「今からだ!という時に終了」失語症リハの継続

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言語の回復はスタートが遅く、しっかり練習できる段階で期限が切れる。言語聴覚士の多田紀子さんは、その構造を「今からだ!という時に終了」と表現した。AIに反復を任せ、STは評価に時間を使う。担当患者に紹介するなら、いつがいいのか。

「今からがSTの出番なのに、そこで終了になってしまう」(後編)

言語の回復は、スタートが遅い。体が動き出して、頭が戻ってきてからでないと、効果的な練習に入れない。ところが期限が切れるのは、ちょうどその頃だ。

「今からだ!という時に終了」──病院を出て起業した言語聴覚士の多田紀子さんは、そのジレンマをそう表現しました。

AIとSTを組み合わせた言語リハビリ支援サービス「Speech Link」は、訓練のない日をどう支えるのか。STの手元では何が減り、何が見えるようになるのか。多田さんと、当事者であり創業者でもある石渡達也さんに伺いました。

「今からがSTの出番なのに、そこで終了になってしまう」

輪違輪違
日々の支援の中で、「次の訓練までの時間を、もっと支えられたら」と感じるのはどんな場面でしょうか。
多田さん多田さん
私はもともと病院に勤務していて、診療報酬の改定を何回か経験した中で、今までリハビリを当然やっていた方が、もうできなくなってきたのを、大きく2回ぐらい見てきているんですね。

特に若い世代が、今から学校に行く、今から会社に行くというときに「もう終了ですよ」となる。それが嫌で起業したところもあるんです。
多田さん多田さん
やっぱり言語の回復って遅いんですよ、スタートが。急性期では、まだ混乱されているので、目的意識を持って積極的に取り組まれる方は少ない。やっぱり体が動き出して、頭が少しずつ戻ってきて、そこから言語じゃないと、なかなか効果的なことはできない。

じゃあいざ言語をしっかりできるなという段階でも、期限が、みたいなことは、たくさんの言語聴覚士が経験していると思うんですよね。今からがSTの本領発揮なのに、リハ期限が来て、終了になってしまう。そういうジレンマはすごく抱えています。

「良くなったものが、悪くなるんだ」

輪違輪違
病院で働いている人は、そういうジレンマを感じていても、なかなか飛び出せないじゃないですか。多田さんが飛び出そうと思った最大のきっかけは何だったんですか。
多田さん多田さん
若い方が再入院してきたときに、あまりに言語機能が悪くなっていて。今では分かりますけど、当時は「良くなったものが悪くなるんだ」というのがすごい衝撃でした。
多田さん多田さん
でも最初から飛び出すつもりはなかったんですけどね。気づいたら飛び出してたみたいな感じ。最初は病院の勤務を減らしながらNPOを立ち上げてやっていって、ただ忙しくなって(病院を)辞めた、みたいな感じです。

かつ、オンラインでリハができるのではないか?と思いついたんです。いつも始めるノリは軽いんです。Speech Linkもそうですよ。そんなに大変とは思ってなくて、石渡さんが「こうなんでできる」と。じゃあやろうやろうみたいな感じで。何が大変か全然分かってないんですよ。やった後に大変なのが分かるっていう感じ。

人数の不足と、その先にある課題

輪違輪違
失語症リハビリの継続を考えるとき、STの人数不足と、それ以外の課題はどのように関係しているのでしょうか。
多田さん多田さん
これは私より上の方も皆さんおっしゃっていますけど、まず言語聴覚士の人数が圧倒的に少ないのと、現場で失語症者のリハが少ないと、実習先で失語症者を見ていない学生が臨床に携わり、かつPT・OTに比べて組織の人数が少ないから、ベテランの先生から職場で指導を受けることも少なく、経験や知見が継承されにくいんですよね。

だから「もう失語症を見たことないです」という5、6年目の人なんて山のようにいて。人数が増えたとて、失語症のリハビリってこうだよねというのをもう一回勉強しないとできないSTは、すごくいると思う。
輪違輪違
失語症が減ったということなんですか。
多田さん多田さん
減ってないですよ。減ってなくて、失語症のリハビリが減ったという。
輪違輪違
リハビリが減ってしまうものなんですか。
多田さん多田さん
私たちは医師の指示がないとできないですよね。失語症に対する指示が出ない限りできない。

出たとしても、これだけある指示の中で優先順位をつけていかないといけない。そのときに嚥下の方の優先順位が高いと、どうしてもそちらになってしまって、「この人やりたいけどできない」というのはたくさんあると思います。
多田さん多田さん
「この人には1時間やりたい」と思っても、指示が出なければできない。石渡さんも、40分だったものを増やしてほしいというのは石渡さん側からお伝えしたからなんですよね。ですけど、ほとんどの失語症者は、自ら伝えられない。

※本章の内容は多田さんの臨床経験に基づく見解です。特定の統計に基づくものではありません。

STの立場が弱いと、不利益を受けるのは失語症のある人

多田さん多田さん
病院側が失語症のリハの重要性を感じてくださらないと、指示も少ないかもしれないし、出てもカンファレンスで取り上げられなかったりする。

STあるあるですけど、「部屋で言葉の練習して何なの?」「そんなことよりトイレが先でしょ?」と言われることは、本当にあるんですよ。私も「名前が言えるとか、どういう意味があるの?」と散々、言われてきました。
輪違輪違
冷静に考えると、意思疎通ができないと円滑なリハビリは進められないじゃないですか。理学療法も作業療法も。何のためにやっているのか患者さん側が分からないと、効果は半減してしまうと思うんですよね。
多田さん多田さん
リハ職の方には、3つの連続指示は難しいというのは、私はよく言っているんですよ。「これして、これして、これして」という。分からないんです、必要な人には。
多田さん多田さん
リハビリテーション課の中では、どうしてもSTは人数が少ないので発言力が小さい。経験年数の長い方がいないと言えないじゃないですか。構造的にSTの立場が弱いと、失語症の人は不利益だと思う。
輪違輪違
逆に、そうなっていない病院もあるということですか。
多田さん多田さん
STがすごく強い病院に行ったときに、こんなに言語の人って優遇されるんだと思ったんです。そこはスケジュールもSTが埋めた後をPT・OTが埋めていく。嚥下の方は嚥下の前に座らせたいから、そこにPTを1単位入れる、というような組み方をしていて。

私はもう驚きました。こんなに違うんだと思って。ベテランのSTがいるなど発言権がある病院では、割と私たちSTが実施したいリハができているのではないでしょうか。
多田さん多田さん
失語症の方も、理学療法士さんと身体を動かし、そのあとSTがやったほうが、効果は出やすいと思うんですよね。

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AIが担うのは「量」、STが担うのは「評価」

輪違輪違
Speech Linkでは、AIが担うことと、STが判断することを、どのように分けていますか。
多田さん多田さん
量です。Speech Linkが最も得意とするのは量で。「もうちょっとこの人にこういう練習を反復してほしい」とSTは思っていますよね。言葉が出ない方に10回言うのか1回言うのかでは全然違う。

でも、その反復に付き添う時間が私たちにはない。もっと反復したらできるようになると分かっているのに難しい。そこをAIにやってもらうというのが一番ですね。
輪違輪違
逆に、ここはSTが関わることに意味がある、という部分があれば教えてください。
多田さん多田さん
その方の、いわゆる非言語の情報を取って、一体何が言いたいのかな、何が困っているのかな、こういうことができるとこの人いいかな、というところを評価していくのはSTだと思うんですよね。

質問の仕方を細かく、表情を見て、失語症者が「今日は話せたな」と思うように着地する。その細かい調整がいるので、なかなかAIでは難しいかもしれませんね。

Speech Linkにおける役割分担

AI が担う

量

音声での会話練習を24時間、何回でも。反復に付き添う。STが「もっとやらせたい」と思っても時間が取れない部分を引き受ける。

言語聴覚士(ST)が担う

評価と調整

非言語の情報から、何が言いたいのか、何に困っているのかを読む。質問の仕方を変え、「できた」に着地させる。

「やりすぎるほどSpeech Linkはできない」

輪違輪違
私はPTなんですけど、たとえば筋トレでも、変なフォームで数だけこなすより、ちゃんとした形で1回やってもらったほうがいいというケースによく遭遇します。やりすぎると逆にできなくなってしまう。言語の反復練習も、やりすぎは良くないんですか。
多田さん多田さん
やりすぎるほどSpeech Linkはできないと思います。

やりすぎというのは、たとえば私が石渡さんとセッションするとして、石渡さんの顔がだんだん険しくなるぐらい追い込んで追い込んで、頭を使わせていたらやりすぎかもしれませんけど、Speech Linkがそこまですることは、そもそも技術的にできない。AIがそこまで相手を追い込むことはできないと思うんですよね。
石渡さん石渡さん
技術的にはできるんですけれども、そういうプロンプトにしていないというのが正しいところですね。
多田さん多田さん
本当に隙間でいいと思うんですよ。言語のトレーニングって、コツコツやることが一番大事なので。週1回ドバーッと2時間やるとかではなくて、日々やっていくというのが大事です。
石渡さん石渡さん
入院しているときはまとまった時間が取れたんですけれども、今は仕事をやり始めているので隙間時間なんですね。隙間時間が少しだけあるという局面でも、「ことばトーク」で5分間だけやる、そういう形にも対応できているので、うまく活用していただけるというのはありますね。

STの手元から減る作業と、増やせる時間

輪違輪違
Speech Linkを使うと、STの時間の使い方はどう変わりますか。減らせる作業と、減った時間で新たにやるべきことは何でしょうか。
多田さん多田さん
減らせる作業は、ドリルの準備やプリントの準備。いわゆる自主練の準備はすごく減らせます。

ドリルを選んでプリントアウトしたり、丸付けをしたり。そういうのはいらなくなって、その分、その方との会話のネタ探しに使ってもらえるといいかもしれませんね。
輪違輪違
病院でSTの所属する部門に入ると、みんなの準備がすごく楽になるイメージが湧きました。紙と時間の削減ですね。コピーするのは割とめんどくさいですし。
多田さん多田さん
準備はすごく楽になると思います。それとドリルって内容がそんなに豊富ではないんですよね。Speech Linkは常にアップデートしていきますから、バリエーションが多い訓練を取り入れることができるというのはあります。

練習の記録は、心理状態のセンサーにもなる

輪違輪違
やらないといけないと分かっていても、続けるのは大変だと思うんです。自主練を続けやすくするために、どんな工夫をされているんですか。
多田さん多田さん
やっぱり人の目が入るということですよね。セッションがあるよ、とか。あとは「ここまで行きましたよ」というのが画面に出るじゃないですか。何個達成とか。
石渡さん石渡さん
進捗状況が一目で把握できるというのがいいのかなと思います。「あなたの成長」というところで、レベルとか、スコアだとか。ITの世界ではゲーム的な要素を入れているんですけれども、こういったところで日々、成長が可視化できれば、やる気につながるんじゃないかなと。
輪違輪違
Googleマップの口コミを投稿している人が、あとレベル4から6に上がる、みたいなのと同じですね。リターンはないのに頑張ってしまう。
多田さん多田さん
あと、自主練の時間が、急に少なくなったら、何か心配事があるのかな、体調が良くないのかなと、想像することができますよね。

すごく取り組んでいるときは、患者さんも前向きだけれど、いろいろ心配になったときって、ずっとベッドで寝ているとか、ずっと座っている。看護師さんがだいたい気づいて「なんかちょっと様子が変」みたいな。そういう会話は職員間で良くありますよね。

AIが聞き取れないとき、どうするか

輪違輪違
AIが発話を聞き間違えたり、本人に合わない反応を返したりすることはあるんですか。
多田さん多田さん
今、一生懸命訂正していますけど、ないとは言えないです。

どうしても非流暢の方で音が歪む場合は、難しいですよね。音がきれいじゃなくて、私たちが「だいたいOKだな」と判断していたものが、AIだとなかなか難しい。その場合は、「こういう使用法があります」と、ご本人や家族の方にお伝えしています。
多田さん多田さん
ただ、AIが喋る、発音が出るようなボタンがあるんですよ。それを聞いて復唱するだけでも練習になるので。あまりにも発語が難しい方に関しては、音声を聞いて復唱する、あとは、「聞き取り」の練習もお伝えしています。
輪違輪違
練習回数やアプリ内のスコアに加えて、日常生活や社会参加の変化は、どうやって確かめているんですか。
多田さん多田さん
日常生活の様子はアプリで記録するようにはなっていないので、そこはSTのセッションで聞いてもらう感じになりますね。

「監修レベルじゃなく、STが全部触っている」

輪違輪違
Speech Linkの特徴を一つ挙げるとしたら、何でしょうか。
石渡さん石渡さん
あらゆる方に対して、一つの画面でナビゲーションできているかなと思っています。「ことばトーク」なら初級・中級・上級というレベル感に合わせて問題が出るようになっているので、幅広い課題を持っている方に使っていただけるユーザーインターフェースになっているかなと。
石渡さん石渡さん
裏側の話をしてしまうと、これはGoogle GeminiのLive APIというのを使っているんですけれども、単にGoogle Geminiを使えばいいのね、というわけではなくて。

「なんでSpeech Linkを使わなきゃいけないのか」と言われると、これをさらにチューニングしているSTが裏側にいるということが、我々のバリュープロポジションと言ったらうるさいですけれども、大きいかなと思うんですよね。
多田さん多田さん
最初は監修だったんですけど、今は、STが全部、作成しています。監修レベルじゃなく、STが全部触っているという感じでやっております。今、ST3名体制です、これを作るの。

4つの練習メニュー

それぞれに初級・中級・上級のレベルがあり、STが課題を作成・調整している。

ことば探し

単語レベルの課題から入り、実際に発話して答える。

ことば並べ

語を並べて文を組み立てる。

ことば聞き取り

AIの発音を聞いて答える。復唱の練習にも使える。

ことばトーク

AIと会話する。上級は「幸福とは何か」のような討論のトピックまである。

実際の画面と課題は、無料体験で確認できます。クレジットカードの登録は必要ありません。

練習メニューを無料体験で見る

「赤ペン先生」── 大切にしている考え方

多田さん多田さん
私は、最初にオンラインリハをしたときから、居住区を問わず、どこでも必要なときに言葉の支援につながれればいいなというのは思っています。

実家が田舎なので、大学受験をベネッセの赤ペン先生だけでトライしたんですね。ああいう、どこに住んでいても一定の質が担保されたものがあると、地域格差もなくていいなって思っていて。
多田さん多田さん
Speech Linkもそういう意味で、どこに住んでいてもできる、ある程度の質を担保したもの。有名な進学塾には行けないけど、赤ペン先生である程度受験は戦えるぐらいのものは作っていきたいなと思って。赤ペン先生みたいなのを、私はずっと理念に置いています。
石渡さん石渡さん
今の段階では練習メニューをいかに磨き込むかというところなんですけれども、磨き込んだ先に何があるかというと、これは失語症の方だけではないかなと思っているんですよね。

ことば探し、ことば並べ、ことば聞き取り、ことばトーク。この4つの枠組みで、もっと広げられる方がいるんじゃないかと。まだ構想段階なんですけれども、日本語に課題を持っている外国人居住者の方にも、これはいけるんじゃないかなと思っています。

紹介するなら、いつがいいのか

輪違輪違
病院や地域のSTが担当患者さんに紹介する場合、どのタイミングで、どのように案内するとよいでしょうか。
多田さん多田さん
使いこなすまでにちょっと時間がかかるので、無料期間が2週間あるんですね。だから、せめて退院2週間前とかに使っていただけるとスムーズなんじゃないかなと思って。

いざ退院した後って、割と皆さん大変じゃないですか。生活を新しく回すだけでも。だから慣れておいて退院だと嬉しいし、可能なら若い方だったら、入院中の自主練に早めに導入してもらえると嬉しいなと思います。
輪違輪違
入院中の2週間で使い始められると、分からないところを担当のSTさんに聞きながら覚えられますね。しかもドリルの準備が要らなくなる。
多田さん多田さん
オンライン言語を入院中に無料体験される方もいらっしゃるんですよ。入院中にしておくと、内容や流れを説明できるので、すごくスムーズで、退院してすぐできる。

紹介するタイミングの目安

入院中

若い方なら、入院中の自主練に早めに導入。

退院2週間前

無料体験が2週間。操作に慣れ、分からないところを担当STに聞ける。

退院後

生活を立て直す時期。すでに慣れているので、そのまま続けられる。

何から始めればいいか

輪違輪違
この記事を読んで「担当患者さんに紹介したい」「まず自分で試したい」と思ったSTやPT・OT、看護師の方は、何から始めればよいでしょうか。
多田さん多田さん
本当にウェブから無料体験を申し込んでいただければ一番いいですし、可能なら、その無料体験中にSTレッスンまで予約していただけるとありがたいかなと思います。

オンライン説明会でも質問があったんですけど、体験中にクレジットカードを入れなくていいので。よくありますよね、無料期間中からクレジットを入れなきゃいけなくて、気がついたら有料になっているサービス。うちは最初は入れなくていいですし、かつ本名じゃなくてもできてしまったりするので、個人情報が漏れるんじゃないか問題には、そこまで心配しなくて。ハードルは高くしていないです。
石渡さん石渡さん
実際にOTさんやSTさんで、過去にSpeech Linkのトライアルを試したうえで紹介しようとしてくださっている方もいらっしゃいました。ぜひそういった方も無料のトライアルをやっていただきたい。

そして「こういう使い方で合っているんですか」というような相談を、多田さんや私にお寄せいただければ、スムーズにいくように支援させていただきますので。お問い合わせボタンもあるので、何かあったらそこからやっていただけると、全部こちらに届くようになっています。
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2週間の無料体験。クレジットカードの登録は不要です。
体験期間中に、言語聴覚士による30分のアセスメントも予約できます。

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スピーチリンク株式会社

失語症のある方に向けた言語リハビリ支援サービス「Speech Link」を運営。AIとの音声会話による反復練習と、言語聴覚士によるオンラインでの個別指導を組み合わせている。代表取締役は言語聴覚士の多田紀子。創業者の石渡達也は、2020年9月に脳出血を発症し、右半身の麻痺と失語症のある当事者。Speech Linkは医療機器ではありません。

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