キャリアコンサルタントが徹底サポート

高木綾一先生  -ワーク・シフトを体現する理学療法士(PT)-

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 リハビリ職はリハビリだけ行えばいいのか?

インタビュアー細川:

よろしくお願いします。まず最初に高木先生は最近独立されたとお聞きしましたが、株式会社を設立するに至った経緯をお聞きしたいのですが。

高木先生:

はい。まず、私も最初は病院に勤務をしておりました。臨床だけでなく、研究や教育の実績を積んでいかなければらない状況になったのが、臨床6・7年目くらいの時期でした。

ちょうどその時期に、たまたま勤め先の人事異動の機会を頂いて、”リハビリテーション部 部長”、そしてその後に“法人本部長”という高いポジションを拝命させていただく機会を得ました。

そのような役職に就いたことで、人に影響を与えることができる立場にはなったのですが、どういうコンセプトで、マネジメントをするべきか?多くの職種がいる中で、舵取りが難しかったことを覚えています。ちょうど、その時は私が30歳くらいの時でした。

その時に思ったのが、自分自身が臨床・教育・研究をしながらも、個別の取り組みを統合できていない。いわゆる全体最適化をしていかないと、個別で行っていることが無駄になってくる。

臨床や研究を一生懸命しても、臨床や研究を何のために行うのか?つまり、目標を見失っている。特に、セラピストは目的と手段が一致しない人が多いと気づきました。

つまり、「研究のために研究をしている」という状況がありました。事業所運営も同様に、個別で行っている努力の費用対効果が悪い現状に気づいたんですね。

そういった気づきから、医療法人で本部長として働いている時は、職員が取り組んでいることや積み上げた実績が皆さんの人生・キャリアアップ、さらには事業所に直接的に貢献するようにしなければならないと考えておりました。

私や部下が大学院で勉強したり、臨床や運営に関する研究をしてきましたが、必ず勉強・研修した内容は対外的に必ず発表したり、社内の業務改善やリハビリテーションの質の向上に貢献できるように強く意識をしていました。

特に、MOT (マネージメント・オブ・テクノロジー)という概念を入れて技術開発が顧客・利用者・患者の獲得に繋がるような施策を実施しました。

医療・介護情勢や外部環境の情報というのはインターネット、セミナー、コンサルティング会社より得ることができるのですが、そういった情報に対応しようとしても、組織側に対応できる能力や体制がないということが非常に多いと感じています。

組織の多様性や対応能力が、医療や介護の現実世界に追いついていかないということを肌で感じました。では、なぜ対応能力が低いのか?ということですが、医者や看護師、セラピストを含め医療職全般に言えることとして、自分たちの仕事の多様性を追求できる土壌がないということがあると考えています。

これは、ライセンスを持ってしまったが故のボトルネックと分析をしています。

つまり、「看護師だから看護業務をしないといけない」というのは、ライセンスが一定の規範として決めている。しかし、別に看護師が看護業務を他のジャンルで活かすことや、他の社会貢献やビジネスをすることに関して、規制されていない。この考えが、これから社会ではすごく大事だと思います。

私は、看護業務だけ、リハビリテーション業務だけを行うことを否定するつもりはありません。

しかし、それらの業務だけで補えないこと問題が沢山、社会には出てきているということに行き着いて、これはもう自分で会社を起こして、ビジネスとして成立させたいと思いました。

何よりも僕自身が活き活きとして働かなければ示しがつかないと思いますし、理念に共感していただける仲間を作るためには株式会社という看板もいるというが起業の後押しになりましたね。それで、2014年12月に株式会社Work Shiftを設立しました。

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 3世代のジェネレーション分類

インタビュアー細川:

株式会社に関して「理学療法士で、コンサルタント」というと希少価値が高いというか、業界でいうとニッチなジャンルになってくると思います。療法士がマネージメントのことを最近重要視してきたと思うのですが、コンサルタントとして多くの事業所や病院を回った時に、療法士の質やマネージメントのレベルで感じることは何かありますか?

高木先生:

理学療法士・作業療法士って”3世代のジェネレーション”に分かれていると思っています。

1965年(にPTOT法が出来て)から1990年代くらいまでは、理学療法・作業療法が世に出てきた時代であり、リハビリテーションとしての社会インフラも最低限整備されている程度でした。

そういった時代では、アカデミックな活動や展開も難しいし、社会的にリハビリテーションが露出されることも少なかったわけです。

そのような時代ですからセラピストが手技を勉強するためには外国から輸入された知識・技術を取り入れるしかなかった。

そのような状況では、”ゴッドハンド”になることが、理想とされる時代だったと言えます。言わば「リハビリテーションテクニックマイスターモデル」が尊敬された時代です。

1991年から2010年くらいまでは、養成校が急に増え、それと同時に医療費削減の厳しい目が向けられるようになってきました。

つまり、エビデンスベースな活動が重要視されるようになりました。養成校が乱立するということは、各学校が特徴を出さなければならない。よって、学術的にアピールしなければならない状況になった。

そうなれば、養成校の先生は学術活動に尽力しなければならなくなった。そうなると必然的に理想的なセラピストは、養成校の先生のような学術活動を一生懸命に行う人であると考えられるようになった。

つまり「サイエンティストモデル」です。セラピストでありサイエンティストであるということが一つの理想的なロールモデルになりました。

しかし、2011年から風向きが変わってきました。PT・OTの養成校がそれほど増えなくなる、かつ、学校経営悪化により潰れるところも出てきました。

時代も地域包括ケアシステムが導入されようとしている。そういった状況では、地域包括システムという国家プロジェクトを推進できるファシリテーターが必要になりました。

つまり、「ファシリテーターモデル」が注目されるようになってきた。しかし、ファシリテーターに人材はほとんど養成されていない。今は、”サイエンティストモデル”の有名人や有識者が業界のオピニオンリーダーであり、教育者である。病院や地域によっては、”テクニックマイスターモデル”の人たちからの教育を受けています。

現場の教育者や指導者は”サイエンティストモデル”を目指す人達なので、現在問われている地域包括ケアシステムや地域ケア会議、リハビリテーションマネージメント加算、他職種に自立支援に向けたアドバイスなどにピンとくるはずがありません。

リハビリテーションテクニックのことはみんなある程度の言語理解はできます。しかし、地域包括ケアシステムとか介護予防については、理解どころか共通言語にすらなっていない。

このことは、日本社会の大問題と考えています。弊社でセミナーをした時に、マネージメント系のセミナーの集客率は圧倒的に悪いです。まさに、これが今のセラピストのテクニック偏重手技の現実を示しています。

逆説的に言うと、セラピストとしてのリハビリテーション技術とマネージメントが両立できれば非常に評価される時代になったと考えます。今のPT協会、OT協会が目指す地域包括ケアモデルを「敗北だ」と言われる方もいます。

「もっと医療モデルを追求しなさい。もっとアカデミックな活動をしなさい、開業権を取るべきだ」と、主張される方もいます。

しかし、僕はそうは考えていません。地域包括ケアシステムは、ICFを基本として考えています。そして、そのICFは心身機能と活動・参加の全体最適化を目指しています。

つまり、ICFは心身機能を否定していない。心身機能の改善を活動・参加に有機的に統合するという非常に魅力的な課題への兆戦だと考えています。

今まで、麻痺を改善させるためのリハビリテーションは治療室で行われていましたが、実際の生活の中でのリハビリテーションは少なかった。次の時代心身機能がどのように活動・参加に寄与しているのかということが、焦点である研究が増えると考えています。

だから、地域包括ケアやICFは過去の「リハビリテーションテクニックマイスターモデル」や「サイエンチィストモデル」を否定はしていなくて、それらを肯定した上で次のステップへの移行だと考えています。

私は逆に、” リハビリテーションテクニックマイスターモデル”、”サイエンティストモデル”の人達が本気でICFに取り組んできたら、すごく世の中が変わると考えています。

例えば腰痛治療で物凄く有名なセラピストがいたとします。自らが腰痛治療を提供するのと同様な効果を出す自主トレーニングプログラムや腰痛治療機材、エクササイズ方法を開発し、市場に導入した時に、それはICFが目指す包括的なケアすなわちIntegrated Careに変わります。

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 可   "転移可能なスキル"が重宝される時代

インタビュアー細川:

確かにマネージメントとか、時代に合わせた療法士のパラダイムシフトが起きてきていると思います。例えばセミナーでマネージメントをやる人がちょっとずつ前に出てきている印象があります。

大学院に行っても、マネージメントコースとかにPT・OTがけっこういたり、MBAを取りに行ったりとか。そういう意識が芽生えてきています。

それらを踏まえて高木先生が思う、今後の療法士の起業についての可能性について何か考えられていることがあれば、教えて下さい。

高木先生:

私は必ずしも起業を推進する必要性はないと考えています。働き方の選択として病院・施設で働くか、あるいは、それ以外の分野で働くかというものがあります。

しかし、それは働く場所の選択肢であって、自分として出せる価値観や能力は普遍的なものなので、どこで働いても良いと思います。

病院や施設でなぜマネージメントはなぜ有効に機能するかということですが、よく「2:6:2」という言葉を聞くと思います。

上の2割の人たちが提供するマネジメントが効果的であれば、組織全体に効果的な行動が浸透します。そうすると真ん中6割と下の2割の人も、本人たちがしらない間に、素晴らしい働き方をしている。

良くある例が、社内では、パッとしないしポジションもない場合でも、転職したらその先で主任や係長になっているということです。

それはなぜかと言うと、前職場の時にルーティーン作業としてやっていたことは、実はものすごく水準が高く意味があるだったということです。これは転職して初めて気が付くことが多いです。

以前の職場でやっていたことは水準が高かったが、良くも悪くも疑問なく、気づかずにやっていた。それで転職した時に周りから「君凄いね。」と言われる。

インタビュアー細川:

なるほど。

高木先生:

マネージメントを構成するスキルは沢山あります。例えば、「コミュニケーションスキル」は、どのような職場や場面でも重要です。

どんな職場やどんな組織でも重要なものです。だから、どんな場面でも、そのスキルは重宝される。

転職できる最高の武器というのは、”転移可能なスキル”なんですよね。例えばコミュニケーションだったり、ビジネススキルだったりをちゃんと持っていれば、全く問題なく別のところでも使えます。

理学療法士、作業療法士だから自費で何かをやるとか、起業するとか、転職するとかの本人の希望は、確かに重要ですが、自分の能力が本当にその分野で通用するかという分析がもっと重要です。

欧米では、学校や企業にもキャリアカウンセラーがいます。日本ではキャリアカウンセラーの役割は、そういったことに熱い上司がほとんどやっていますが、ほとんどの職場にはそういった上司はいません。

欧米ではキャリアカウンセラーが社内にいますし、また、管理職になるためにはキャリアカウンセラーの勉強しなければならない。

キャリアカウンセラーの支援が得られないことも原因で、自分らしさを伴った働き方が難しいのが日本社会であり、かつ医療・介護業界であると考えています。
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  高木綾一先生の経歴

【主な略歴】

1999:帝塚山大学 教養学部 卒業

2002:関西医療学園 理学療法学科 卒業

2008:大阪教育大学大学院 教育学研究科 修了

2002-2007:医療法人寿山会 喜馬病院 リハビリテーション部(2006年よりリハビリテーション部部長)

2008-2014:医療法人寿山会 法人本部(2008年より法人本部長)

2014-現在:株式会社WorkShift代表取締役

2015-現在:関西医療大学 保健医療学部 理学療法学科 助教

【資格等】

理学療法士・認定理学療法士(管理・運営)・3学会合同呼吸療法認定士・修士(学術)

【株式会社Work Shift】

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