療法士については「指定訪問看護ステーションの実情に応じた適当数」とだけ規定しました。当時の解釈通知は、理学療法士・作業療法士について「配置しないことも可能である」とまで書いています。

上限のない「適当数」。看護職員の常勤換算2.5人という基準を満たせば、リハ職の人数や割合には人員基準上の上限がない。この非対称な建付けは、のちに「リハ職主体の訪問看護ステーション」が増えていく背景の一つになったと考えられます。

一方この時期、介護保険法は訪問リハビリテーションの中身を「理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーション」と定めました。言語療法の文字は明記されませんでした。国家資格ができたばかりの言語聴覚士は、訪問リハ本体で算定できるようになる2006年まで、さらに待つことになります。

制度の地図は、こうして2000年に描き上がりました。看護という器の中のリハ職訪問、医師必置の正面玄関、そしてまだ姿のない第三の入口。統計を先取りすれば、訪問看護ステーション数はこの後2000年代を通じて約4,700〜5,500か所で足踏みします。そして、リハ職の参入が増える2010年代に、再び大きく増加します。その意味を、これから見ていきます。

●この先の内容
ここまでが、在宅リハの三つの入口と、その出発点の通史です。この先は、いまも全国制度になっていない「幻の訪問リハステーション」の経緯、318単位から始まる減算の階段(2015・2018)、19万筆の署名が厚生労働大臣に積み上がった2020年の冬を追います。そのうえで、みなし指定の解禁と8単位減算が同時に来た2024年の"答え"と、改定の方向性が示され始めた令和9年度改定への問いまで進みます。

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