―――理学療法士を目指したきっかけを教えてください。
永嶋先生:高校生の時に母が脳卒中で病に倒れました。その時はじめて、リハビリというものを目の当たりに、「こんな職業があるんだ」ということを知りました。
幸い母の状態は、かなり回復が早いほうだったらしく、大事には至りませんでしたが、「この恩返しをしよう」と思ったことが、理学療法士になるきっかけでした。
―――どのような学校生活を過ごされましたか?
永嶋先生:養成校は、神戸大学医療技術短期大学部に進学しました。現神戸大学の前身です。その当時、4年制大学はなく、短期大学か専門学校しかなかったのですが、高校の先生も理学療法士の養成校に関する知識は皆無でした。
今のように、インターネットが発達していたわけではありませんが、自分なりに調べ、地元の西宮から近い神戸大学医療技術短期大学部を選びました。優秀な学生だったのか否かは、わかりませんが、学校生活は楽しかったです。
―――市立伊丹病院に就職したきっかけは?
永嶋先生:学校の教員から紹介されました。当時は、それが一般的でした。珍しいかもしれませんが、最初からこの市立伊丹病院で勤務し、それからずっとここにいます。理学療法士は比較的職場を変えやすい職業ですので、同級生はすぐ別の病院に移ったりしていましたが、自分はずっとここにいます。
―――先生がこれまで担当された患者さんの中で、印象に残っている患者さんはいますか?
永嶋先生:うちは公立の総合病院ですから、多くの患者さんがいる中で、印象に残ったのは1型糖尿病の患者さんです。1型の運動療法は現在でも確立されていませんが、その当時は今より知識のない状態でしたので、特に解らない領域でした。
関わっていく中で、1型の子供達が学校でイヤなこと言われることを聞き、「なんで嫌な思いをせないかんのだろう」と考えていました。インスリン注射をみられた子供達は、知識がないせいでからかいの対象となっていたのです。
これは、学校教育としてもちゃんとあるべきだなと、そのとき思いました。今でこそ、一般的な病気でインスリン注射を目の当たりにすることも少なくありませんが、子供であればなおさらです。それが糖尿病を勉強しようと思ったきっかけで、今でも印象に残っています。
他には、頭部外傷の患者さんも多く担当しました。その中でも、交通事故で頭部外傷になった当時19歳の女の子のリハを担当したときのことです。意識障害があり、リハが進まず、その期間に拘縮が出てしまいアキレス腱延長術を行うか否かのところまで来てしまいました。
家族の要望もあり、できる限り保存的な治療でいくことになり、ティルトテーブルや物理療法で結局のところ手術しなくてもいけるくらい良くなりました。本人は覚えていないようでしたが、家族の方から非常に感謝されたことを今でも覚えています。
他にも悪性腫瘍で余命宣告されていた患者さん。リハビリの対象にならないかもしれない中でも、医師からの指示を受け介入していました。
今ではがんリハを算定できるようになりましたが、当時はまだなく“命と向き合っている人をリハビリする”ことは一般的ではありませんでしたので、非常に印象深いです。緩和ケアの体制も整っていない時代でした。
*目次
第三回:理学療法士は運動のプロである
日本糖尿病理学療法学会の情報
|設立の趣旨
糖尿病は増加の一途を辿る国民病であり、理学療法士には糖尿病の基本治療である運動療法の専門家として、糖尿病チーム医療の主軸を担うことが期待されています。
理学療法士による糖尿病患者への関わりは世界的にも類がなく、また、糖尿病理学療法に関するエビデンスは蓄積されていません。本学会は、糖尿病に対する理学療法の理論、介入方法および効果検証に関する学術研究の振興と発展を図り、世界に先駆けて糖尿病理学療法学の体系化を目指します。
また、理学療法診療ガイドラインや成書の作成、糖尿病理学療法を専門とする人材育成への活動も推進します。
永嶋先生オススメ書籍
やらな、しゃーない! 1型糖尿病と不屈の左腕
僕はまだ がんばれる-不治の病 1型糖尿病患者、大村詠一の挑戦-
永嶋 道浩先生のプロフィール
資格:
理学療法士
日本糖尿病療養指導士
3学会合同 呼吸療法認定士
専門理学療法士(内部障害理学療法)
がん患者リハビリテーション専従理学療法士
日本転倒予防指導士
所属:
市立伊丹病院医療技術部医療技術室リハビリテーション担当 副技師長
日本糖尿病理学療法学会 運営幹事
糖尿病療養指導士兵庫県連合会 理事
神戸大学医学部保健学科 臨地教授
阪神内部障害リハビリテーション研究会 世話人
所属学会:
日本理学療法士協会、日本糖尿病学会、日本糖尿病理学療法学会、糖尿病療養指導士兵庫県連合会、日本緩和医療学会、関西がんチーム医療研究会、臨床コーチング研究会、阪神内部障害リハビリテーション研究会、日本転倒予防学会、下肢慢性創傷の予防・リハビリテーション研究会、日本リハビリテーション栄養研究会
執筆: