ポイント
1,コロナ禍において、実際に病院に通って⾏う医学⽣の臨床実習が制限され、⼀部ではオンラインでの実施となりました。全国規模/世界規模で、オンラインでの臨床実習を余儀なくされたのは歴史上初のことで、それぞれの⼤学が、⼿探りの状態で⾏うこととなりました。
2,オンラインでの実習をより有効なものにするために、何が重要なのかを同定することに成功しました。
3,今後、オンラインでの実習を⾏う(あるいは⼀部取り⼊れる)際の、医学教育における重要な指標となることが期待されます。
概要
科学技術の進歩に伴い、オンラインによる医療教育への期待は⾼まっています。しかし、オンラインでの臨床実習(※1)カリキュラムの有効性を評価・予測する⽅法は未だありません。そこで、この予測モデルを構築するために、九州⼤学⼤学院医学研究院の菊川誠准教授らの研究グループは⽇本で横断的な全国調査を実施しました。
この横断的全国調査では、医学⽣に対するオンラインでの臨床実習オンラインでの臨床実習の効果にどのような教育的アプローチが関連するかを明らかにしました。
2020年5⽉29⽇から6⽉14⽇にかけて、⽇本国内の医学部78校の医学⽣を対象にアンケート調査を実施しました。内容は、(a)参加者のプロフィール、(b)オンラインでの臨床実習における各教育アプローチ(講義、⼩テスト、課題、プレゼンテーション、医師の診療⾒学、実技、多職種カンファレンスへの参加、医師とのディスカッション)の学習機会の回数、(c)オンライン実習における技術的トラブルの頻度、(d)教育成果測定(満⾜度、モチベーション、知識習得、技能習得、⾃習時間変化、チーム医療の重要性の理解)でした。
調査の結果、課題提出を除くすべての教育アプローチが、⾼い満⾜度・モチベーションと関連していました。また、課題提出と多職種カンファレンスへの出席を除くすべての教育アプローチが、多くの知識習得と関連していました。医師の診療⾒学、実技、多職種カンファレンスへの参加は、多くの技能習得と関連していました。課題提出のみが、コロナ禍で⾃習時間が増えることに関連していました。⼩テストを除く教育⼿法は、医療チームの重要性に対する深い理解と関連していました。オンライン実習における技術的な問題は、モチベーション低下、知識習得の制限、技能習得の制限、と関連していました。
教育者は、オンラインでの臨床実習においても、様々な教育的アプローチ、特に観察と練習を実施する必要があります。また、インターネットに関連する技術的な問題は、オンラインでの臨床実習の効果を低下させる可能性があるため、最⼩限にとどめなければなりません。
本研究成果は、2022年8⽉15⽇に⽇本内科学会の雑誌InternalMedicineに掲載されました。
【研究の背景と経緯】
コロナ禍において、⽇本だけでなく世界中で医学教育の臨床実習に制限がかかり、オンラインでの代替実習を⾏うことを余儀なくされました。これは未だかつてない事態であり、どのようなオンライン実習を⾏うのが有効か、専⾨家の意⾒は散⾒されましたが、具体的なエビデンスは明らかではありませんでした。そこで我々は、横断的全国調査を⾏うことで、医学⽣に対するオンライン臨床実習の効果にどのような教育的アプローチが関連するかを明らかすることを⽬的にして研究を⾏いました。
【研究の内容と成果】
2020年5⽉29⽇から6⽉14⽇まで、⽇本国内の医学部78校の医学⽣を対象にアンケート調査を実施しました。内容は、(a)参加者のプロフィール、(b)オンライン臨床実習における各教育アプローチ(講義の頻度、講義の回数、⼩テスト、課題、プレゼンテーション、医師の診療⾒学、実技、多職種カンファレンスへの参加、医師とのディスカッション)の学習機回数、(c)オンラインにおける技術的トラブルの頻度、(d)教育成果測定(満⾜度、モチベーション、知識習得、技能習得、⾃習時間変化、チーム医療の重要性の理解)でした。統計解析を⽤いて、(a)-(c)が(d)の有意な関連因⼦となるかどうかを調べました。
回答者2,640名のうち、2,594名(98.3%)が調査に協⼒し、最終的に、1,711名が組み⼊れ基準に合致しました。
調査の結果、課題提出を除くすべての教育アプローチが、⾼い満⾜度・モチベーションと関連していました。また、課題提出と多職種カンファレンスへの出席を除くすべての教育アプローチが、多くの知識習得と関連していました。医師の診療⾒学、実技、多職種カンファレンスへの参加は、多くの技能習得と関連していました。課題提出のみが、コロナ禍で⾃習時間が増えることに関連していました。⼩テストを除く教育⼿法は、医療チームの重要性に対する深い理解と関連していました。オンライン実習における技術的な問題は、モチベーション低下、知識習得の制限、技能習得の制限、と関連していました。
【結論】
教育者は、オンライン臨床実習においても、医師の診療・実技を中⼼とした様々な教育アプローチを実施する必要があります。また、インターネットに関連する技術的な問題は、オンラインクラークシップの効果を低下させる可能性があるため、最⼩限にとどめる必要があることが⽰唆されました。
【⽤語解説】
※1臨床実習:
医学⽣⾼学年が医師になるために、病院で実際に医療者や患者と接することで医療を学ぶ実習
【謝辞】
ウェイン州⽴⼤学⼩児神経科浅野英司教授のアドバイスをもとに統計解析を⾏いました。また、この研究はJSPSKAKENHI(#17H04097)の助成を受けて⾏った研究です。
【論⽂情報】
掲載誌:InternalMedicine
タイトル:EducationalApproachesThatEnhanceOnlineClinicalClerkshipDuringtheCOVID-19Pandemic.
著者名:KurodaN,SuzukiA,OzawaK,NagaiN,OkuyamaY,KoshiishiK,YamadaM,RaitaY,KakisakaY,NakasatoN,KikukawaM.DOI:10.2169/internalmedicine.9291-21
【参考】
2020年5⽉〜6⽉と2021年2⽉〜3⽉の期間に、⽇本の医学⽣を対象にソーシャルメディア調査も実施しました。前者を導出データセットに、後者を検証データセットに使⽤し、学⽣には以下の3つの領域で質問を⾏いました。
1)オンラインでの臨床実習における各教育⼿法(講義の頻度、⼀回の講義の時間、⼩テスト、課題、プレゼンテーション、医師の診療⾒学、実技、多職種間カンファレンスへの参加、医師とのディスカッション)から学ぶ機会を対⾯型臨床実習と⽐較
2)オンラインプラットフォームにおける技術的問題の頻度
3)満⾜度とモチベーション
2020年5⽉〜6⽉の期間に1,671名の医学⽣を対象とした横断研究において、満⾜度とモチベーションの多変量予測モデルに基づくスコアリングシステムを開発しました。このスコアリングを2021年2-3⽉に106名の医学⽣を対象とした横断調査で外部検証し、その予測性能を評価しました。
導出データセットにおける最終的な予測モデルは、8つの変数(講義の頻度、⼩テスト、プレゼンテーション、医師の診療の観察、実技、多職種間カンファレンスへの参加、医師とのディスカッション、技術的問題)を含むもので、導出データセットを⽤いて作成した予測モデルを検証データセットに適⽤しました。予測性能値は、満⾜度が0.69(感度0.50、特異度0.89)、モチベーションが0.75(感度0.71、特異度0.85)でした。
この調査の結果、学⽣の満⾜度とモチベーションに基づき、オンライン臨床実習カリキュラムの有効性の予測モデルを開発しました。このモデルにより、オンライン臨床実習カリキュラムの効果を正確に予測し、改善することが可能になります。
[論⽂情報]
掲載誌:PLoSOne
著者名:KurodaN,SuzukiA,OzawaK,NagaiN,OkuyamaY,KoshiishiK,YamadaM,KikukawaM
DOI:10.1371/journal.pone.0263182
詳細▶︎https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/821
注)プレスリリースで紹介している論文の多くは、単純論文による最新の実験や分析等の成果報告に過ぎました。 、さらに研究や実験を進める必要があります。最新の研究成果の利用に際しては、専門家の指導を受けるなど十分配慮するようにしてください。