しかし、癒着に対する治療を適切に行うことで、ほとんどの不調は解決できます。今回は、その中でも「仙腸関節痛」について記載したいと思います。
広島国際大学リハビリテーション学科 教授
蒲田和芳
■ 産後の仙腸関節痛の病態
出産後の仙腸関節痛は、妊娠後期から出産にかけて骨盤が弛むことによって起こると考えられています。しかし、不安定性だけに起因するわけではなく、不安定性を伴わない骨盤のマルアライメントによって痛みが引き起こされている例もあります。むしろ、本当に重度の不安定性によって痛みが続く例は非常に珍しく、まずはマルアライメントの治療を進め、どうしても症状の改善が得られないときに不安定性によって起こっている痛みであることがわかります。さらに、マルアライメントや不安定性の治療を行っても、症状が変化しない場合もあります。
以上をまとめると、産後の仙腸関節痛をメカニズムから分類すると以下のようになります。
A:骨盤輪のアライメントに起因する症状
B:仙腸関節の不安定性に起因する症状
C:上記のいずれの治療によっても改善しない症状
これらについて順次説明しましょう。
■ A:骨盤輪のマルアライメントに起因する症状
妊娠中であれ産後であれ、骨盤マルアライメントとして図1のようなパターンがあります。一つの面上のみでのマルアライメントもありますが、その多くは複数の面での歪みが組み合わさっています。
図1:骨盤マルアライメントのパターン
産後の骨盤マルアライメントの中で、最も多いのは前額面の「下方回旋」です。これは、主に中殿筋や小殿筋の癒着によって大転子・腸骨稜間距離が短縮することによって生じます。もしくは骨盤底筋のうち、横方向に向く浅会陰横筋の過緊張によって坐骨結節が接近していることに起因する場合もあります。いずれの場合も、立位では坐骨結節が接近し、腸骨稜が外側に引かれるため寛骨は下方回旋します。寛骨下方回旋によって、仙腸関節上部に離開ストレスが生じています。これらに周産期の仙腸関節不安定性が加わると、仙腸関節上部の開大が更に増大してしまい、仙腸関節痛が重症化することがあります。
中殿筋や小殿筋の癒着は、産前産後の側臥位での睡眠が大きな原因であると考えられます。通常、上殿神経周囲に強い癒着があるので、神経と中殿筋間をリリースするだけで、かなり緊張を弛めることができます。しかし、それでは不十分で、小殿筋と関節包との間の癒着をリリースする場合もあります。
骨盤底筋の癒着は、座位での生活での慢性的な圧迫や出産時の骨盤底筋の損傷(会陰切開)後の瘢痕などの影響が考えられます。実際には出産経験のない方でも、骨のように固くなっていることがあります。その過緊張には、会陰神経や背陰核神経などと浅会陰横筋などとの癒着が関与していることが多く、これらの神経と筋を丁寧にリリースしないと緊張は解消されません。
このことを理解した上で、大腿筋膜張筋、中殿筋、小殿筋、関節包へとリリースを進めていきます。ときには中殿筋と小殿筋の間に外側広筋を支配する大腿神経の枝が挟み込まれることもあります。小殿筋遠位で大転子との間の癒着が股関節内転制限を頑固なものにしていることがしばしば経験されます。
運動療法ではこれらの癒着を剥がすことはできません。また、骨盤安定化筋を鍛えても24時間骨盤を引き続ける癒着による過緊張筋に勝る効果を得ることは不可能です。このため、必然的に治療の最初の段階は組織間リリースによる癒着の治療ということになります。最初に癒着の治療を行い、その後筋活動により安定化を図ります。特に大殿筋によるforce closure、腹横筋下部の持続収縮による寛骨上方回旋位保持が重要となります。
ちなみに、寛骨下方回旋を直すと腸骨稜が内側に接近し、ウエストが細くなります。よって、妊娠前の体型を取り戻すことは骨盤の安定性を取り戻すことと同じ意味を持ち、将来に向けて仙腸関節障害を予防するためにも産後早期に取り組むべき重要なポイントであると捉えられます。
■ B:仙腸関節の不安定性に起因する症状
私が経験した中で、仙腸関節の不安定性が強くて手に負えない症例は経験したことがありません。マルアライメントの原因因子である癒着をすべて取り除き、force closureに必要な筋群のトレーニングをしっかりと行うと症状は確実に改善してきます。
不安定性が著明な場合には、リリースによるリアライン(骨盤の理想的なアライメントを獲得すること)が即時的に得られたとしても、数時間から数日の間にマルアライメントが再発することがあります。このような場合は、理想のアライメントに骨盤を固定した状態で、その周囲の筋活動を反復し、理想のアライメントを筋に覚え込ませるようなスタビライゼーションが必要になります。これはマリガンコンセプトにも通じる考え方ですが、筋による理想のアライメントの「学習」が重要となります。
理想の骨盤アライメントを保つためには、何と行ってもリアライン・コアSI(https://realine.info/realine/core)が役に立ちます。10分間程度のエクササイズを1日数回行い、マルアライメントの状態ではなく、理想のアライメントの状態を骨盤周囲の筋に学習させていきます。これを2-3週間続けると、1日数回が1日1回、週に2-3回へと、リアライン・コアの使用頻度を下げていくことも可能になります。つまり良好なアライメントを保持できる時間を伸ばしていくことが可能です。
不安定性の程度によっては、リアライン・コアから完全に離脱するには数ヶ月かかるかもしれません。しかし、この手順で骨盤輪不安定性を克服できることを知っておくと、いざというときに必ず役に立ちます。
■ C:上記のいずれの治療によっても改善しない症状
マルアライメントの治療後に良好なアライメントが得られても症状が変わらない場合、またリアライン・コアSIによって骨盤の理想的なアライメントに保持しても症状が変わらない場合が稀にあります。このような場合は、骨盤アライメントとは無関係な疼痛のメカニズムを探索する必要があります。代表的なものとして、上殿皮神経や上殿神経、下殿神経といった仙腸関節周囲の神経の癒着によって起こっている疼痛が挙げられます。これらのほとんどは、「精密触診(https://realine.info/seminar#Seminaer_Palpation)」の技術を用いて疼痛発生源を特定し、その部分の癒着をリリースすることで解決されます。
■ 「産前・産後ケア無料セミナー」(札幌)開催要項
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6.講師: 蒲田和芳(広島国際大学)
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8.参加費: 無料
9. 受講登録:以下にご入力ください。
10.参考(対象となる症状)
<頭頚部> 偏頭痛・眼精疲労、項部痛・肩こり
<腹部・胸郭> 胸郭可動性低下、胸郭挙上位、腹直筋離開(軽度)、腹筋群過緊張、
腹横筋癒着(胃、膀胱、子宮との癒着を含む)、乳腺症
<骨盤内臓> 膀胱下垂、膀胱・子宮癒着、生理痛、便秘
<骨盤底筋> 骨盤底筋機能不全、尿もれ、膣弛緩症
<腰背部痛> 肩甲背神経痛、多裂筋・棘突起癒着、急性腰痛後の多裂筋・腸腰靭帯癒着
<骨盤帯痛> 恥骨部痛、仙腸関節痛、上殿神経痛
<下肢> 下肢浮腫、下肢神経症状
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■ その他の「産前・産後ケアに役立つセミナー」一覧
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リアライン・ブログ「産前・産後ケアに興味のある方にお勧めのセミナー一覧」
■ 筆者・セミナーご紹介
筆者:蒲田和芳
・広島国際大学総合リハビリテーション学部 リハビリテーション学科 教授
・株式会社GLAB(ジーラボ) 代表取締役
・一般社団法人日本健康予防医学会 副理事長
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https://realine.info/seminar/cspt
長期間の「拘縮」や「可動域制限」に対しても、確実に可動性を回復させるための徒手療法技術ISR(組織間リリース®)セミナー2019も受講者お申込み受付中です。
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■ 関節疾病の治療と進行予防のスペシャリストになるためのサイト
▼ ReaLine.infoのサイトはこちら
関節疾病の治療を進めるには、一時的な症状改善ではなく、メカニズムを含めた根本からの治療が必要です。メカニズムを解決することにより、効果を長続きさせ、再発しにくい状態に回復させることが可能となります。関節疾患の原因へ根本から働きかけるリアライン・コンセプトは、足関節から膝、股関節、胸郭、肩、肘など全身の関節に適用できます。
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