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その肘、なぜ伸びきらない?

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投球肘のメカニズムとして、肩関節や他関節の異常運動やマルアライメントが関与することは珍しくありません。運動連鎖の結果、肘関節にストレスが集中して、肘に痛みを生じることになります。このため、患部は肘関節であっても、その原因解明には全身のあらゆる部位を探索することが求められます。

肘関節は腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節から成ります。そして、遠位で構成される手関節と橈骨、尺骨を共有するため、手関節と肘関節は相互に影響し合います。

 

 

1.伸びなくなった肘

投球肘のメカニズムとして、肩関節や他関節の異常運動やマルアライメントが関与することは珍しくありません。運動連鎖の結果、肘関節にストレスが集中して、肘に痛みを生じることになります。このため、患部は肘関節であっても、その原因解明には全身のあらゆる部位を探索することが求められます。

 

肘のスポーツ障害で代表的な投球肘において、しばしば肘関節の伸展制限が問題となります。その治療においては、肘関節の機能の完全な回復が不可欠です。しかし、屈曲・伸展制限に加え、肘関節の外反、尺骨内旋や近位橈骨掌側偏位(前腕回外制限)といったマルアライメントが残ることは珍しくありません。これでは完全な機能回復とは言えず、再発リスクを残したままで競技に復帰することになってしまいます。

肘関節に伸展制限と外反変形を伴う場合、しばしば上腕二頭筋・腕橈骨筋・前腕屈筋群タイトネス、上腕筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋筋機能不全が認められます。リアライン・コンセプトでは、これらをマルアライメントの結果生じたもの(結果因子)とマルアライメントの原因因子とを区別して取り扱います。肘関節伸展制限の原因因子として、腕橈関節の伸展制限の原因となる腕橈骨筋、上腕二頭筋、尺側手根伸筋、そして関節包の癒着に着目します。これらを順次リリースして相互の癒着を解消することにより、腕橈関節の完全な伸展が得られ、肘関節の伸展制限とともに外反変形も改善に向かいます。

 

2.手関節の評価と治療

肘関節(近位橈骨、尺骨)のマルアライメントに伴い、遠位関節である手関節に問題が生じることがあります。そのため、手関節の疾患の治療において、肘関節や前腕の回・内外を含めた橈尺骨のアライメントや可動性の評価が必要となります。

三角線維性軟骨複合体(TFCC)損傷は手関節の代表的なスポーツ外傷です。その発症メカニズムとして、転倒などの手関節への外力のほか、橈骨と尺骨のマルアライメントによるストレス集中が挙げられます。このため、その治療には橈尺骨のリアラインが欠かせません。

 

3. 症例紹介

年齢:18歳、男性

競技:野球(サード)

診断名:肘関節内側側副靱帯損傷

 

◆現病歴:

 1年前から肩に痛みを生じ、練習量を減らし、リハビリテーションに取り組んでいた。2か月前からほとんど肩の痛みなく復帰したが、投球時の肘痛出現。医療機関を受診したところ、肘関節内側側副靱帯損傷の診断を受けた。

 

◆評価・問題点

1)症状

肘関節内側側副靱帯の炎症、圧痛が認められ、投球動作時に痛みを訴えた。肘下がりが認められ、コッキング相からアクセラレーション相での痛みが特に強く出現した。肘関節の他動屈伸でも痛みが誘発された。アライメント評価の結果、橈骨近位の掌側偏位、肘関節の外反アライメント、前腕の回外可動域制限を認めた。

 

2)原因因子

橈骨頭を後方へ押し込みつつ伸展させると、痛みの軽減、可動域の向上が認められたため、原因因子として上腕二頭筋・腕橈骨筋・橈側手根伸筋・関節包の滑走不全が挙げられ、結果因子として上腕筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋筋機能不全が認められた。

 

3)問題点

① 橈骨近位の背側可動性低下に伴う、肘屈伸制限、外反アライメント

② 投球時の肘下がり

 

◆目的

① 橈骨の背側可動性を改善すること

② 外反アライメント・肘屈伸可動域の改善

 

◆治療プログラム

①腕橈骨筋―二頭筋、橈側手根伸筋間のリリース

橈骨の背側への可動性の改善により、外反アライメントの軽減、肘最終屈曲時の疼痛軽減が得られた。

 

②前腕屈筋群のリリース

前腕掌側の皮膚リリースの後、腕橈骨筋周囲の筋間リリースによって回外可動域が改善した。その結果、腕橈関節の完全伸展が得られ、肘関節最終伸展時の疼痛軽減、回外可動域の改善が得られた。

◆経過

 肘関節のリアライン、他部位リアラインと動作修正、筋機能の改善、投球フォームの改善を進めた結果、投球動作での疼痛が解消され、競技復帰可能となった。

 

◆考察

 投球障害でも出現する肘関節痛であるが、動作の修正、他部位のリアラインと並行して、肘関節の完全な機能回復が不可欠である。肘のマルアライメントや伸展制限は、肘関節周囲の筋群の機能低下や過緊張を招き、再発のリスクの高い状態が続くことになる。これらはパフォーマンス低下を招く可能性もあるため、肘関節の可動域制限とマルアライメントを確実に解決することが求められる。

 

4. セミナー紹介

CSPT肘関節・手関節編では、両関節の連動を考えながら、それぞれのマルアライメントの評価、治療方法を網羅することが可能となっています。小さい筋が密接に絡み合うこの関節では、正確な触診技術を求められます。CSPTを受講することにより、より適切なリアライン技術の獲得に向けて前進できます。

 

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