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一過性運動が認知機能に与える効果: なぜ半数の研究が効果を認めていないのか?

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過去20年間に渡って、一過性運動が認知機能に与える影響が盛んに研究されてきました。近年、これらの研究のメタ分析注1)が行われており、数十分程度の適度な運動(一過性運動)の後には認知機能が一時的に向上することが示されています。しかしながら、個々の研究を精査すると、約半数の研究が一過性運動のプラスの効果を認めていない現状にあります。

中京大学 教養教育研究院 紙上(かみじょう)敬太 准教授、神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 石原暢 助教らの国際共同研究グループは、この矛盾解消に向けて「どんな人に効くのか?」、「どんな認知機能に効くのか?」といった視点から、IPDメタ分析注3)を行いました。その結果、一過性運動が認知機能に与えるプラスの効果は、①もともと認知機能が低い人ほど(もともと認知テストの成績が低いほど)大きいこと(図1)、②前頭前野機能に対して大きいわけではないことが明らかになりました。

本研究の成果は、2021年6月18日付で「Neuroscience and Biobehavioral Reviews」オンライン版に先行公開されています。

 

図1. もともとの認知機能と運動による認知機能改善の大きさの関係

縦軸は認知機能の改善の大きさ(認知テストの正答率の変化)、横軸はもともとの認知機能(もともとの認知テストの正答率)を示している。また、赤線は運動条件、青線は運動なしの比較対照条件を示している。運動の効果(赤線と青線の差)が、もともと認知機能が低かった人ほど大きいことがわかる。

これまでの研究の多くで用いられてきた前頭前野機能を評価する認知テストは、難易度が高いものです。本研究結果に基づけば、認知テストの難易度が高かったため、すなわち、もともとの認知テストの成績が低かったため、表面上は、運動のプラスの効果が前頭前野機能に対して大きく見えていたと考えられます。このような認知機能の個人差や認知テストの難易度を考慮していない研究が多く、これが先行研究の矛盾に繋がっていると考えられます。つまり、認知テストの選択・設定が適切であれば、一過性運動のプラスの効果を検出できると見ることができます。

今後の研究では、認知機能の個人差や認知テストの難易度を考慮することにより、研究間の矛盾が解消されることが期待されます。また、これまで注目されてきた前頭前野機能以外の認知機能に注目することにより、本研究分野のさらなる発展が期待されます。

 

ポイント

  • ・近年のメタ分析注1)(既存の知見を統合する統計的な手法)により、数十分程度の適度な運動(一過性運動)の後には認知機能が一時的に向上することが示されています。また、この運動のプラスの効果は前頭前野注2)機能に対して大きいことが示唆されています。
  • ・しかしながら、個々の研究を精査すると、約半数の研究が一過性運動のプラスの効果を認めていない現状にあります。
  • ・このような研究間の矛盾を解消することを目的に、「どんな人に効くのか?」、「どんな認知機能に効くのか?」といった視点から、IPDメタ分析注3)を行いました。
  • その結果、もともと認知機能が低い人ほど一過性運動のプラスの効果(認知機能の改善度)が大きいことが明らかになりました。
  • また、一過性運動の効果は前頭前野機能に対して大きいわけではないことが示されました。

 

用語解説

注1)メタ分析

「分析の分析」を意味し、独立して実施された複数の先行研究の統計量を、統計的な手法で統合する分析。「これまでの研究を統合すると何が言えるのか?」を明らかにする分析方法。

注2)前頭前野

脳の前の方(おでこのすぐ後ろ)にある脳部位。高次な機能を司る脳の司令塔と考えられている。

注3)IPDメタ分析

個人単位データ(individual participant data: IPD)を用いたメタ分析。

 

論文情報

タイトル

“The effects of acute aerobic exercise on executive function: A systematic review and meta-analysis of individual participant data”

DOI:10.1016/j.neubiorev.2021.06.026

著者

Toru Ishihara1, Eric S. Drollette2, Sebastian Ludyga3, Charles H. Hillman4, Keita Kamijo5

1 Graduate School of Human Development and Environment, Kobe University、Japan

2 Department of Kinesiology, University of North Carolina Greensboro, United States

3 Department of Sport, Exercise and Health, University of Basel, Switzerland

4 Department of Psychology, Department of Physical Therapy, Movement, & Rehabilitation Sciences, Northeastern University, United States

5 Faculty of Liberal Arts and Sciences, Chukyo University, Japan

掲載誌

Neuroscience and Biobehavioral Reviews

 

詳細▶︎https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_06_23_01.html

 

注)紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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