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睡眠休養感がカギを握る:健康維持・増進に役立つ新規睡眠指標の開発

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国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部の栗山健一部長、吉池卓也室長、学校法人日本大学医学部精神医学系精神医学分野の鈴木正泰教授、公立大学法人埼玉県立大学保健医療福祉学部健康開発学科の有竹清夏准教授らの研究グループは、厚生労働科学研究費補助金研究事業において、朝の目覚めの時に生じる休まった感覚、すなわち「睡眠休養感」が成人の健康維持において重要であることを、米国睡眠研究資料(National Sleep Research Resource: NSRR)に含まれる疫学データを用いて明らかにしました。本研究成果は 2022 年 1 月7日 19 時(日本時間)に、英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。 

 

ポイント

  • ・適切な睡眠時間の確保は健康維持に重要と考えられていますが、睡眠時間が充足していても睡眠の質が健康維持に関わるのかはわかっていませんでした。
  • ・睡眠に費やした時間の長さと同時に、睡眠の質を示す指標である「睡眠休養感」を測定し、将来の健康転帰との関係を調べたところ、1)働き盛り世代では睡眠時間が短くかつ睡眠休養感のない睡眠、2)高齢世代では寝床で過ごした時間が長くかつ睡眠休養感のない睡眠、が将来の総死亡リスクの増加と関連していました。
  • ・睡眠に費やした時間が睡眠本来の目的である休養に適切に反映されたかを見積もることが、健康維持に資する重要な指標となることが示唆されます。

 

発表内容

なぜ研究が行われたか

睡眠は私たちの体内環境を最適な状態に保つのに重要な役目を果たします。例えば、仕事が忙しく平日に十分な睡眠時間を確保できないと、時間に余裕のある休日に睡眠時間が長くなります。何時間の睡眠が健康維持に必要かは個人差も大きく、明快な答えはいまだに得られていませんが、おおよそ 6~9 時間程度と考えられています。

これは、睡眠時間の長さを主観的に評価した多くの疫学調査に基づいた結論ですが、この調査法にはいくつかの弱点があります。

 

1)睡眠時間と床上時間を明確に区別できない

私たちは睡眠をとるために寝床を使いますが、この寝床で過ごす時間(床上時間)のうち、一部の時間は覚醒した状態で過ごしています。多くの場合、寝付くまでに一定の時間がかかり、朝目覚めるまでに、自覚できないものも含め覚醒状態が複数回現れます。つまり、床上時間は「睡眠の機会(供給)」を示し、睡眠時間は個人の「睡眠の必要性(需要)」を示すと言い換えることができます。床上時間と睡眠時間はいずれも休息の量的な指標ですが、このように意味合いが異なることから、両者を区別して評価する必要があります。

2)主観的な睡眠時間は客観的な睡眠時間としばしば一致しない

また、私たちは床上時間と睡眠時間をしばしば混同し、普段何時間眠っているかという質問に対して、床上時間に基づいて回答することが少なくありません。さらに、これらを別々の質問に分けて評価した場合でも、主観的に評価した睡眠時間は、脳波や活動量計を用いて客観的に測定した睡眠時間との間に、多くの場合ずれが生じることが知られています。

3)睡眠充足度が考慮されていない

そして、客観的な睡眠時間を評価したとしても、同じ長さの睡眠時間が各個人に同等の回復効果をもたらすとは限りません。ある人は 6 時間の睡眠でも十分だが、別の人は 8 時間の睡眠であっても十分ではないこともまれではありません。「睡眠休養感」はこの睡眠充足度を反映すると推測されることから、睡眠の量(睡眠時間)とともにこれを評価することで、休息と健康の関係性をより適切に理解できるようになります。

 

どのように行われたか

そこで研究チームは、NSRR のうち、40 歳以降の米国地域住民を対象とし、平均約 11 年にわたり参加者の健康状態を追跡した多施設前向きコホート研究(Sleep Heart Health Study)のデータを用いて、上記課題の解決に取り組みました。

 

1)睡眠時間と床上時間を別々に評価した

睡眠時間と床上時間の関係性は世代により大きく異なります。働き盛りの中年世代は、社会活動に多くの時間を費やす結果として睡眠不足に陥りやすく、睡眠機会の「供給不足」の状態になりがちです。他方で、社会参加の機会が減り時間的にゆとりが生まれる高齢世代では、加齢性に減少する睡眠の必要性に対して睡眠機会が過剰となる、「供給過多」の状態になりやすいことが知られています。このため、二つの世代を区別して睡眠と健康の関係を評価しました。

2)睡眠時間を客観的に評価した

次に、在宅睡眠ポリグラフと呼ばれる方法を用いて、参加者の自宅で睡眠時間と床上時間を客観的に測定しました。客観的な睡眠時間と床上時間は、四分位範囲(25~75 パーセンタイル)を基準として長短を定義しました。

3)睡眠充足度の指標として「睡眠休養感」を用いた

さらに、睡眠時間や床上時間と健康の関係が睡眠充足度にどのように影響を受けるのかを評価しました。在宅睡眠ポリグラフで睡眠時間と床上時間を評価した翌朝に、睡眠により得られた休養感を 5 段階で評定してもらい、2/3 点をカットオフとして睡眠休養感の有無を定義しました。

 

何がわかったか

その結果、睡眠休養感の有無により、世代間で睡眠と健康の関係が明確に異なることが明らかになりました。

 

1)睡眠時間・床上時間と総死亡転帰の関係

働き盛り世代

働き盛り(中年)世代では、長い睡眠時間が将来の総死亡リスクを減少させ、短い睡眠時間が将来の総死亡リスクを増加させました(図 1)。しかし、床上時間と総死亡リスクの間に有意な関連はありませんでした。

 

図1.働き盛り世代における睡眠時間と総死亡リスクの関係

 

 

高齢世代

高齢世代では、長い床上時間が将来の総死亡リスクを増加させました(図 2)。しかし、睡眠時間と総死亡リスクの間に有意な関連はありませんでした。 

 

図2.高齢世代における床上時間と総死亡リスクの関係

 

2)睡眠休養感による睡眠時間・床上時間と総死亡の関係への影響

働き盛り世代

働き盛り(中年)世代では、睡眠休養感のない短い睡眠時間は総死亡リスクを増加させました(図 3)。逆に、睡眠休養感のある長い睡眠時間は総死亡リスクを減少させました。 

 

図3.働き盛り世代における睡眠休養感、睡眠時間、および総死亡リスクの関係

 

 

高齢世代

高齢世代では、睡眠休養感のない長い床上時間は総死亡リスクを増加させました(図 4)。

 

図4.高齢世代における睡眠休養感、床上時間、および総死亡リスクの関係

 

 

以上の関係性は、総死亡リスクや睡眠状態に影響する既知の因子(身体疾患、死期が近いこと、抗うつ薬や睡眠薬の服用、不眠症状、レム睡眠出現率など)と独立して示されました。

 

今後の展望

睡眠休養感は簡便に評価可能な睡眠指標です。そのため、健診や保健指導、国民健康・栄養調査といった、国民の健康を定期的に評価する場面に採用することで、国民の健康維持・増進を図る上で有用な指標となります。本知見は米国で実施された疫学研究に基づくものであり、本邦における質の高い疫学研究に基づく知見の創出が求められます。

 

用語の説明

1)睡眠休養感:夜間の睡眠により休めた主観に基づく睡眠の質指標であり、生理的な睡眠充足度を反映すると推測されます。本研究では、一晩の睡眠による休養感を得点化して用いました。

2)睡眠時間:眠っていたと感じる主観的時間長、もしくは測定機器により睡眠と判断される客観的時間長により表現されます。本研究では、在宅睡眠ポリグラフで測定した客観的な睡眠時間を用いました。

3)床上時間:睡眠をとるために寝床で過ごした時間の長さ、つまり睡眠の機会を表し、原則として睡眠時間よりも長く表現されます。本研究では、睡眠時間と同様に在宅睡眠ポリグラフで測定した床上時間を用いました。

 

論文情報

・ タイトル:Mortality associated with nonrestorative short sleep or nonrestorativelong time-in-bed in middle-aged and older adults

・ 著者:Takuya Yoshiike, Tomohiro Utsumi, Kentaro Matsui, Kentaro Nagao, KaoriSaitoh, Rei Otsuki, Sayaka Aritake-Okada, Masahiro Suzuki, Kenichi Kuriyama

・ 雑誌名: Scientific Reports

・ DOI 番号:10.1038/s41598-021-03997-z

 

研究経費

本研究結果は、厚生労働科学研究費補助金(研究課題「健康づくりのための睡眠指針 2014」のブラッシュアップ・アップデートを目指した「睡眠の質」の評価及び向上手法確立のための研究」及び「適切な睡眠・休養促進に寄与する「新・健康づくりのための睡眠指針」と連動した行動・習慣改善ツール開発及び環境整備」)の支援を受けて行われました。 

 

詳細▶︎https://www.ncnp.go.jp/topics/2022/20220224p.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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