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「はじめに」と「考察」だけでは不十分な理由【対馬栄輝】

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第360回のインタビューは、弘前大学 理学療法学科教授 対馬栄輝先生。「理学療法とデータサイエンス」について伺いました。

統計学を学び始めたキッカケ

 

ー 理学療法士になろうと思ったキッカケから教えていただけますでしょうか。

 

対馬 私が理学療法士になったのは1988年ですので、その頃はまだ理学療法士人口が1万人にも達してない頃で、私も受験するまでは知りませんでした。

 

理系が好きだったものですから、「理学」とついているから受けようというくらいの気持ちで、受験の2週間ぐらい前にどんな職業か調べたほどです。別の大学を志望していましたが落ちてしまい、滑り止めで受けていた弘前大学の医療技術短期大学部理学療法学科に通うことになりました。

 

勝手に数学を医学に応用する仕事だとイメージしていて、「入ってみてダメだったらすぐ辞めよう」と思って、とりあえず通うことにしました。

 

ですので、3年間ろくに理学療法には興味がなく、実習に行ってもこういう状態なので、「意欲が感じられない」とか指摘されていましたよ。

 

ー そこまで意欲のある学生ではなかったとのことですが、アカデミアの道に進んだのはどういった理由だったのでしょうか?

 

対馬 一つは、卒業研究でデータ解析して論文を書くということを経験して、こちらの道を突き詰めていくのであれば、理学療法も悪くないなと思ったからです。

 

もう一つの理由としては、病院に入職してカンファレンスのときに、他の職種から「この患者さんは3ヶ月後歩けるようになりますか?ADLはどれぐらいまでいきますか?」と聞かれたときに、感覚的にしか答えられないのはいい加減だと思ったからです。

 

研究手法を使って客観化して提示すればもう少し納得してもらえるんじゃないかというところから始まり、カルテに記載してある定期的な測定結果から研究を始めたというのが最初です。

 

ー 対馬先生は、統計学を専門とされていますが、この分野に対して苦手意識を持っている人も多い分野だと思います。

 

対馬 私も、もともとは「何の役に立つんだろう」と思っていましたし、研究を始めた頃は、指導されるがままに統計を使うだけでした。

 

しかし、ステップアップしていって、全国学会で発表するようになると「なぜこの手法を選んだのですか」と聞かれるようになるので、それから独学で始めた経緯となります。

 

もう一つの理由としましては、『脳卒中の機能評価と予後予測(著)中村隆一』という本があるのですが、その本では多変量解析を多く用いていて、脳卒中以外の他の疾患にもこの手法をいかせないかと思ったからです。

 

ー 最近は、EBMに関する教育が理学療法領域でも充実してきていますよね。研究法はやはり理学療法士全員が学ぶ必要があると思いますか?

 

対馬 患者さんやそのご家族に対してもそうですし、他の医療職に対してもそうですが、(自分のやっていることを)ある程度根拠をもって誰かに説明をするには、結果に関するデータを持って示さないといけないと思っています。

 

そのときに、論文を正しく解釈して、正しく咀嚼できるかがとても重要になってきます。

 

論文になっているものでも、質の良い研究もあれば、悪い研究も混在しています。なので、論文の”はじめに”と”考察”だけを読んで「全て間違いない」と解釈していると、その書いた人の主観にどうしても影響を受けてしまいます。

 

ですので、研究をしない人でも”何が正しくて何が間違っているか”ということを判断するためにも研究の方法論は知らないといけないというのが私の考えです。

 

臨床におけるデータの活用例

ー 実際に、先生の臨床でデータが役に立ったエピソードを教えていただけますか?

 

対馬 当時は近位部骨折の患者さんを担当した時に、90歳を超えているとリハビリをしても歩行再獲得は難しいという考えのもと、ある程度の術後管理指導を終えたらなるべく早く退院してもらう方針でした。

 

高齢になるほど身体機能の回復が難しいという論文がほとんどでしたので、医師も医療費の無駄にならないようにと考えていたんですね。

 

でも実際に患者さんから話を聞いてみると、怪我をする前は自転車に乗るほど元気だったとかいう人もいるので、私としては身体能力を調べて回復の見込みがあるのであれば、高齢であってもリハビリをしてから退院する方がいいんじゃないかと思っていました。

 

そこで介入して実際に良くなる例があるというのをデータを出して、それを提示し「高齢でもこれだけ運動機能がある方には継続してリハビリを行うべきです」と説明することで、院内の術後プログラムが変わったということがありました。

 

ー データで示したからこそ医師に納得してもらえたと。

 

対馬 同様に、認知機能の低下した方で早めに退院した患者さんでも、退院後に外来に来ている患者さんに会うと、入院時と比べて話しの通りが良くなっていたり、歩行機能が上がっていたりすることを経験して、「認知機能が悪いからリハビリをしないで帰る」というのはどうだろうと思ったんですね。

 

そこで当院の、入院期間の長さと認知機能の関係を調べてみると、入院期間が短くなるほど認知機能が良くなる人が多いということが分かりました。

 

もちろん、一概に全員がそうというわけではありませんが、ある条件の人は早めに家に帰して環境を元に戻してあげることで活動量が上がってくると。

 

認知機能が悪い患者さんの予後が不良だという論文も、1000人規模の人数で見ていけば、個人個人は埋もれてしまいます。

 

そういった、根拠の元になっている研究デザインがどういうものかというのを読み取かなければ、そういったことに気づかず誤解釈に繋がってしまします。

 

ー それこそ「はじめに」と「考察」だけ読んでいては気づけないことですよね。

 

対馬 はい。そういうになります。

【目次】

第一回:「はじめに」と「考察」だけでは不十分な理由

第二回:理学療法の質は進歩していると言えるのか 

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「はじめに」と「考察」だけでは不十分な理由【対馬栄輝】

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