-公認会計士と理学療法士の共通点ってあるのですか。
宮内さん:公認会計士と理学療法士の共通点は意外に多いと感じています。対象者をそれぞれ目的に応じた測定をして、評価をするというところです。理学療法士は、患者を評価しますが、公認会計士は会社を会計という視点から評価します。その際は、理学療法士の評価と同様に一定の基準に則った測定方法を採用することで、比較可能性や再現性が可能になります。
重要性の観点もまた同じです。例えば、ROM測定で肩関節屈曲の可動域が170°だったとしても、その患者さんの生活に特に支障がなければ大きな問題とは考えません。会計監査も同じで会社ごとに決めた重要性の基準を参考にして、監査する取引を選定します。
-公認会計士から見て理学療法士業界はどのように変わっていますか。
宮内さん:理学療法士業界というか、最近は医療業界そのものが大きく変わってきていると思います。例えば、「医療介護総合促進法」により、2015年4月より都道府県が地域医療構想を策定することになりました。これは、それぞれが管轄する地域について、2025年にむけて医療需要や病床の必要量を集計するものです。既に公立病院等は地域医療構想に合わせて病院の再編・統合が行われており、病院の機能そのものが変わってきています。
このことからも、セラピストが関心を持つ必要があるのは、診療報酬・介護報酬だけにとどまらないことがわかります。
ちなみに、地域医療構想の整合性や地域偏在の問題に対応するため、厚生労働省が2016年より理学療法士・作業療法士需給分科会というものを設置しています。理学療法士・作業療法士に関する統計値が豊富な資料もありますので、興味のある方は是非資料を確認してみてください。
-最近は、ヘルスケア関連企業に関心がある理学療法士も増えてきています。
宮内さん:病院では、理学療法士の業績は診療報酬に基づくため、組織への貢献度は客観的に評価しやすいのですが、保険外の業界ではその評価ができないため、自身がどれだけ組織に貢献できるかをアピールする必要があります。
一般企業では時代の傾向から一時的に特定の職種の需要が増えることがあります。しかし、先述の理由から、ヘルスケア関連企業で理学療法士の認知度が上がったとしても、注目されるのは実績もある強い個性のある人であり、就職口が一気に広がる可能性は低いのかもしれません。
転職の時に大切なのは、徹底的な自己分析です。自分のスキルを要素分解して、就職を希望する企業に何が一番当てはまるかを考える。当たり前のことなのですが、医療職が病院に就職する場合、有資格者であればとりあえず募集要項を満たすことが多く、よほど競争率が高くない限り就職できてしまうので、意外と自己分析ができていない人は多いと思います。私も転職の時に苦労しました。その時に役立ったのが3C分析というフレームワークです。
このフレームワークは、Customer(市場、顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)という3つのCで始まる軸に沿って分析をし、そこから成功要因を見つけ出し、自社の強みと弱みを特定します。就職活動に置き換えるなら、それぞれの軸はCustomer(就職先)、Competitor(他の求職者)、Company(自分)となります。
自分はどんな能力(資格ではなく)を持っているのか。それは就職先がほしい能力なのか。そして、それは他の求職者と比べて優位に立てる能力なのか。これらをそれぞれの軸に当てはめていくことで、自分の能力を客観的に見ることができます。
以前、就職に関して理学療法士の学生から相談を受けたことがあります。内容は、ヘルスケアのコンサルタントを目指しており、卒業後はコンサルタント会社への就職を視野に入れているというものでした。
そのとき私は、まず臨床を経験してくださいとアドバイスしました。当たり前ですが、理学療法士(医療職)の強みは患者さんと直接コミュニケーションが取れることだと思います。また、臨床経験ができるからこそ問題点に気づくことができますし、現実的な改善案を導き出すことができます。
通常、コンサルティング会社は経営学部や経済学部の4大卒が入社します。新卒で就職する場合、その人達と競うことになるわけですが、私は臨床経験がない場合、患者の声を直接聞くことができた、病院で働いて気づいた課題、現場で実施した改善策、そしてこれからは課題解決を専門にやりたい想いを持っている、という最大の個性を活かすことが難しいと考えています。
その後、彼女は病院に就職したことで、知識の必要性や、知識だけではどうにもならない臨床の難しさを知ることができたと連絡をいただきました。その中で、自分の特性と将来のビジョン、身につけたいスキルを分析し、今では児童発達支援事業に携わっているそうです。最初に病院に就職したからこそ、様々な気づきを得たのではないかと思います。
-理学療法士がビジネススキルを身につけるとしたら何が必要でしょうか。
宮内さん:よくマネジメント力と数字力が必要と言われます。数字力が求められている理由は、経営者や管理職の人と話す場合の共通言語として数字が必要になってきているからです。そのため、私は数字力が必要だからといって理学療法士が決算書を読めるようになる必要はないと考えていて、基本的なことを大切にしてほしいと思います。
数字を扱う場合は、その数字がどのような要素から構成されているかを考えると理解が深まりやすいです。例えば、「高齢化社会」という言葉は、WHO(世界保健機構)の定義によると、「全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%を超えた場合」を差します。つまり、「高齢化社会」は分母(全人口)と分子(65歳以上の高齢者数)で構成されるため、分母(全人口)と分子(65歳以上の高齢者数)のどちらの変動が著しいかにより意味合いは変わってきます(ちなみに現在の日本は65歳以上の人口の割合が全人口の21%を超えた「超高齢社会」です)。
続くー。
【目次】
第二回:難病のレジリエンス
第三回:公認会計士から見た理学療法士
最終回:コンサルティング会社の設立
宮内さんオススメ書籍
宮内謙一さんのプロフィール
公認会計士・理学療法士
会計・税務のほか情報セキュリティやシステム構築にも強みを持つ。
現在は、代表取締役として社会的課題に取り組む企業に対してコンサルティングを提供している。
また、仕事の傍ら持病のクローン病啓発のための活動も行っている。
会社webサイト:http://hilo-sc.com
TED形式のイベント CPA TALKs2017動画:
https://jicpa-tokyo-cpa-youth.jp/movie/miyauchi/
<最終学歴>
神村学園専修学校 理学療法学科
<職歴>
2005年-2008年 医療法人厚徳会 日高内科クリニック 理学療法士
2010年-2011年 医療法人トウスイ会 稲津病院 理学療法士
2012年-2013年 介護老人保健施設 長生園ナーシングセンター 理学療法士
2013年-2015年 オーチアス株式会社 経理責任者
2015年-2017年 新日本有限責任監査法人 公認会計士
2017年-現在 河野公認会計士事務所 公認会計士
2018年5月-現在 株式会社HiLOソーシャルクリエイト 代表取締役