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健常者の口腔機能評価を学内教育で取り入れるべき【奥住啓祐】

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第355回のインタビューはSEO財団の言語聴覚士、奥住啓祐先生。臨床の他に、医療介護専門職を対象とした技術研修や、介護保険関連の第3者評価・調査事業など幅広く活動している。

僕がSTなのに、PTの講習会に参加したわけ

 

ー 奥住さんは「全身から口腔顔面機能を診る」といった視点で講習会事業をされていますが、身体を触るSTはなかなか珍しいと思います。奥住さんが最初興味を持ったきっかけを教えてください。

 

奥住 僕の最初の勤務先はボバース病院で、PT・OTと一緒に新人教育を受けるという機会がありました。仲の良い同期のPTが身体のことを一緒に勉強しようと業務後に誘ってくれたことが最初のキッカケです。

 

僕自身はとても筋緊張が高まりやすい身体の特徴でしたが、逆に筋緊張が低いセラピストもいて、たとえば寝返りの仕方など、自分があたりまえに行っている活動が人によって全然戦略が違うというところに面白さを感じていました。これは今の口腔機能をみる視点にも繋がっていると思います。

 

同期と一緒にハンドリングの練習をしたり、PTの先生の講習会に参加したりして、当時は口腔よりも変化が分かりやすかったため、まずは身体のことを勉強していきました。ちょうど、今から約10年前、リハビリ関係のセミナーブームが巻き起こっていた時期です。

 

一緒に学ぼうと誘って、きっかけを作ってくれた皆には本当に感謝しています。

 

基本的にはPTのための講習会ですので、受講者の中に恐らく私以外の言語聴覚士はいない状況でした。それでも講習会に参加し続けていたのは、身体を動かすことで得られる即時的変化を目の当たりにできることが新鮮で面白かったからです。

 

ある講習会ではひとつのアクションに対して、何が良くて何が合わなかったのか、その都度、その都度振り返っていきながら、長期的な評価にもつなげていくという考え方をされており、これはSTにとっても大切な視点だと感じました。このことは今の活動のなかでも大切にしているポイントの一つです。

 

ー PTの講習会の内容をSTにどのように応用していったのですか?

 

奥住 PTは効果検証作業によく可動域や筋力等を確認されますが、僕は口腔領域でも同じように効果検証を行いました。例えば、脊柱に対してアプローチをした時にPTさんが片脚立ちを評価するように、開口の可動域や舌の筋緊張の変化を確かめたりしていました。

 

さらにここ数年、歯科の先生方と関わるなかで、口腔器官の変化は全身の筋緊張等にも影響することが分かりました。

 

自分で体験してみるのが早いのですが、口腔内から全身へ影響しうる因子に対して、例えば口腔内に人工物がある場合等に、その人工物と頬の空間を徒手的につくると、同側の僧帽筋や上腕二頭筋、下腿三等筋の筋緊張等が変化することがあります。

 

特に後天的に口腔から全身へ影響を及ぼしうるエピソードはいくつかあり、口腔内を観察した際に、それらが観察される場合は口腔から全身への影響も含めて評価を試みます。

 

ここ数年、上下肢や体幹なども含めてみているSTさんが増えていると感じます。これらはとても大切なことで、積極的にPT・OTと連携していくべきポイントです。

 

ただし、姿勢ばかりに時間をとられていては本末転倒です。「言語聴覚士が口腔をみなかったら誰がみる」という想いで、口腔顔面領域を軸にしながら、全身を含めてみるように心がけています。

 

またPT・OTに「口腔もPhysical」という視点で考えてもらい、STと連携しやすくなるようSNSでの発信も行っています。

 

声優さんレベルの高い口腔機能でもさらに機能を高められるSTになってほしい

 

ー 具体的に、普段臨床でどのように患者さんを評価しているか、過去に印象に残ったエピソードあればお聞かせいただきたいのですが?

 

奥住 口腔から全身への影響ということで印象的だったのでは、脳梗塞発症10年以上の方で、話しにくさはあるけれど、どちらかという麻痺側の上肢の動きや歩行が生活に影響している方がいました。

 

その人の口腔内を見たときに、「(先ほどの全身へ影響を及ぼす因子があり)これは口腔からもできることあるな」と思って、ご自身で口腔内をセルフケアしていただいたところ、一度のセルフケアで麻痺側上肢の巧緻性や歩行が抜群に変わったことがありました。

 

 

はじめは手の対立運動をするのに前腕の回内外が出てしまっていました。口腔のセルフケア後の動画では回内しなくても対立運動ができています。

 

その方の場合は口腔からの影響が強く、セルフケアで動きがスムーズになったことで、ご本人が一番驚かれ、喜ばれていました。

 

口腔機能の評価の際は、生まれてからどの様な機能を獲得してきたのか、それに伴う経験の過不足、そして成長する過程で生じる後天的な口腔が関わるエピソード、そして疾患による影響について、口腔領域を観察するときに整理して捉えるようにしています。

 

特に「生まれてから獲得した機能とバラツキ」という視点は、月に数日、小児歯科で歯科×助産師×言語聴覚士のチームで、生後数週の赤ちゃんから中学生までの子どもたち(診断の有無に関わらず)の個別ケア、そしてご両親のサポートを行うなかで今も磨いています。

 

赤ちゃんから高齢者の方までみていると、目の前の方の口腔機能の課題がいつ生じた課題なのか推測しやすくなります。また、障害のある子どもたちの口腔をみていると、障害があることによる影響に加えて、健常な子ども達にもある口腔の課題を合わせ持っていることもよくあります。これらを整理することで、アプローチの視点も変わってきました。

 

 

ー 口腔って、健常者を相手にアプローチしても変化が出るんですか。

 

奥住 勿論です。歩き方が人によって違うように、口腔機能にもバラツキがあります。もちろんバラツキがあることは悪いことではなく、普通のことです。バラツキがあるなかで、その方の目標に応じて、口腔機能は伸ばしていけます。口腔機能も生涯発達です。

 

僕は、健常者でもこれだけバラツキがあるということ、自分や友人の口腔機能が高いのか低いのかを評価できる能力を学校教育の中で身につけるべきだと思っています。今年から毎月、口腔機能について、機能のバラツキやセルフケア等をテーマにオンラインでもお話していますが、STの方達からもよく、学生の時に知りたかったといわれます。

 

健常者における機能のバラツキがみえると、声優さんであったり歌手の方であったり、口腔機能の高い人に対しても評価する視点が分かります。ぜひプロの方にも改善点を提案できるレベルを目指して欲しいです。

 

例えば養成校で40人のクラスだとしたら40人それぞれの発話の仕方、飲み込みの仕方を友達同士で評価し、自分の口腔機能の変化を体験できると、その経験は臨床に出た時にもきっと役に立ちます。

 

年齢関係なく3割以上の方が誤った嚥下パターンをしているという研究報告もあり、若い時はそれでも代償的に飲み込めていたのが、高齢になった時に代償的に使用していた筋機能が低下するなどの理由で、もともと持っていた嚥下面のリスクが顕在化する方もいるかもしれません。

 

疾患によって生じた嚥下機能の問題なのか、その人がもともと獲得していた嚥下パターンなのかということも考えられると、リーズニングの幅も広がります。

 

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健常者の口腔機能評価を学内教育で取り入れるべき【奥住啓祐】

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