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パーキンソン病の認知症予防への第一歩 -認知症症状緩和とQOL改善へのドネペシルの効果-

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【発表のポイント】

・重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病注 1 患者に対して薬剤「ドネペジル」を投与することで、認知症の発症を予防できるかを検証した。

・試験薬投与開始から 4 年間での認知症発症は試験薬群で 6.8%・プラセボ注 2 群では 12.2%だったが、統計学的有意差は見いだせなかった。

・試験薬投与群では 4 年後の認知機能検査成績が良好で、便秘・めまい・疲労感といった非運動症状が少なかった。

【概要】

パーキンソン病は、運動障害や認知症などを伴う、高齢者に非常に多い神経疾患です。パーキンソン病ではドパミン神経の障害によって運動障害を生じますが、アセチルコリン神経にも障害を認めることが近年明らかとなっており、このアセチルコリン神経の障害が認知症の主要な原因と考えられています。東北大学大学院医学系研究科高齢者認知・運動機能障害学講座の武田篤教授と仙台西多賀病院の馬場徹パーキンソン病センター長らのグループは、パーキンソン病診療を専門とする全国 21 施設の専門家と共同で、パーキンソン病の認知症予防を目指した多施設共同長期前向き研究を行いました。本研究では認知症リスクが高いとされる重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対し、アセチルコリン神経の働きを高める薬剤「ドネペジル」を 4 年間投与し、認知症予防効果を検証しました。その結果、認知症予防効果は証明できませんでしたが、一定の認知機能改善効果や一部の非運動症状が改善する可能性が示されました。今後はより認知症リスクが高い群に絞って解析することで、パーキンソン病における認知症の効果的な予防法の開発を目指します。

本研究結果は、2022 年 7 月 14 日に英国の国際医学雑誌『eClinicalMedicine』に掲載されました。

【研究内容】

パーキンソン病はドパミン神経が障害されることで動作緩慢や手足の震えといった運動症状が徐々に悪化する病気です。人口の高齢化とともに患者数が急激に増加しており世界的にも大きな問題となっています。パーキンソン病では運動症状以外にも嗅覚障害やレム睡眠行動異常症、自律神経障害、認知機能障害など、運動障害とは別の様々な症状を認めることが明らかとなっており、特に認知機能障害が重症化して認知症となった場合には、患者・介護者の生活の質が大きく損なわれ治療経過や生存率にも影響することから、早期診断・治療が求められています。近年、パーキンソン病における認知機能障害にアセチルコリン神経の障害が深く関わっていることが分かってきました。しかし、これまでのところパーキンソン病における認知症発症を予防する治療法はありませんでした。

東北大学大学院医学系研究科高齢者認知・運動機能障害学講座の武田篤(たけだ あつし)教授らの研究グループは、以前からパーキンソン病における認知症の発症予測に関する研究を続けており、パーキンソン病において重度嗅覚障害を認める場合に認知症を生じやすいことや、嗅覚障害の重症度がアセチルコリン神経の障害度と相関することなどを明らかにしてきました。そこで本研究では、認知症発症リスクの高い重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対してアセチルコリン神経の機能を高める薬剤である「ドネペジル」を早期から投与することで認知症の予防ができないか検証しました。

パーキンソン病診療を専門とする全国 21 施設の専門家との共同研究で、重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者 201 名をドネペジル投与群 103 名およびプラセボ群 98 名に分け、4 年間のドネペジル投与によって認知症発症を予防できたかを調べました(図 1)。ドネペジル投与群のうち 7 名(6.8%)およびプラセボ群のうち 12 名(12.2%)が 4 年以内に認知症を発症しましたが、認知症発症リスクに統計学的な有意差は見出せませんでした(図 2)。一方で、認知機能検査成績はドネペジル投与群がプラセボ群に比較して有意に良い結果を示しました(図 3)。その他、ドネペジル投与群ではパーキンソン病で良くみられる便秘・めまい・疲労感といった非運動症状が軽症となっていました(図 3)。アセチルコリン神経障害に着目して長期間の薬剤投与を試した研究は世界初であり、本研究の結果はパーキンソン病における認知症予防に向けての重要なヒントになるものと期待されます。今後は、より認知症リスクが高い群に絞った解析を追加することで、効果的な認知症予防法の開発を目指しています。

 

結論:

本研究では重度嗅覚障害を伴うパーキンソン病患者に対して 4 年間のドネペジル投与を行うことで認知症発症を予防できるかを検証し、有意な予防効果は示せませんでしたが、ドネペジル投与によって認知機能障害を含む非運動症状を改善できる可能性が示されました。今後さらに研究を進めることで、より確実な認知症予測・予防法の開発を目指していきたいと考えています。

 

支援:

本研究は厚生労働科学研究費、日本医療研究開発機構の支援を受けて行われました。

【用語説明】

注1. パーキンソン病:

中脳黒質ドパミン神経細胞の変性を生じる病気で、動作の遅さや手足の震えといった運動症状を特徴とします。この病気はアルツハイマー病についで頻度の高い神経変性疾患とされ、平成 26 年の統計では日本では 16万人以上の方が罹患しているとされています。近年、パーキンソン病ではドパミン神経だけでなくアセチルコリン神経が変性していることが明らかとなり、このアセチルコリン神経障害は嗅覚障害やレム睡眠行動異常症、軽度認知機能障害など様々な非運動症状と関係すると考えられています。

注2. プラセボ:

本物の薬と見分けがつかないが有効成分が入っていないもので「偽薬(ぎやく)」と呼ばれることもあります。本試験ではドネペジルの実薬(本物の薬)と全く同じ形・色・大きさの錠剤で、有効成分が入っていないものを用意してプラセボとして効果を比較しました。

図 1.他施設共同長期前向き研究の概要 

 

図 2.パーキンソン病認知症の発症頻度

 

図 3.ドネペジル投与による認知機能検査成績と非運動症状の改善

 

【論文題目】

Title: Effect of donepezil for dementia prevention in Parkinson’s disease with severehyposmia (The DASH-PD study): a randomized long-term placebo-controlled trial

Authors: Toru Baba, Atsushi Takeda, Aya Murakami, Tadashi Koga, Tatsuya Isomura,Etsuro Mori, and DASH-PD study group

タイトル:「重度の嗅覚障害を示したパーキンソン病に対するドネペジルの認知症予防効果の検証:プラセボ対照無作為化多施設共同長期試験」

著者名: 馬場徹、武田篤、村上亜弥、古賀正、磯村達也、森悦朗、DASH-PD 研究グループ

掲載誌: eClinicalMedicine 2022;51: 101571

https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(22)00301-7/fulltext

DOI: https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2022.101571

 

詳細▶︎https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/07/press20220721-03-parkinson.html

注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単に論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎません。論文で報告された新たな知見が社会へ実装されるには、多くの場合、さらに研究や実証を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。

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